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天丼狂時代


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

武藤正孝(ライティング・ゼミ6月コース)
(※写真はイメージです。記事の店舗とは関係ありません)

 
 

今週のランチは、同じ天ぷら屋の天丼を3日も食べに行った。
 

……いや、少し違う。
 

私は、3年近くも同じ天ぷら屋の天丼を週3日ペースで昼食にしている。
そう表現するのが正しい。
 
 

「普通、天丼ってこんなに食べるものじゃないですよね……」
一緒に通う同僚のこの一言で、ようやく気が付いたのだ。
 

とくに天丼が好きだというわけではない。
……この店の天丼が不味いという意味ではない。非常に美味しい天丼である。Googleマップでも4点代の評価が付いている。
 

それを食べたいがために店に行くのではない、ということである。
 

正直、3年も週3日ペースで通うと飽きてくることもある。
昼食に天丼を食べ続けるというのは出費としても大きい。
 

しかし私たちは、それでも通っている。
この店に引き寄せる理由は何なのだろうか。丸3年を迎える前に少し考えてみたい。
 
 

1. 喫煙スペースがあること
先に断っておくが、私は非喫煙者である。
この店を利用するのは、会社で仕事をしている日に同僚と昼食に行く目的がメインである。
私の勤務先には喫煙者も複数名在席しているため、喫煙スペースがある店であると一緒に出かけられる。
 

仕事で多忙な日も多いため、一緒に昼食をとる時間があると貴重なコミュニケーションの場になっている。
 

2. 落ち着きと活気のバランスが取れた雰囲気
喫煙スペースがあればコミュニケーションの場として優れている、ということではない。
このお店は和風の居酒屋という造りになっており、多忙な仕事中においては落ち着ける雰囲気と話がしやすい活気が非常によくバランスが取れている。
 

うるさい居酒屋の雰囲気ばかりであると、仕事で疲れた日の昼食には少し厳しい。
一方で高級料亭のような静かな雰囲気でも、気軽に話をしにくくなる。
この店はちょうど中間の「良い具合」の雰囲気に収まっている。
 

3. 立地の問題とリーズナブルな価格設定
近隣は大阪の繁華街で、中でも高級店が多い。
その中にある天ぷら屋としては、この店はリーズナブルな価格設定を行っており、ある種の差別化ができている。
 

もちろん価格以上の味とボリュームが提供できるメニューであることは前提だが、上記のように仕事中のコミュニケーションの場としては、あまり高級店ではないほうが日常使いにはありがたい。
 

そのためか、ランチ時間帯はいつも会社員でにぎわっている。
 

4. 店員の方の雰囲気
いつもは男性ばかりの同じ顔触れで行くのだが、ある日女性社員数名を連れて行った時のことである。
 

店に入ると、年配の女性店員が叫ぶ。
「店長! いつものお兄ちゃん、女の子連れてきた! 席、喫煙の方じゃないって!」
「……なんやて!」
 

……いや。それは、客というより「息子が彼女を連れてきた」ときの反応である。
40代の私は、もう受けることがないセリフだ。
 

週3日行っているとはいえ、この距離の近さは魅力だろう。
また、私たちが食後のコーヒーに砂糖を入れる・入れないという嗜好まで把握してくれている。
もしかしたら飲食店や接客業では当たり前のことなのかもしれないが、回転の多い都心にあって、こういった心配りは安心感ですらある。
 
 

以上がこの店に通う理由だと感じる。
まとめると以下のようになる。
・仕事中の昼休憩としての、コミュニケーションの場が提供されている
・落ち着きと活気のバランスが取れた雰囲気づくり
・リーズナブルな価格設定による、高級店との差別化
・店員と客の距離感の近さ
 

改めて考えてみて感じるものがある。
 

ただただ「天丼が美味しい」という面ではなく、場の提供や雰囲気が確立されていることは、昨今言われる「モノからコト」の消費行動として非常に参考になる。
飲食業や店舗だけでなく、あらゆるビジネスにつながるものではないだろうか。
 

営業面での顧客満足だけではなく、組織運営としての従業員満足度にも通じるものだと、会社員としてマネージャの立場にある私も思う。
 

最後にこんなエピソードを紹介したい。
 

ある日、店長が私たちに言った。
「そろそろ新しいランチメニューを考えたいんやけど……何が食べたい? 思いつかんのよ」
 

……いよいよ、客ではなく関係者扱いになってきたようだ。
 

元芸人である、同僚のI氏が小声で答える。
「たまには、カレー……食べたいっすね」
 

いやいや、I氏よ。いくらなんでもそれは失礼だろう。
改めて私が答えた。
 

「あっさりしたものとかどうですかね? 塩サバとか焼いてもらえたら……」
 

「うちは天ぷら屋ぁ!」
 

天丼は言うまでもなく、非常に美味しいことを最後に補足しておきたい。

 
 
 
 
***
 
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2024-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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