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口は禍の門


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記事:村上舞(ライティングゼミ・6月コース)
 
 

確認なんだけど、それってさ私の為じゃなくあなたのための事だよね? あなたに都合の良い私になって欲しいだけだよね? そう思ったこと、ありませんか?
 

離婚した当初は母はよく言ったものだ。『よく帰ってきた。あんな男のとこに行かせたのが間違いだった』と。そして今度は今度で家を買おうとしている娘の私にこうのたまう。『今度こそ綺麗に暮らしてね。よかったね』と。さてこう言われた時、例えば読んでいるあなたが近しいだれかからこう言われた時どう思うだろうか? だんだんに腹が立って、頭に来たりなどは? 私が自分の意思で選んだ夫をどうしてこの人は親なのにバカにするのだろう、私の幸せなんてこれっぽっちも願ってないんじゃねぇのかと、私には不思議でならなかった。この人(母)は私の意思を尊重すると口では言いながら結局は都合の良い人形が欲しいだけなのではないか、という長年の疑いはこの一言で、更に強まった。私は母親との確執が、自分の中では物凄いため、『うるせぇババァ』と心の中で舌を出し、『黙れ何も教えなかったくせに何が綺麗に暮らせだ』と思う。早い話がお為ごかしはよしてくれ、いい加減にしろ。お前にとって都合の良い人形のような理想像を演じてくれる体裁のいい娘が欲しいだけだろう、と。
実際には言わない。都合が良く利用価値があったからだ。離婚したばかりのその当時は親がそう思ってくれていた方が親の庇護を難なく受けられる為都合が良かった。ので黙っていた。この当たりの悪知恵は母の娘を長くやっている分、私のほうが長けたようだ。
 

教えようとしたがお前が聞く耳を持たなかったろう、と母。聞く耳持たないほど娘に反感を抱かせたのはお前の仕事がマズイからだろう、と私はいつもそう返す。直接は言わぬまでも母がそう思うように仕向ける。それくらいの手腕はあるつもりだ。母娘戦争はいつの時代も激しい。私の家ではどうもそうなっているようだ。母と娘。この戦いは泥沼で陰惨である。曾祖母と祖母、祖母と母、そして母と私。私もひっくるめて、私からすれば脈々と受け継がれてきた負の遺産そのものである。女の争いは長い。どちらかが折れるまで、或いはどちらかが死ぬまで終わりはしない。うちは3代続いて女系で家を繋いできた。
我が家の女どもの争いの内容は、子育ての上手さに焦点を当てて争われてきた。曾祖母は、昭和の戦争の真っ只中で軍人の妻であり軍国の母だった為もあるのか、こと躾においては恐ろしい程厳しかったと親戚中でもちきりである。葬儀や法事で集まればその話が出なかったことは無い。曰く象牙の箸で幼い子供らの手の甲を(力加減はしているものの)『持ち方が違う』と引っぱたくくらいは当たり前だと。その曾祖母に育てられた祖母も気が強かった。母は、親戚一同の中でどの子が一番出来がいいのかと祖母から見比べられ、希望する英文科を諦めて臨床検査技師となった。母の子育てしていた時代はまだいわゆる『3高』の考え方が残り、更にいよいよ苛烈となったお受験戦争真っ只中の時代。『おかあちゃまに馬鹿にされないようないい子を育てなくては!』と強い強迫観念を持っていたのだろう。母にとっては学歴=幸せだったのだろう。その母に虐待スレスレの事をされながら私は強制的に学問浸けにされた。んな事やりたくなかったね、と親に隠れて本を読みまくり、成績がちっとも上がらない、というのが当時の私に出来た精一杯の反抗である。どれもこれも、令和の今なら完全にアウトである。虐待、行き過ぎた躾・教育として行政から指導が入るレベルだ。昔はそれが当たり前だった、と皆言う。
しかしながら今それらは時代遅れだ。たとえ親子と言えども体罰はけしからん、と言うふうに世の風潮はスッカリと変わってしまった。4代目となるはずだった私には有難い事に弟が居り、そして私の所に生まれて来たのは男の子だった。これでようやく、長い長い争いに終止符が打てそうでほっとしている。私はこの争いを息子には引き継がせたくない。
先日息子が母からこう言われたと私に注進して来た。『あなたは良い子に育ってね』と。その時に息子は正々堂々、真正面から聞き返したのだそうだ。『バァバは僕にどんな子になって欲しいの?』と。おぉ……! なんという偉業だ息子よ。それはこの母にも出来なかった素晴らしい偉業なのだ。お前はそれを難なくやってのけた。齢十余りにしてもうすでに母を超えたのか。母は嬉しいッ!! お前を産んで、一生懸命に育ててきて本当に良かった!
その時の母の答えが惨憺たる答えだった。『私だけに優しくしてくれる子かな』と。………………。呆れて言葉も出なかった。うん、もういいよ、お疲れ様。そうとしか言えない。母はきっとまだ、白馬の王子様が来てくれると必死で信じたいのだろう。父との結婚についても『保護者が切り替わった様なだけの気がする』とのたまった我が母君である。これからこの母の介護が待っているのかと思うとだいぶゾッとする。
 

母と私の確執はまだ当分終わらないだろう。終わらせる術は実は持っている。そこと、私の中のこれ迄の感情と、望む未来をどう折り合いをつけて実現していくか。40の大台にとうとう乗った。踏ん張り時である。と思いながら蚊取り線香のいい匂いを嗅いでいる。さて、気合い入れる。

 
 
 
 
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2024-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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