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非常ベルを「非常」にするための「注意報」

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記事:村人F (ライティング実践教室)
 
 
非常ベルが鳴り響いた。
8月の21時、熱帯夜。
7年ほどこのアパートに住んでいるが初めてのことだ。
しかも前日には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が出されている。
なんというタイミングだろうか。
 
幸い風呂上がりかつ、財布などの貴重品は1個のバック内にありすぐ持ち出せる状態だった。
だから火事の可能性も踏まえて口をタオルで覆いながら、すぐ避難できた。
 
外に出てアパートを確認する。
見える範囲では煙など火事の起こった様子はない。
大家さんもあわただしく調べているが、原因はわかっていないようだ。
そして管理会社の人が来た。
誤作動とのことである。
ほっと、胸を撫でおろす。
 
しかし改めて周りを見ると奇妙な状況であった。
避難したのは私だけだったのだ。
 
5階建てで20人ほど住んでおり、窓の光から半分は在宅していたはずだ。
だが15分ほど鳴り響いた非常ベルの音を聞いて避難したのは、私だけだったのである。
 
そりゃないだろうと正直思った。
確かに鉄筋コンクリート製だから火事には強い構造をしたアパートだ。
夜なのに30度超えの状況だから外へ出たくない気持ちもわかる。
 
とはいえ非常ベルが鳴り響いたのだ。
さすがに何事かと思って様子を見に行くのが筋ではないか。
そう、あきれてしまった。
 
ただ、これがもし「巨大地震注意」が出されていない状況だったら、私も避難していただろうか。
そう疑問に思ったのも確かだ。
 
非常ベルを聞いた瞬間に頭をよぎったのは誤作動だった。
だから「そのうち鳴りやむだろう」と判断し、クーラーの効いた部屋に居続けようとも思った。
おそらく例の注意報がなかったら、そうしていただろう。
ある意味、避難したのは気が向いたからだった。
そのため他の住人が居続ける選択をしたことを責めるわけにはいかないなと思った。
 
実際、避難は大変だったから。
30度を超えていたので風呂に入った意味がなくなるくらい汗も出たし、虫にもいっぱい刺された。
とてもとても不快だった。
そのうえ原因も誤作動だったので避難しなくてよい場面であった。
 
それでも改めて考えてみると不思議な状況ではある。
なぜなら住人は皆、確実に避難訓練を受けているはずだからだ。
 
そこでは「おかし」と略される「押さない、駆けない、しゃべらない」みたいな標語などを教えられたが、外へ避難することも必須動作として叩き込まれた。
 
しかし本当に非常ベルが鳴り響いてみると、どうだろう。
実践できていたのは私だけ、20人中1人のみだった。
なぜこんなことになってしまったのか。
 
これは「個人の判断」の弱点を示しているように思う。
 
学校などの避難訓練は集団行動の一環だ。
だから皆、指示されたとおりに逃げる。
おそらく非常ベルが鳴り響いても、訓練から大きくずれない動きをするはずだ。
 
だが、これが個人だとどうだろうか。
1人暮らしの人が多いアパートだから判断基準は自分だけである。
つまり命を左右する選択を己でしなければならない。
 
ただ、この状況でもどうやら人は都合よく考えがちなようだ。
「きっと誤作動に違いない」
「鉄筋コンクリート製なんだから延焼も起きないだろう」
 
こういった憶測を立てて非常ベルが15分も鳴り響こうが何とも思わずに過ごしてしまうわけだ。
そして本当に火事が起こっていた場合、彼らは大変なことになっていただろう。
そういう脆さが「個人の判断」にはある。
 
だからこそ「巨大地震注意」は意味を持つ。
 
日本は地震大国だから、いつかは本当に懸念していた大地震が起こるわけである。
だが、どのくらい先かは全く予想できない。
ゆえに「しばらくは起こらないだろう」と楽観して気に留めないのが現状だろう。
 
しかし注意報を出されると、緊張感が増してくる。
避難用品をちゃんと仕込もうという気にもなるだろう。
ハザードマップで避難所までの経路を確認する人もいるはずだ。
そして私のように「非常ベルが誤作動で鳴ったのではないか」と疑いつつ避難することにもなる。
これらが注意報の効果なのだ。
 
そして解除された今も、この意識を持ち続けるべきなのだろう。
 
そのためにはどうすればいいのだろうか。
ある意味「なぜ他の住人は避難しなかったのか」と感じたことも重要なポイントかもしれない。
このおかげで「私は絶対に逃げよう」と強く思えるからである。
そういう意味で、今回の非常ベルは大きな教訓を与えてくれた。
 
緊急事態は、学校の避難訓練のようなみんなで過ごしている場面だけに起こることではない。
むしろ在宅勤務の多くなった今は、個人でいるタイミングに出くわす確率も高いわけだ。
 
このとき、正しく行動できるだろうか?
15分鳴り響いた非常ベルの音を指針に、自ら問いかけていこう。
 
 
 
 
***

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2024-08-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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