メディアグランプリ

はじめてのソロ登山 己と向き合った先に見えたものは?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かたせひとみ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

55歳の誕生日を迎え、何か一発新しいことを! そう思った私は、ソロ登山に挑戦してみることにした。一歩一歩大地を踏みしめながら己と向き合うのだ……クー、カッコいい! 
登山先には、埼玉にある「宝登山」という初心者向けの山を選んだ。
 

私は一人、秩父鉄道に乗り、宝登山のある長瀞駅に降り立った。その日は、初のソロ登山を祝うかのように雲ひとつない見事な晴天だった。
「徹底的に己と向き合うぞー、エイエイオー!」と今日のミッションに気合十分の私は、早速山頂を目指した。
 

清々しい山の空気に鳥のさえずりが気持ちいい。「ソロ登山は己に向き合うのに最適だ。我ながらいいアイディアだな!」と、私は一人ほくそ笑んだ。
 

登山開始、10分後。
あ、あ、暑いーーー! 2月というのに、初夏のような陽気だ。山は寒いだろうと着込んで来たのが間違いだった。頭の中は「暑」の字でいっぱい。とても己と向き合う余裕はなかった。
 

ハアハアハア。あ! 東屋がある! あそこで上着を脱いで少し休もう。己と向きあうのは、一旦落ち着いてからにしよう。気を取り直し、東屋を目指す。
 

東屋に到着すると、そこには60歳前後の男性が一人で座っていた。私は「暑いですねー」と話しかけてみた。聞けば、登山仲間からこの山を勧められ、横浜から一人で登りに来たのだと言う。おじさん(そういう私もおばさんだが)もソロ登山なんだ。まさか己と向き合うために? と思ったら、今満開の蝋梅(ロウバイ)の写真を撮りに来たそうだ。
 

しばらくして、私達はベンチに置いてあるスマホに気づいた。
「え? これって……」どうやら落とし物のようだ。ここに置きっぱなしにするのは良くないだろうと、私達は東屋の少し先にある小動物園に届けた。
 

よし、無事に届けたことだし、このあとはおじさんと別れて、私は己と向きあお……。
そう思っていたところ、おじさんはすれ違う人達にスマホを落としていないか聞き始めていた。なんていい人なんだ! 私も一緒になって聞き込みを始めた。
 

しかし、二人して山頂まで聞き込みを続けたものの、とうとう持ち主には出会えなかった。山頂では、見頃を迎えた蝋梅が甘い香りを漂わせている。花を楽しもうとする大勢の登山客が詰めかけていた。ざっと見て100人くらいはいるだろうか。
へー、こんなにたくさんの人が来ているんだー。ふと気づくと、おじさんが、またもや聞き込みを始めている!
 

私は慌てておじさんに駆け寄った。「全員に聞いていたら、それだけで一日が終わってしまいます。スマホはちゃんと預けたから大丈夫ですよ。せっかく来たんだから楽しみましょう」と声をかけた。
おじさんは私の言葉で本来の目的を思い出したらしい。「そうだね、僕は蝋梅の写真を撮りに来たんだった」と納得していた。
 

おじさんは蝋梅を見に、花より団子の私は近くの茶屋へと向かうため、ここで別れた。
茶屋に着いて、さてビールでも飲みながら己と向き合うか……と思っていると、背後が騒がしい。
「ヤダーー! ない! どうしよう!」と、女性二人組が慌てた様子でカバンの中をまさぐっていた。
 

ん? もしかして? 私は彼女達に声をかけてみた。すると、偶然にも先ほど拾ったスマホの持ち主だった。ああ、おじさんにも見せてあげたかった! きっと私の100倍は喜んでくれただろう。
安堵した様子の彼女達は私に何度もお礼を言った。いい人達だった。「蝋梅(ロウバイ)を見に来て、ちょっと狼狽しちゃいましたね」という私のどうしようもないギャグにも笑ってくれた。
 

おっと、また自分と向き合うのを忘れていた。そろそろ始めますか……。
すると「あのー、スマホ拾われたんですか?」と、近くにいた別の女性から声をかけられた。
彼女もソロ登山らしい。あなたも己を? と思ったが、蝋梅を見に来たのだそうだ。気さくな彼女に私はすっかり打ち解け、いろんな話をしながら一緒に昼食を取った。
 

「あー、お腹いっぱい」という彼女の声でハッとする。あ、私ったら、また己と向き合うの忘れてたよ! 向き合う時間がどんどん減っている! さすがにまずい。山を下りるときは、絶対に絶対に己と向きあうぞ。そう誓った。
 

そして1時間半後。
私は向き合っていた。己と……ではなく、さっきお昼を共にした女性と! 別々に山を下りるつもりだったが、話が尽きず、「一緒に帰りましょ!」と二人で下山した。そして近くのカフェで向き合っているという……人生は予定通りには行かないものだ。しかし、彼女との時間はとても楽しく、私達は再会を約束して別れた。
 

結局、人と向き合ってばかりの一日だった。ソロだったのは最初の20分くらいだけ……。己と向き合うというミッションは1ミリも果たせなかった。仕方ない。己と向き合うより、人と向き合う方がずっと楽しかったのだから。
 

そうなのだ。私は今回、どの場面でも人を避けるどころか、人と関わる方を選んでいた。人見知りだと思っていた私は、案外人と関わるのが好きなのかもしれない。人の話に耳を傾け、自分の知らない世界をほんの少しでも覗けるのはとても刺激的だったし、世の中にはこんなに魅力的な人がたくさんいることを改めて実感した。人っていいな、人って面白い。これからもいろんな人に出会って、いろんな話を聞きたいと思った。これは人との関わりを通して気づいたことだ。
 

様々な人達と言葉を交わす中で、「あ、それ私もやってみたい」と好奇心をのぞかせる私や、「へー、私ってこういう風に思うんだ」と新たな一面を見せる私に気づいた。他者を介在することで見えてくる自分もあるのだと知った。一人で己と向き合ったとしても、この「私」は現れなかっただろう。己だけでは知り得ない自分がいて、それは他者との関わりからあぶり出されるのかもしれない。
 

他者との交流を通じて自分を知る。案外その方が、簡単に自分が見えてくるのかもしれない。
初のソロ登山は、己と向き合う新たな方法に気づくものになった。よし、これからいろんな人と出会って、どんどんあぶり出していくよー! 楽しみに待ってて、私。

 
 
 
 

***

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2024-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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