メディアグランプリ

あの夏の花火を忘れない


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記事:堀内真弓(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

夏といえば花火を思い浮かべる。そして、誰にでも忘れられない夏がある。
忘れてはいけない夏、とも言える。忘れたくない夏でもある。今でもありありと思い出せるが、なんだかぼんやりしている部分もある夏である。
 

東北のある集落で、いつものように夏祭りが開催された。
しかし、いつものように、という言葉の通りではない。全くいつものようにではないが、開催されたのだ。
東日本大震災の起きた2011年8月のある土曜日のことだった。
 

開催1ヶ月前には「今年は無理だ、できない」と大人たちが話し合って答えを出した。
この集落で、5名の幼い子供の命が奪われたのだ。まだ、両親も家族も、集落のみんなもとてもそんな気が起きない。
それでも開催できたのは、この公民館で寝泊まりしながら活動の拠点にしていたボランティアの存在だった。
 

私はちょうど2011年3月末で雇用契約期間が終わり、次の転職の時期で、時間を作ることができたので、ボランティア団体に登録し、この集落に来ることになった。登録したボランティアは、毎週のように入れ替わりで訪れる。2、3日で終わる者もいれば、震災後から住人のような者もいた。
昼間は家の泥かき、掃除、写真の洗浄などの作業に出かけ、夜に帰ってくる。夜になるとボランティア団体の取りまとめをしているところから指示がくる。そして、人数や体力などに応じて翌朝振り分けられて作業に出かける。この繰り返しだ。
 

公民館には、夜、集落の子供達が集まってボランティアの大学生に勉強を見てもらう時間があった。この集落では大人たちが頻回に集会をする必要があり、子供達だけで家で留守番させるにはちょっと、ということで始まったのだ。
知らないお兄さんお姉さんと宿題や勉強を教えてもらった後は、遊びの時間。
中学生くらいの子は、恋バナなんかもしていた。みんな楽しそうにやって来ては、親が迎えにくるとまた明日と言って帰っていく。
 

家の中はしんどい。兄弟が亡くなった子供達は、親に心配はかけたくないと思いながらも、家にいると兄弟を思い出してしんどくなる。みんなといると、気を紛らわせるし、安心感で少しでもしんどさを忘れられる。突然突きつけられた現実をなんとか受け入れようとする子供たち。少しづつ胸の内を話してくれるようになる。
まだ子供なのだ。走り回って電池が切れるまで遊び、イタズラしたり、遠くまで冒険に行ったり、いっぱいいっぱい遊びたいのに、大人の顔色を伺いながら、困らせてはいけないと我慢している。
ボランティアの中から、「夏祭りをやろう」と意見が出た。「集落ではやらないと言っているが、自分たちが準備して、来てもらうようにするのはどうだろうか」と提案する声もあった。集落の大人たちに打診してみたところ、自分たちはそんな元気はないが子供たちのために開催したいという意向があり、ボランティア全面プロデュースのいつもとは違う夏祭りの準備が始まった。
まずは人集め、今までボランティアに参加してくれた全ての人に協力を要請した。
何人か来てもらえることになり、内容も決めていく。買い出し組が焼きそばやかき氷の材料など必要なものを揃えた。
 

当日、子供達はまだ明るい頃から公民館に集まってきた。いつもより、なんだかそわそわとしているが、今日はたくさん遊んでもいいお祭りの日、広場で大声出しながら遊び始めた。
夕方になると、大人も集まってきて、盆踊りが始まった。
私は、型抜き係! 自分では上手くできないが、子供たちのブームが去った後、大人がガチの対決を始め、興味津々で見ていた。型抜きもヌキヤスイとヌキニクイがあり、奥が深いもんだと知った。
 

お祭りの最後は、花火で締めくくられた。始まった頃は明るかった公民館の広場も真っ暗になった。
花火の歴史は江戸時代まで遡る。当時、飢饉や疫病の流行で多数の死者が出ていたため、死者の慰霊や悪疫退散のために打ち上げ花火が上げられたという。一説によると、迎火や送り火の一種とも言われている。
この集落で犠牲になった5人の子供たちのために、花火が5回打ち上げられた。
 

ヒューーーーーーン、パァァァン!! パン。
 

赤い光が小さく広がってはすぐに消えた。まるでダンスの舞が手を広げて一瞬止まり、時を忘れたかのように見えた瞬間、何も無かったかのように消えていく。残るのは白い煙だけで、それが確かにそこにあったことを証明している。
一つ一つ丁寧に打ち上がる。3尺玉のような大きさではない、小さな小さな打ち上げ花火だった。子供達の命のようだった。
突然散った命、短い命、まだまだ生きたかったであろう命……
 

あの夏から13年が過ぎた。今でもテレビや地元の花火を見ると、あの集落の花火を思い出す。
一人一人が大切で、尊い存在であると胸に沁みた花火。開いてすぐに消える儚い花火。
子供たちの分まで生きようなんて私は思わない、私は私。子供たちは子供たち。辛かったけど、充分に生き切ったのだ。
 

兄弟を亡くした子も今では大学生。夢に向かって進んでいることをある報道で知った。
ほっとする。
誰にでも忘れられない夏はある。忘れなくていい。うん。忘れないで生きていこう。

 
 
 
 
***
 
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2024-08-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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