メディアグランプリ

ポンチョバス+元気少年×おばちゃん=昭和な一幕

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ひごえみこ(ライティング・ゼミ6月コース)

 
 

友人たちと過ごした週末の夜、駅から自宅へのバス停に向かう。いつもなら耳にイヤホンを入れ、聞きかけのAudio bookの続きを楽しむところだ。でも、友人たちとの時間の余韻をそのまま味わっていたくて、日常のツールには手が伸びなかった。
 

バス停までは、改札からそのまま続く、幅の広い歩行者専用通路を進む。歩行者通路は、半年ほど前に大規模修繕をして、一面赤いゴムチップで舗装された。陸上競技のトラックを思わせる。雨の日に濡れても滑らず、水たまりもできない。凸凹がなくソフトな歩き心地。杖の音が響かないのも年配の方にはうれしいんじゃないかな。
 

陸上トラック風の赤いゴムチップ通路が、国道の上を渡るべく長い直線コースに差し掛かった辺りで、後ろから高校生くらいの男の子が2人、なにやら楽しそうに話す声が近づいてきた。私を追い抜きがてら、一人が、「行くぞ! 100メートル走だ!」と宣言して、ダッシュし始めた。
 

え? こんなところで陸上の練習? もう一人も追いかけて5歩ほどダッシュする。が、すぐ歩を緩め、「だめだ、疲れた。……間に合うでしょ」とつぶやいて歩き始めた。
なんだ、バスの時間が近いのか。でも、歩いていて間に合うのかな? 他人事ながら心配になった。
 

先に行った「元気くん」も同じ気持ちのようで、振り返って、歩き出してしまった「お疲れくん」を明るく叱咤激励して、なんとか走らせ、私の視界から消えていった。間に合うといいなぁ。
 
 

私の乗るバスはゆっくり歩いて行ってちょうどいい。バス停に到着する。
そこで気づく。列の最後尾にいるのは、さっきの男の子2人だ。並ぶ、というより、休憩中の陸上部員だ。ホントに100メートル走をした後のように息が上がっていて、膝に手をついてハァハァ言っている。
 

2人の前に並んでいた70代くらいのおばちゃんが、そんな2人にニコニコしながら何かを言う。「元気くん」がバス停の時刻表を見に行く。どうやら、おばちゃんに、まだ時間あるはずよ? とでも言われたようだ。
 

戻ってきて、おばちゃんに律儀に報告する。「30分でした。あと2分あります」そして、お疲れくんに向かって、「なんだぁ、あんなに走らなくてよかったんじゃーん」と笑いかける。無駄に走らされたお疲れくんも、なぜだかおばちゃんとともに笑顔だ。
 

つい習慣で並んでいる人数を確認してしまう。先頭からざっと10人強。筋トレ確定だ。
 

私の住む街は、箱根並みの急勾配が多くて道幅も狭い。日野自動車のポンチョという丸っこいフォルムの小型のコミュニティバスが、住宅街の中を縫うようにして登っていく。坂の上に住む年配の方々の命綱ともいうべきバスだ。ポンチョの座席は11席。乗車時間は10分ほどだから、立っていること自体は苦痛ではない。ただ、ポンチョは、鋭角に曲がりくねった坂を小気味よくグイグイ上っていくので、立っていると、手すりにしっかりつかまって踏ん張っていても、かなりの脚力と腕力を要する。
 

そうこうするうちに、ポンチョが来た。乗り込む。ちょうど男の子たちの前で席が埋まった、ように見えた。
 

すると、元気くんが「おばあさん、ここ1つ空いてますよ?」と、さっき男の子たちの前で笑っていたおばちゃんに声をかけた。
 

元気くんの陰で見えなかったが、後部の並び席の1つが空いていた。おばちゃんは、手前の出口脇のスペースに買い物の荷物を置き、横にあるポールに身体を預けて、急坂登りに備えて万全の体制を整えていたのだが、すぐに喜んで「そうぉ? ありがと!」と素直に空席に収まった。
間髪を入れず元気くんは「こうやって善行を積んでいかないとね!」とお疲れくんに言う。当然、周りにも聞こえていて、おばちゃんを含めて、みんなが思わず声を上げてアハハと笑う。
ふと気づくと、おばちゃんは、隣に座るやはり70代くらいの男性と話し始めていた。お知り合いだったのかと思いきや、初めて会ったよう。あっという間に、打ち解けるすさまじいコミュニケーション能力。
 

ポンチョが、最大の難所、クネクネ坂を上り終えて鋭角にククッと曲がったところで、おばちゃんの隣の席が空いた。おばちゃん、目の前の元気くんに「座らないの?」と聞く。元気くん、「あと2つで降りるんで」と答える。おばちゃん、隣のおじさんとの話が途切れたので、そのまま元気くんに話し続ける。「おにいちゃん、幾つ?」
元気くん、ひるむことなく答える。「17です。高校2年生」「隣の子は?お兄ちゃんかな?」
「いえ、一緒です。17歳」「なぁんだ、兄弟かと思ってたわぁ。おばちゃんにも息子居るけど、もう42歳だからねー」どう収めるんだ? と気になり出したが、この辺で頃合いだと察したのか、すっと何事もなかったかのように隣のおじさんとまた話し始めた。
そこで、お疲れくんがつぶやく。「おれ、年上に見えるんだ……」いやぁ、君の、元気くんに対する大人な態度が年上に見えたんじゃないかなぁ。
少年たちとおばちゃんとのお別れのシーンも見たかったけれど、想像して楽しむことにしよう。明るく素直すぎる、なぜか昭和の雰囲気の元気くんと、自在に乗客を「回す」おばちゃん。
平日の仕事帰りに無言でスマホを見つめる乗客ばかりのポンチョでも、脳内再生して何度も味わいたい一幕だった。

 
 
 
 

 

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2024-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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