奈良
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:かず(ライティング・ゼミ9月コース)
奈良へは年に数回、20年来通っている。桜の時期もあれば紅葉の時期、家族や友人と行くときもあれば、一人で行くこともある。友人と楽しく過ごした学生時代も、ひとりで悩み疲れて訪れた時も、どんな時でも奈良にはいつだってそれぞれの時期にそれぞれの美しさがあり、私の人生の中においてかけがえのない場所なのである。
2000年代の初め、京都で学生時代を送っていた私はある友人と多くの寺社を巡った。京都が中心だったが、年に数回は奈良へも足を延ばした。修学旅行生や日本人の観光客はいたが、京都に比べれば少なく、割とゆったりとお参りできたように思い出す。たわいもない話をしながらああ綺麗な仏さまだな、お寺の新緑が気持ちいいな、そんなことを考えながらただ友人とお寺巡りを楽しんでいたのであった。
奈良にはさまざまな思い出があるが、とりわけ印象深いのは、桜の薬師寺である。あれは20数年前、友人と二人で訪れた時のことである。いくつかのお堂をめぐり、東院堂にたどりついた。
桜も綺麗だったしそれぞれのお堂で仏像を拝観し、どれもとても素晴らしかった。そしてこのお堂にある聖観音像も古い時代のものであり、その後も私はわざわざこの仏さまに会いに薬師寺に足を運ぶことになるほどである。
だが、私がこの時印象深かったのはこの観音様自身ではない。
たまたま居合わせたお坊様が手を合わせてこの仏さまを拝まれていたのだ。
人が手を合わせて祈る姿、袈裟の揺らぎ、立ち姿の美しさ、佇まい。
美しいとしか表現できない光景を、それ以前もその後今に至るまで私は見たことはない。
その友人とはその後疎遠になり、ひとりで仏像を見て回る時期が続く。年に一度しか御開帳しない仏像見に行ったり、また京都奈良以外へも足を運んだりと、たとえひとりでも私の仏像巡りは続いた。
そして、いつの頃からだろうか、
「前に来た時からもうこんなに時間がたってしまっている。」
「あと何回、今生でこの仏さまにお会いできるのだろう。」
「今回が、最初で最後かもしれない。」
そんなことを考えながらお参りするようになってきたのだ。
人生は短い。
使い古された言葉で、若いころには全く分からなかった。
しかしだんだん年を重ねてくると、その言葉の意味が身に染みる。
人生も折り返し地点の年齢になってきている。後半は前半のような体力は望めまい。
学生時代のような時間の余裕もない中で、また今度なんか、多分、もう、ないのである。
ただ綺麗だな、ああいいな、と思いながら仏像を見てまわっていた若い私はもういない。またいつでも来られると、次があるものだと思いこんでいたのだ。
友人と二人、猿沢池のほとりを歩き、浮見堂で語りあった日はずいぶん遠くなってしまった。友人とも連絡が絶えて久しい。仮に会うことがあったとしても私も友人もかつての自分自身ではない。同じ場所でも同じ人間でも時の流れとともに移り変わってしまうのは定めである。
今の私はただひとり、自分の残り時間を考えながら、1000年以上の時間を過ごしてきた仏像を見上げる。一体どれだけの人々がどんな思いでこの仏像を拝んできたのだろう。仏さまは何を思って人々を見つめてきたのだろう。古の仏師によって作られたその日から、仏さまの目には、何が移り続けてきたのだろう。
あれからずいぶん年月が経ち、奈良の様子も様変わりしてしまった。
登大路は海外かと思うほど外国人観光客が増え、猿沢池のほとりにはコーヒーショップがある。喧騒を避けて私は猿沢の池を南下し、猿田彦をお参りし、東大寺の東側の山のほうへと向かう。山道を登っていくとお水取りで有名な二月堂に出る。そのすぐ横にある三月堂へ。
幾度となく足を運んでは天平時代の仏像に囲まれて幸せな時間を過ごす。山の上までこれば少しは人々の喧騒から離れられる。でも、あと何回上まで登ってこられるのだろう。そんなことも考える。このお堂も最初に来た頃は日光・月光菩薩が一緒にお祭りしてあった。でも今はもう山を下りられて久しい。同じお堂でも状況が変わることもある。自分の心持もどんどん変わる。まったく同じ瞬間というのは二度とないのだ。
観光地が賑わうのは喜ばしいことだ。海外の方を含め多くの人が奈良の美しさや歴史を知るのは良いことだと思う。だが、あの二度とは戻らない静かでのんびりとした奈良を、友人とただ楽しく、また今度来ようと思いながら過ごせた日々を、とても懐かしく思う。
***
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