メディアグランプリ

旅は道連れ、世は情け


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記事:ひごえみこ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

友人からSNSでメッセージが届いた。
「今、『○○○』を読み終わったところ。前から気になっていた本だったけど、ちょうど良いタイミングで読むことができた。教えてくれてありがとう」
最近、本を読んで心に響くものがあったとき、この友人にその本のことを伝えるようにしている。伝えたことを忘れた頃、こんなメッセージが届く。
 

きっかけは、数年前に出版された原田マハさんの本だった。
ある女性とその親友との旅をモチーフにしたもので、短い旅ものがたりが6つ綴られていた。
マハさんとご友人との旅がヒントになっているそう。ご友人と日本各地へふたりで旅をしておられたのだが、そのうちに、日々の生活に追われたり、老いゆく親がいたりで、共に旅に出ることが難しくなってしまった。そこへトドメのコロナ禍。そんな今こそ読んでほしいと、まとめた1冊だ。
そんな前書きだったように思う。前書きを読んだ時点で、既に胸がつまる。
 

旅というよりも、自分と同世代の女性の日々の「あるある」がそこかしこに描かれていて、すっと引き込まれた。
その親友が話す軽妙な関西弁は、今はもうめったに会うこともなくなった学生時代の仲間を思い出させたし、老いていく親の話は、自分の両親に重なった。
歳を重ねていく中、仕事、親の介護、健康、……と、思うようにならないことは少なくない。日々やらねばならぬことをこなして過ごしていくうちに、行き詰ってしまっていることに自分で気付けぬことも多い。
そこへメールで届く、親友からの何げない言葉。自分とは全く違う視点で、いつでも前向きな一言。根拠のない「大丈夫!」も気心の知れた友の言葉だから、なぜか受け入れられる。
友と、親と、周りの人たちとの、人とのつながりをしみじみと味わえるステキな一冊だった。
 

前書きで心をグッとつかまれ、第一話を読んでいる途中で思わず、「この本を読んでいたら連絡したくなった」と、友人のサチにSNSで連絡をした。ほぼ1年ぶりの連絡だったと思う。
サチは高校時代の友人で、卒業後も、連休が来るのを待っては一緒に全国各地に旅に出ていた。でも、このマハさんの本に出てくるふたりと同じく、次第に日々の生活に追われるようになり、もう20年ほどふたりで旅をすることはなくなっていた。
 

そのSNSへの返信が、「数日前に母が家の中で転んで骨折して入院したの。実家が遠いから距離に負けそう……」だった。
彼女の実家で一人暮らしをされていたお母さまは、転ぶ数日前に、ご親友の急逝の知らせを受けたばかりだった。心ここにあらず、の状態で、普段は気にもならない数ミリの段差に転んだのだとか。お母さまも心配だし、ご親友がサチと重なって、将来サチに万が一のことがあったら……という思いもよぎって、切なさ倍増。
マハさんの本に出てきたふたりが、そのときの自分とサチにぴたりと重なった。第二話以降はもう、私たちふたりの話のように感じていた。
 

友達というのは、家族よりも近く感じることがある。年齢が近いからか、自分と同じ時代を共に生きていく人だからか、本質的に同じものを大切に思っているからか、自分の人生を傍らから見守ってくれているからか……。一方で、自分にはできないことやっていたり、自分とは違う発想を見せてくれたり……。
 

その後、半年くらいしてサチから連絡が来た。
「母のケアで実家に向かう最中で、以前教えてもらったマハさんの本を読んでいる。すごくいい。前書きと一話で泣いた。一日一話、大切に読もうと思う。実家への道中に読む本をまた薦めてほしい」
彼女は、本は買わずに図書館で調達する人だ。私から聞いた直後に予約を入れたが、予約待ちが多くて、手元に届くまでに半年ほどかかったのだそうだ。このタイムラグがちょうどよく、やっと落ち着いて本を読む気持ちになれたときに届いた、と言う。
 

以来、本を読んで、いいなと思うフレーズに出合ったとき、読んでいて気持ちがふんわり軽くなったとき、ごく短い感想をつけてこんな本読んだよ? と伝えるようになった。数か月遅れで感想が届く。
マハさんの本のように、自分とまったく同じように感じたのだ、と思えるのもうれしいが、全然違うところに気持ちが動いているのを知っても、その本の記憶が膨らむ気がして、これもまたうれしい。
旅もそう。一人で旅をしてもいいのだけれど、誰かと一緒なら、同じ景色を見て、同じ音を聞いて、同じ人と会っていても、おのおのが違うことを感じている。後でその旅の思い出を語ると、互いに違うことを記憶していて、旅の思い出が何倍にも膨らんでいったものだった。
長い人生の旅、いつかまた一緒に旅ができる日まで、こうして本を介して互いの人生を味わっていく時期があってもいい。

 
 
 
 

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2024-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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