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わたしは「カナシミ」でありたい。


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記事:ともり あお(文章術1day講座)
 
 
「ヨロコビって、ものすごく嫌な奴だな」と、息子が見ているTVを眺めながら思った。
 
ディズニー/ピクサーの「インサイド・ヘッド」では、ライリーと言う少女の頭の中が描かれている。喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、恐れの5つ感情を擬人化したキャラクターがライリーの感情を司令部からコントロールしており、そのうちのひとりが「ヨロコビ」だ。
 
ヨロコビは明るく陽気なリーダー格なのだが、明らかにカナシミを持て余していた。
「ライリーを幸せにしたい」という信条のもと、ヨロコビはカナシミをライリーの感情に関わる仕事から遠ざけるために、チョークで書いた円の中に立っているように指示したり、分厚いマニュアルを読むように指示したりする。しかも、「あなたはそこに立っているだけでいいの。私はこれから仕事だっていうのに、すごく楽でいいな。うらやましいよ!」とか「わあ、なんて面白そうなマニュアルなの!」とか、さもカナシミにメリットがあるかのように言うのだ。
 
ヨロコビが何故カナシミを嫌うのか。
それは、カナシミが出てくるとライリーが悲しむからだ。どんなすばらしい思い出も、カナシミが触れれば悲しい記憶に変わってしまう。ライリーの幸せを一心に願うヨロコビにとって、カナシミは願いを阻む邪魔者であり、その存在自体が理解不能なのだ。
 
物語の中盤に、こんなシーンがある。
司令部から吹き飛ばされたヨロコビとカナシミは、ビンボンというピンクの象に道案内をしてもらい、司令部を目指すことになった。ビンボンは幼いライリーの空想上の友達で、今もライリーと一緒に月に飛び立つ日を夢見ている。しかし、現実にはライリーはもう11歳で、ビンボンのことを忘れつつあるのだ。その事実に気付いたビンボンは、ショックのあま座り込んでしまう。
 
そんなビンボンに対し、ヨロコビは「大丈夫だよ、司令部に行けばなんとかなるよ!」と無責任に励ましたり、「じゃあこういうのはどう? 行き先をビンボンが指さして、みんなでそこを目指すゲーム!」と目的を果たさせようとしたり、「くすぐり屋さんは誰だ~!?」と誤魔化してみたり、変顔で笑わせようとしたりする。しかし、テコでも動かないビンボンに、道を急ぐヨロコビは頭を抱えてしまう。
 
一方カナシミはビンボンの隣にそっと座り、「残念だったわね」と声をかけた。「そんなこと言ったらまた悲しくなっちゃうでしょ!」というヨロコビに反し、ビンボンは楽しかった思い出を語ってしばらく泣いた後、「もう大丈夫」と立ち上がったのだった。
 
「なにをしたの?」と目を丸くするヨロコビに、「わからない。ただ、話を聞いてあげようと思っただけ……」とカナシミは言った。
 
ここにヨロコビとカナシミの違いがある。
ヨロコビは、積極的な介入をしたいのだ。楽しい気持ちでビンボンの心を切り替えさせたい。その為に、あらゆる手を尽くそうとする。だから、うまくいかなかったときにはぐったりとした表情で、自分の目的の心配をし始める。
一方で、カナシミは積極的な介入をしようとはしなかった。ただビンボンの隣に座って、悲しいことを悲しいねと言い、すてきな思い出には楽しかったのねと言った。そうしているうちにビンボンが自分で気持ちを切り替えたから、カナシミにとっては何をしたのか「わからない」のだ。
 
このヨロコビとカナシミとビンボンの関係は、親子の姿に似ていると思う。ヨロコビあるいはカナシミが親で、ビンボンが子どもだ。
例えば、お友達と喧嘩をしてわんわん泣いている子どもを早く泣き止ませたいとき、なんと声をかけるだろうか。
「おやつを買ってあげるから」とか、「公園に行こう」と言って気をそらそうとしたり、くすぐったり変顔をしたりしないだろうか。私はしたことがある。そして息子の逆鱗に触れ、「やめて!!」とキレられ、さらに話がこじれた。
反対に、「そうだったんだね。それは嫌だったね」とひたすらに話を聞くこともある。そうすると不思議なことに、「そう、僕はイヤだったんだよ」と内省し始め、その内に「帰ったらアイス食べていい?」と、段々と落ち着いて切り替えていくのだ。
 
カナシミの力は「共感」であると私は思う。
一見するとネガティブな感情であるが、悲しみを知っているからこそ、他の人の悲しみを理解することができる。物語で言えばビンボンがそうであったように、悲しみを分かち合ってくれる誰かがいることは、生きていく上でとても大切だ。自分の悲しみを受け止めてくれる誰かがいるから、安心してまた前を向くことができる。
 
ヨロコビの積極的な性質は便利だ。ヨロコビ的に振る舞おうと意識しなくても、反射的に出てくる。反対に、カナシミ的な振る舞いは、意識しないと難しい。特に、子ども相手の時には大人の都合を優先して、積極的に解決しようとしてしまいがちだ。
けれど、ビンボンが自分の力で立ち上がったように、息子には自分で立ち上がってきてほしい。その為に、私は彼の「カナシミ」でありたいと思う。
 
 
 
 
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2024-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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