メディアグランプリ

12.現代の子育てと消えゆくつながり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井出崎小百合(ライティング・ゼミ6月コース)

 
 

私は自分の子どもが生まれるまでは、子どもが好きでした。
だからこそ、子育てなんて楽勝にできると思っていました。
しかし、実際に生まれた我が子は四六時中泣き、
朝も夜もわからない日々が始まりました。
自分の食事さえままならない状況の中、
「子育てがしんどい」と、清水の舞台から飛び降りる思いで母に電話しました。
すると母は、「はあ?子どもひとりぐらいで、何ゆっとるん。
昔は7人も8人も子ども育てとったんやで。
親のありがたみがわかったやろ」と言いました。
私はその時、母が自分の苦労を私にも経験させて、
親のありがたみをわからせようとしたけれど、
私はこんなにしんどい子育てを次の世代には残したくない、
この時代にこの国で、子育てしてよかったと思えるようにしたい!と
子育て支援活動に関わるようになりました。
 

そこから始まった私の活動は、育児サークルから企業や行政との協働、
フリーペーパーづくり、小児救急医療を守る活動まで、
思いつく限りのことに取り組んできました。
当時、私たちが育児サークルを始めたころは、
子育て中の保護者が公民館を借りることすら容易ではありませんでした。
託児付きの講座を開こうとしても、2つの部屋を同時に借りることができず、
みんなで声をあげて、いろんなところにお願いに行き、
少しずつ子育て中の保護者も、子育てしながらも学んだり、
自分達がやりたいことが出来るようになってきました。
 

時代は流れ、社会は大きく変わりました。
様々な制度が整い、専業主婦は減り、
女性たちも子育てしながら学んだり、働き続けることができるようになりました。
子どもたちは、保育園で楽しく過ごし、
男性も女性も、家事や子育てを分担し、自分たちが生きたいと思う未来を生きている。
そんな素敵な社会を見て、私は「かつてのような子育て支援なんて必要ないのでは?」と
思うようになりました。
自身がやっている保育園でも、保護者には出来るだけ干渉せず、
子育ての負担が減るようにした配慮だけをするようにしていました。
 

しかし、ある時「コミュニティマネジメントの教科書」の読書会に参加した際、
私は現代の「コミュニティ」における構造変化が、「孤立」にまつわる
社会問題を生み出していることを知りました。
かつての「血縁」「社縁」「地縁」といったコミュニティが弱体化し、
自殺やうつ、児童虐待、ひきこもり、孤独死などの問題が顕在化しているのです。
 

この勉強会を経て、私は小さな子どもをもつ保護者と小さな座談会を開きました。
皆さん、今日会うのが初めての人ばかりです。
「子どものイヤイヤ期」の話題になると、一人のお母さんが涙ながらに語り始めました。
自分はこんなに辛くて子どもを殺してしまうんじゃないかと思うくらい大変なのに、
どこに相談に行っても、自分の欲しい答えはなかった、と……。
 

この時、30年前の自分の姿が蘇りました。
私は「この時代にこの国で子育てしてよかったと思えるようにしたい!」と
活動してきたのに、現代でも同じように子育ての辛さに苦しむ母親たちがいることを
知り、ほんとに悲しくなりました。
 

かつての子育て時代には、専業主婦が多く、育児サークルも豊富にあり、
同じように悩みを語り合い、子育てをシェアしながら、
しんどいながらも子育てを乗り切る仲間がそこにはいました。
もちろん児童虐待のニュースもたくさんありましたが、
今との違いは、子育手中の保護者を孤立させない、
子育ての仲間、コミュニティが必要よね、と
いうことが言われていた、ということでしょうか。
保護者同士をつなげようという仕組みがたくさんあったように思います。
 

現代の社会構造は大きく変わり、自己責任や自主自立が強調され、
単身世帯が増え、個人主義が広がっています。
育児の悩みは検索すれば山のように出てきますが、
子育て仲間を作る時間や必要性を感じることが少なく、
そのまま職場に戻っていく保護者が多いです。
職場では子育ての悩みを共有する人も時間もなく、
保護者たちはネットや相談室に答えを求めますが、
子育ての不安は、「答え」だけでは解決できないのだと思います。
 

ネットや相談の場では、自分が役に立つ経験をする機会がありません。
例えば新聞の相談欄でも、お悩みの投稿は少ない一方で、
それに対する答えは多く寄せられるそうです。
人々は自分の経験を語り、それが正しかったと思いたい、
誰かの役に立ちたいと感じているのです。
リアルなコミュニティでは、他の保護者と小さな助け合いがあったり、
また、少し大きな子どもを持つ人もいて、
その子どもの成長を見ながら自分の子育てを見通せる、
そういった効果もあるのだと思います。
 

ありとあらゆる少子化対策が施されています。
しかし、少子化は進む一方、そして子育ての負担感も増すばかりです。
これでは、子どもも増えないし、子どもを産み育てて良かったと思えないでしょう。
保育料、医療費の無償化や、児童手当など
金銭面での支援ももちろん大切だと思いますが、
子どもを産み育てる上で、親にとってどのような環境が必要であるかを考えた時、
人と人とのつながりが出来る仕組みや空気を作りだしていくこともまた
大切なのではないかと、お母さんたちの涙を見ながら感じました。

 
 
 
 
***
 
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2024-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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