子育てに迷える子羊のハートを打ち抜く威力抜群の言葉
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
パナ子(ライティング実践教室)
「ぼく、国語が嫌いなんだ。やめたい」
「というか、算数もやりたくない」
「もう、くもん自体をやめたい」
何回目だろうか。8才の長男が辛そうに訴えてくるたび、私の心は揺れに揺れ、荒波に揉まれる小さい船のようになる。お友達との外遊びにハマっている長男は、予定のない日、文字通りランドセルを放り投げて校庭に一目散にかけていく。「今日は砂場でおっぱいを作った」などとゲラゲラ笑いながら報告してくる様子にアホ丸出しだけど健康的だ! と嬉しくなったりもする。
「くもん」は児童向けの学習指導教室であるが、毎週2日の教室のせいでお友達と遊べる日が少ないし、毎日の宿題が負担なため、8才は定期的にやめたいと言う。
難しいのは(そうか、そんなに辛いならもういっそのこと)と決心し、「じゃあ、今月限りにしようか」と退会に向けて具体的に動き出すと決まって「いや、でも、まだ頑張ってみたい」とオセロをひっくり返すように気持ちがコロコロと変わる事だ。
子育ての軸足がブレブレの私は、結局どうすることが息子にとって一番なのか迷いに迷って疲弊する。
疲れ切った私は、そういえば『面談』という手があったなと思い予約を取った。息子が通うくもん教室では定期的または親が必要と判断した時も臨時で、お願いすればいつでも相談に乗ってもらえるシステムがある。こういう時は一人で悶々と考えた所で何かいいアイデアが出るわけでもない。まずは気持ちをアウトプットしよう。
科目数を減らすか、宿題の量を減らしてもらうか、教室に通うこと自体を完全にやめるか……まだ頭の整理がつかないまま、私は教室の扉を開けた。
「こんにちは~! どうぞこちらにお掛けください」
いつもニコニコで穏やかな先生が出迎えてくれて、なんだかそれだけでホッとする。現在進行中の悩みを共有できる環境があるというのはありがたい。
早速、本題に入る。
先生はまず、学習の習熟度がわかる一覧表を見せてくれた。やる気があったりなかったり、渋々通った日が多かった息子でもそれなりに積み重ねてきたものがあることがわかった。
相談内容を聞いて先生は言う。
「今の時期、お友達と遊ぶことも大切だと思っています。だから無理をしてほしいとは思いませんが、それでもやれるときにやれることを少しずつでもやるということが習慣づけになります」
ここまで聞いてまたもや自分が「ゼロ百思考」に陥っていたことに気付く。悪いループにハマっている時はいつもそうだ。やるやらないについて、白黒はっきりさせてしまおうとするばかりに、その中間にある大事なものを見落とすのだ。宿題も空いた時間に10枚あるプリントのうち一枚だけでもやる? と気楽に声を掛け続けることを先生は推奨した。
先生の具体的アドバイスが効いたのか、段々と冷静さを取り戻す。と同時に、自身の学生時代は棚に上げ、息子を鍛えれば能力を格段に伸ばせるのではと高望みしすぎている自分に気付いて笑いそうになる。
忘れたのか?
高校生時代、理数系が苦手過ぎて化学の試験で赤点を取ったことを。追試を受けなんとか落第を免れたが、化学への苦手意識を抱えたまま卒業した。
その後、子供が生まれ色々な情報に触れるなかで、私は膝から崩れ落ちることになる。
「父親の学歴より母親の学歴の方が、より子供の学力と強く関係している」という報告を見た時だ。
文部科学省が管轄する国立教育政策研究所が出したデータによるものだから、あながち間違ってもいないのだろう。もちろん遺伝が全てではないが、これを知った時、まだ赤ちゃんだった息子を見ながら詫びたものだ。あぁ私がもっと勉強を頑張っていたら、息子はもっと勉強が好きだったかもしれないのに!!
頭のなかを今更ながらの反省がグルグルしだした時、先生が笑顔で言った。
「そんなに思い詰めることはないですよ? お母さんが少し抜けているくらいがお子さんがしっかりするケースもありますから」
な、なんだって!?
先生! 私、自慢じゃないけど抜けてることに関しては人一倍自信があります!!
買い物に行けば買わなければならない物は買ってこないし、子供の提出物が完全に頭から飛んで朝から慌てたり、ご飯を炊き忘れてたなんて事はしょっちゅう!!
しかも先生の言う通り、「ねえ、お母さん大丈夫?」と決まって声を掛けてくるのは長男なのだ。長男のフォローに何度助けられたかわからない。
先生の言葉は、迷える子羊のハートを打ち抜くほどの威力があった。軸がブレブレでいつまでたっても子育てに自信が持てない私に、「それでいいのだ」と教えてくれたのだ。
これまで何百人と生徒を見てきた先生は、「親御さんにしっかりと管理され過ぎたお子さんが、無気力になってしまうケースもありました」と追加した。
もしかしたら科学的な根拠など無く、クヨクヨと思い悩む私を励ますために言った言葉であるかもしれない。それでもその一言で急激に肩の力が抜けていくのを感じた。もう少し子供を信じて自主性に任せてもいいのではないか。そんな風に思えた。
きっと私が母親として子供たちにしてあげられることなんて、たかが知れている。ご飯を食べさせ、温かい風呂に入れ、話を聞きながら一緒に眠りにつく。子供が安全に過ごせる巣を整えてあげることくらいだ。子供を丸ごと信じながら、それでいて過度な期待はしないでおこう。改めてそう心に誓った。
先生にお礼を言って教室を出た帰り道、軽くなった体はいつもより風を感じ、私は大きく伸びをした。
***
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