メディアグランプリ

届いたSOSと私の決断


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井出崎小百合(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

21時すぎ、電話が鳴った。
そんな時間に電話が鳴ること自体、最近では珍しい。
多くの人はLINEで連絡を済ませるため、電話が鳴ると少し驚く。
ましてや、こんな夜遅くにだ。
画面を見ると、卒園児の保護者からだった。
「一体何事だろう?」という不安が一気に膨らんだ。
 

電話に出ると、予感が当たった。
子どもが学校でいじめに遭い、学校に行きたがらないとのことだった。
 

思い出す。うちの息子も、5年生の頃、同じようにいじめに遭っていた。
彼は学年でも元気な子たちと友達だったが、
少し大人に反抗したり、規則に反発したい年頃でもあった。
しかし、息子は真面目で、悪いことをするのを許せない性格だった。
友達が何か悪さをしようとすると「そんなことしちゃダメだよ」と正しいことを言う。
だが、それが周囲の子どもたちの反感を買ってしまったのだろう。
息子は徐々にいじめの標的にされていった。
 

毎日、何かしら物が無くなったり壊されたりした。
クラス自体も荒れていて、先生の指導が行き届かず、
その乱れが子どもたちにも影響していた。
息子は、先生にこのことを言わないでくれと言う。
子どもながらに、いじめがもっと悪化することを恐れていたのだろう。
私は息子の気持ちを尊重して、しばらく見守ることにしたが、
状況は悪化するばかりで、何も変わらなかった。
 

心の中では、学校に乗り込んで「うちの子をいじめる奴は誰だ!」と
教室で怒鳴ってやりたい気持ちが募ったが、
それがかえって息子を追い詰めるだけかもしれないと考え、踏みとどまった。
 

そんなある日、学校とは全く関係のない幼馴染の家に遊びに行った時のことだ。
私はその家の子どもに、息子とは全く関係ない話を耳打ちした。
すると、息子が突然「何を言ったんだ!」と怒り出し、ぽろぽろと涙を流したのだ。
学校でのいじめが続く中、息子は私が内緒話をしているのを、
自分の悪口だと思い込んでしまったのだ。
私は息子がどれだけ精神的に追い詰められていたのかを初めて理解した。
あの時のことを思い出すと、今でも胸が詰まる思いがする。
 

その出来事があってから、私はようやく「このままではいけない」と強く感じ、
学校では何もできないかもしれないが、
せめて家では息子の心の拠り所を作ろうと決めた。
息子の気持ちを代弁して、弟たちと一緒に先生の悪口を大声で叫ぶことにした。
「O先生のバカ!」
「Oなんて消えてしまえ!」
「Oは女子ばかりひいきしやがって!」
などと、息子の思いを代弁するような言葉を叫び、
少しでも彼のストレスを発散させようと努めた。
 

もちろん、それが最良の解決策とは思えなかったが、
少なくとも息子が「自分は一人じゃない」と感じられるようにしたかったのだ。
あの辛い日々を今思い返すと、息子にとって少しでも支えになれていたのかどうかは
わからない。しかし、あの時はそれが精一杯の行動だった。
 

今、この電話をかけてきた親子も、あの辛い中にいるのだろう。
電話の向こうのお母さんに、私は息子がいじめに遭った時のことを話した。
いじめは家庭の中だけでは解決できないものだが、
少なくとも親としてできることは、子どもの言葉を否定せずに受け止めることだ。
例えば、子どもが友達や先生について不満を言ってきた時に、
「先生にもきっと理由があったんじゃない?」とか、
「お友達も悪気があったわけじゃないかもよ」などと
言わないようにしてほしい、と伝えた。
どんなに親が「正しい」と思っても、その瞬間は「そうなんだね」と
子どもの気持ちを受け入れてあげることが何より大切だ。
 

その後、お母さんが「学校に行くか行かないかを子ども自身に決めさせるのは
酷でしょうか?」と不安げに尋ねてきた。
 

私は「子どもが自分で決めていいと思いますよ。
でも、もし行きたくないと言ったり、
学校に行っても途中で帰りたくなった時は、何も言わずに受け入れて、
温かく待ってあげればそれが一番大事だと思います」と答えた。
 

この保護者が私に連絡してきた理由は、
うちの園では卒園後も夏休みや土曜日に小学生向けのプログラムを行っているので、
何かと繋がりが続いているからだ。
現代の子育てはコミュニティが希薄になっており、
孤独な子育てをしている家庭が多い。
子育ても人生も、何も問題なく過ごせたら
それはそれで幸せなことだが、何も問題のない子育ても人生も存在しない。
 

子育てや人生を支え合う仲間が作りにくい世の中であるのであれば、
せめて、うちの園で出会った子どもたちや保護者の皆さんが
何か困った時には、
私を思い出して相談してくれるような存在になりたいと常々思っている。
 

今回も、こうして電話をもらえたことが本当に嬉しかった。
お母さんに「もしお子さんが、学校に行っていて途中で帰りたいとなった時、
お母さんがお仕事で迎えに行けない場合でも、私がいつでも迎えに行くので連絡してくださいね」と伝えて電話を切った。
 

数日後、そのお母さんから
「金曜日と月曜日は学校を休みましたが、明日からまた行くと言っています。
私も相談させていただいて気持ちが楽になりましたし、
息子も味方がいるという安心感を得られたのではないかと思います。
本当にありがとうございました」と連絡があった。
 

大して役に立てたとも思わないが少しでも安心感を得られたというなら、良かった。
長く続く子育てのパートナーとして、これからも、少しでも、保護者や子どもたちの笑顔のために、出来ることをやっていけたらと思う。

 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事