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ビールに恋する日本酒党の夏

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:町田郁(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「ビールが呑みたい」
という日は、日本酒党の私にだってある。
「ビールを、ゴキュ、ゴキュ、と音を立てて一気に流し込みたい」
「ビールの苦さ、冷たさで身体を満たしたい、身体中を悦ばせたい」
という、いささか不埒な願望を、この夏は何度持っただろう。
それほど蒸し暑い日が続いていた。
 
日本酒党の心がけとして、日本酒は常に数種類常備してある。それを目の前に並べて
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
とその日の一本を選ぶ楽しみは何物にも代えがたい。
 
が、今年の夏はなかなか日本酒に手が伸びぬ。舌が喉がビールを欲してやまないのだ。
そして我が家の冷蔵庫にビールはない。
しかたなく私は、最寄りのコンビニまでビールを買いに行く。
ようやく手に入ったビールをグラスに注いで、その日の最初の一杯を味わう。
ちなみに二杯目からは勿論日本酒だ。
 
ところで、近所にクラフトビールの醸造所がオープンしたらしい。噂は聞いていたがタイミングがあわず、訪れたことはまだなかった。
「どんなビールがあるのだろう」
と想像力を逞しく働かせる。
「いろんなビール、呑んでみたいな」
いつのまにか、まだ見ぬそこは憧れの地となった。
九月の連休の蒸し暑い午後、私はついに新たなビールを求め憧れの地へと旅に出ることにした。
自宅から歩くこと三分、様々な障害を乗り越えてついに憧れの地にたどりついた。ちなみに障害とは赤信号一回だ。
 
タップルームは道路に面しており中の様子が伺える。こういう店は入りやすくていい。
タップルームとは醸造所のビールをその場で楽しめるスペースのこと。フード類の提供もあり、日本でいう角打ちのようなものだ。ちなみに角打ちとは酒屋で買った酒を店の中で呑むこと、またはそれができる店を指す。家に帰るまで呑むのを我慢できない呑兵衛のための場所だ。
さて、タップルームの扉を開けると夫婦らしきカップルが一組。立ち飲みカウンターが一つの小さなスペース。明るくて居心地もよさそうだ。
 
「さて、どんなお宝があるかな」
宝の地図、もといメニューをみながら今味わってみたいビールを検討する。メニューには爽やかな口当たりのもの、濃いめでどっしりした呑み心地のものなど宝探しのヒントが書いてある。さらに「コーヒー」「バナナ」などの冒険心を誘う言葉も並ぶ。
迷いながら目を上から下へと走らす。と、一番下に控えめに書かれた
「イチゴ」
の文字が目に留まった。
イチゴってあの果物の苺だよね。カタカナで書いてあるけど……。
イチゴイチゴイチゴイチゴ、頭の中はその文字でいっぱいになった。
どんな味なんだろ、これ。
いや、苺味に決まってるだろうけど……。
 
「イチゴをパイントでください」
その声は、隣のカップルから聞こえた。天啓。そう思った。
「すみません、私もイチゴをお願いします」
グラスはすぐに出てきた。初めてのビールはいつもワクワクする。
まず鼻を近づけて香りを確かめる。
「うわ、苺だ」
苺そのものの香りに期待が膨らむ。
一口ぐいっと喉に流し込む。冷たさが嬉しい。味も苺の甘酸っぱさが強めで美味しい。
今まで経験したことのない味に、私のビール経験値が少し上がった。
これにつまみを合わせるとしたらなんだろう。
クリームチーズやドライフルーツが合いそうな気もするが、アルコール分が高めの割にジュースとかデザートのような味わいなので、つまみなしで楽しむのがいいかもしれない。そして、夏よりも苺の旬の時期に呑みたいビールだった。
 
二杯目は軽めの爽やかなビールにナッツを添えた。暑い夏に呑むのにふさわしいビール、最初の一杯はこちらの方が合っていたかもしれない。でもいいのだ。天啓だもの。隣のカップルの
「イチゴください」
の声を聞いたこのタイミングでなければ、ちょっと迷って頼んでいなかったと思う。ビールは一瞬の出会いなのだ。いや、ビールだけではなく、すべてのお酒がそうなのだ。
まだまだ呑んだことのないビールが世界中にある。出会っていないビールがたくさんあるのに、徒歩三分のこの場所でも、新しいビールが生み出されている。
「そんなに呑みきれないな」
嬉しい悩みに思わずつぶやく。顔は何となくにやけていたかもしれない。
美味しくビールを呑むために健康でいよう。食事や運動に気をつけて、アルコールは控えめにして……。いや、なんかおかしい。あまり考えずに楽しくビールを呑むことにしよう。浮き浮きしながら三杯目の出会いを求めようとして思いとどまった。今夜はワインを呑みにいく予定なのを思い出したのだ。
会計を終えて外へ出るとまだ日が高い。ほろ酔いで気分よく三分歩いて帰ろう。
ただ問題は、帰り道にあるいきつけの居酒屋がもう開店しているということだ。
私が無事に帰宅し、夜には美味しいワインにありつけたかどうかはご想像におまかせすることにする。
 
 
 
 
***
 
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2024-10-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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