メディアグランプリ

否応なしに心を真っ裸にされてしまうあの踊りの秘密


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

パナ子(ライティング実践教室)
 
 

ダメだ。また泣いてしまう。
そう思った時、既に目からは涙がこぼれ落ちていた。
全てを包み込むような優しい眼差しで踊るその姿に、目は釘付けになった。
 

とある運動系のイベントに参加した際、体験でフラダンスを習えるということだったが、ひと通り楽しく踊ったあと、主催者が言った。
「では、最後にE子さんに踊りを披露していただきましょう」
 

E子さんは講師歴15年のフラダンサーだ。
E子さんの踊りを見るのはこれが二回目だったが、初めて見た時「講師の踊り、見られるんだ! ラッキー!」などと軽い気持ちで見始めたのが嘘のように、あっという間にその世界観に引き込まれ、気づけば頬を涙で濡らしていた。
 

何がどうなったのか、自分でもわからなかった。
そんなつもりじゃなかったのに溢れ出る涙に困惑した。と同時に、私はなぜか全てを赦された気持ちになった。
ゆったりとしたテンポで流れる音楽に、E子さんの慈愛に満ちた表情、赤ちゃんの産毛をなでるように滑らかな指の先、大地を優しく踏みしめるようなしっとりとしたステップ。それらすべてが胸にビンビン届いてしょうがなく、喉の奥をキュッと熱くした。
 

『フラは心の言葉であり、ハワイアンの鼓動である』
これは第7代ハワイ国王、カラカウア王が残した言葉だ。
 

フラは元来神々の踊りとして非常に神聖なものとして扱われ、現地の生活文化や思想が自然と身に着くものでもあったらしい。フラは音に合わせた単なるダンスではないのだ。
 

今回受講生として簡単な踊りを教わったが、手の動きひとつひとつに「木」「波」「花」などの意味があった。
私たちはパウと呼ばれるフワッとしたスカートの衣装と、レイと呼ばれる首飾りを貸していただき、E子さんの指導に合わせてフラを踊った。
 

E子さんが目の前で優しい表情を見せてくれているせいだろうか。私もごく自然に口角が上がり、穏やかな波に身を委ねるように気持ちがリラックスしていく。普段縦ノリのロックが好きな私がこんなにもゆったりとしたテンポのミュージックを心地よく感じるなんて。もしかして私は前世、ハワイの先住民だったのではなかろうか、そんな思いまでもが脳裏をかすめた。
 

体験後、運良くお話する機会があり、私は色々な質問をぶつけてみた。私を毎度泣かせにくるE子さんはどんな思いで踊っているのだろうか。
 

快く何でも回答してくれたE子さんは実は過去に二度の流産の経験があると言った。会社に勤務してお仕事を続けるなかで心身ともに疲れ果てたE子さんは思い切って仕事を辞めた。私に出来る事は何だろうと考えた結果、以前からやってみたいと興味のあったフラの世界に飛び込んだ。自分で運命を切り開いたのだ。
 

E子さんは体験中も「間違っても大丈夫ですよ~、それよりも今ここにある幸せを感じてくださいね」と声を掛けてくれたが、質問の際も同じような事を言われた。「フラは、みんな各々の表現があって、どれも素晴らしいと思います」
 

正解は一つではないし、あなたにはあなただけの良さがある。E子さんはそう教えてくれた。
 

だからなのか。心の底から納得がいった。
あの会場でフラを見せてくれた時、目に涙を浮かべる私を何度もE子さんが見つめてくれたような気がした。辛い過去を乗り越え、道を切り拓き、人の個性を受け入れることのできる器を持っているからこそ、出来る表現なのだ、と。
私はあの会場で赤子になり、母の抱っこでトントンとされているようなとてつもなく大きな安心感に包まれた。自分の嫌いな所もすべてひっくるめて「大丈夫だよ」と言ってもらえたような気がしたのだ。
 

ベールのようにふんわりとした幸福感に身を包み帰宅した翌日、私は息子たちを呼んだ。
 

「あのね、お母さん昨日フラダンス習ってきたの。愛のメッセージだからちょっと見ていてくれる?」
 

YouTubeでE子さんに教えてもらったフラの曲を流しながら、リビングで踊ってみせる。もちろん素人の踊りだから、ステップや手の動きはぎこちないものだったかもしれない。しかし、あの時E子さんが私に届けてくれた慈愛を子供たちに伝えてみたい。その思いだけだった。
 

「木」「波」ときて「花」の手をした時、私は息子たちの顔を順番に見つめながら心からの微笑みを贈った。さらに心の中で「愛しているよ、大好きだよ」とつぶやいた。指先をすぼめて花の蕾を表すこの手の動きは、実はもうひとつ「愛する人」という意味がある。
 

普段ギャーギャーと怪獣のように口うるさく息子たちを追い掛け回している私が別人のような表情を見せたことに驚いたのか、最初は「なんだよぉ~」とふざけていたのが、曲が進むにつれてなんだかいい感じにポヤンとして、私がやさしく見つめれば見つめるほど息子たちの目がキラキラと光っていくのがわかった。
 

確実に伝わっている。そう思った。
普段から「愛しているよ」と伝えてきてはいるつもりだったが、なんだか浸透率が違う気がした。それは子供たちの目の潤いに現れていた。
 

もしかしたら若い時にフラを体験していたら、ここまでの感動はなかったかもしれない。E子さんも様々な経験を乗り越えてあの慈愛に満ちた表情を出せるように、また受け取る側の私もそれなりに酸いも甘いも嚙み分けてきたからこそ、あの涙が出たのかもしれない。そう思った。
 

泣かせる程に心を動かすフラは心で綴るラブレターだ。
大事なひとに思いを伝える際、言葉に出すのが恥ずかしかったら踊って伝えてみるのもアリかな。フラの魅力にどっぷり浸かりそうな未来が私には見えている。
 
 
 
 
***
 
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2024-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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