凡人が努力と天才について考えてみた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:河合 ユリコ(ライティング・ゼミ特講)
彼らは一握りの「天才」だ。
そして、私は、「そうではない」と、
甲子園球場で汗を流す高校球児を見るたびに。
「これまで支えてくださった皆様のおかげです」とヒーローインタビューに答えるオリンピック選手を見るたびに。
スマホの画面を割りたくなるような骨のある文章に出会うたびに。
悔しいわけでもないのに、私の体中のどこかの器官に薄暗い影が落ちるのを、唇の皮をピリとやぶく、その痛みで帳消しにした。
凡人が天才に勝てるのは「努力の継続」のみ?
天才と凡人の違いが、努力だけなわけあるか。東大生の親の半数は年収1000万円以上で、やっぱり、生まれたときから決まってんじゃん。努力なんかしたって天才には勝てない。
たしかに、初期装備に、環境や、天性の才能や、周囲のサポートや、努力できる才能が備わっていなかったとしても、現時点で努力だけは始められるね。でも、人間ってそんな簡単なもんじゃないでしょ?
「天才」という存在が、怖かった。
何が、彼らを天才たらしめているのか。天才と私は何が違うのか。
努力量だけが違うのなら、努力すればいいだけの話だ。努力できなかったからお前は凡人だと言われて「はい、そうですか」と引き下がればよかった。でも、もっと複雑な気がしたから、努力するのが怖かった。真正面から戦って、努力以外の、天性の才能とか、親の経済力とか、住んでいる場所とか、運とか、そういう努力以外の要素に敗北したら、私は唇の皮をピリとやぶくどころか、舌を噛み切って死んでしまいそう。
この夏、映画『ブルーピリオド』を観た。
これまで絵を描いたことのない高校2年生の主人公が、超難関の東京藝術大学を目指す話だ。正解のないアートの世界で、「凡人」である主人公が数々の「天才」を蹴落としながら、藝大受験に挑む話だった。
高校2年生から絵を描き始めた主人公は、幼少期から英才教育を受けてきた強者どもと肩を並べなければならない。とにかく、とにかく、枚数をこなす。そして、アートが感性だけの世界ではないことを知り、美術の予備校に入り、絵の構図や色彩に関するロジックを学び、戦略を立てていく。主人公は「努力」と「環境」と「戦略」という要素で、天才たちと凌ぎを削っていった。
この映画に描かれていたのは、
「天才」か「努力」か、
「天才」には環境・才能・運があって、「凡人」にはない、とか、
そんな単純な構図ではなかった。
あらゆる要素が、天才になり得るための要素のひとつとして描かれていた。
環境も、生まれ持ったセンスも、周囲のサポートも、何かを始めた時期も、運も、努力量も、その努力ができる才能も、天才と呼ばれるラインに達するための要素のひとつでしかないんじゃないか。そんなことを思った。
確かに、要素の初期値は人それぞれ違う。親がバカみたいに金持ちで必要なものは全て揃う人と、そうでない人では差があるだろう。生まれ持ったセンスってのもあるだろう。住んでいる場所で情報格差だってある。
じゃあ、もう他の要素で補うしかない。確かに初期値は違う。世の中はいつだって平等に不公平だ。努力したって天才にはなれないかもしれない。君が今から映画の主人公と同じように、努力して、厳しい環境に身を置いて、戦略を練ったって、藝大には受からないかもしれない。努力が報われる、なんて言葉、私は一番きらいだ。でも自分は天才にはなれないと嘆くより、よっぽどいい。
すべての要素のパラメーターをフルマックスまで伸ばせたなら、君の120%が出せたなら、それでいいんだ。過去に何度か自分なりに一生懸命に取り組んだ事があった。別に世界チャンピョンになったわけでもなかったし、成果が出なかったことだってある。でも、精一杯やったことに対して後悔してることなんかひとつもなかった。後悔しているのは、「上には上がいる」「どうせ天才には勝てない」と、憧れの業界にエントリーシートすら出さなかったことだった。
だから、天狼院のライティング講座を受けた。
好きな作家の、素晴らしい文章を読むたびに、心が躍るのと同時に、嫉妬のような感情が沸いてくるのも、また事実だった。私は文章を書くのが好きだという気持ちが少しずつ折れていくのを実感していた。天狼院にライティング講座があるのは知っていた。初期装備が完璧な天才に、「努力」なんて諸刃の剣1本で立ち向かって、負けるのが怖くて、ずっと受けられなかった。
この夏、この映画を観て「努力」なんてものは「天才」のラインに出来る限り近づこうとするための要素のひとつでしかない、ということに気付いた。ラッキーだった。普段と違う環境飛び込んで、こてんぱんにしてもらおうと思って、ライティングの講座を受けた。現時点で、わたしの持てるすべての要素を使い切って書いた。だから、一番になれなくても後悔はない。ここからまた、ひとつずつ積み重ねていくだけだった。
***
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