朝ドラヒロインは昭和オトコだった
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記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
「今の寅ちゃんはまさに昭和オトコだ」
ある日の朝ドラ「虎に翼」を見て思った。
戦後の日本で、家庭のことは妻に任せっきりで外で仕事に全力を注ぐ姿は、まさに昭和の男性像そのものである。
今年4月から放送されたNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」。日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした、ヒロイン・佐田寅子(ともこ)の物語である。
女性が自分の意思で学び、働き、結婚・離婚することも困難だった戦前から、日本国憲法で「法の下の平等」が掲げられた戦後になっても、女性達の前に立ちはだかる違和感や理不尽に、私も一緒になって怒ったり泣いたりした。
何より、より良い社会を作るために闘い続けるヒロインを始めとする女性達のしなやかさと強さ、彼女達を支える男性達の存在に何度も心震えた。
放映終了から1週間以上が経ち「トラロス」に陥っている。今回は、ヒロインが戦後まもなく東京で働いていた頃のエピソードについて書く。
そしてここではヒロインのことを、親しみを込め「寅ちゃん」と呼ぶ。
戦前は女性弁護士として働いていた寅ちゃん。結婚し娘1人をもうけたが、仕事と育児の両立に苦悩し弁護士を辞める。終戦後、父、兄そして夫を病気や戦争で亡くした寅ちゃんは、残された家族を養うため、弟の大学の学費を稼ぐため、一度逃げた「法の世界」に戻ることにする。
司法省に勤め、民法の改正や家庭裁判所の設立にも大きく関わる寅ちゃん。事務官そして判事補を兼務する多忙の日々を送る中、とある出来事がきっかけで世間から注目を浴び、「家庭裁判所の母」ともてはやされるようになる。
寅ちゃんは、今で言う「スーパー・バリキャリ・ワーキングママ」だった。
家族を養うため、弟の学費のため、法の世界からまた「逃げた」と思われないために、目の前の仕事に全力投球で取り組む寅ちゃん。家に帰ってくるのはいつも夜の遅い時間。家族とのわずかな時間も、我が子や弟、同居の兄嫁とその家族がそれぞれ抱える悩みには耳を傾けず、説教ばかり。そんな寅ちゃんに対し、家族の不満はどんどん募る。
ある日の兄嫁の「爆発」と弟の「諫め」で、自分と家族との溝が深まっていることにやっと気付く寅ちゃん。そして寅ちゃんの新潟への転勤の内示を機に、「家族会議」が開かれる。
「思ったことを全部話してほしい」と言う寅ちゃん。
「仕事の自慢話ばかりする」「口を開けば勉強しろとばかりでうるさい」「家のことを兄嫁に任せっきりで何もしない」「娘の話に聞く耳を持たない」と家族からの非難は止まらない。おまけに「朝起きて酒臭いのが嫌」というトドメまで。
仕事一筋でお酒好き、家庭のことは一切顧みない。まさに昭和オトコだ。
ここ最近の寅ちゃんの言動は目に余るものもあったので、これだけ言われても仕方がないと思った。にしても
家族のために仕事を一生懸命頑張っているのに、ここまで言われるのも可哀そう。
放映当時のSNSでは『もっと我が子と向き合って、家族が可哀そう、寅子が良くない』という意見が多かった。
でも、同じ状況でも父親なら批判されない。むしろ、家のことは一切妻に任せっきりで、家族のため会社のために四六時中働き、仕事で成果を残す父親達は長らく称賛されていた。
きっと寅ちゃんは、男性だったら手放しで称賛されていたのだろう。でも女性だから批判されたのか、と考えてしまう。
子を持ち仕事も持つ女性は、家のこともきちんとしなくてはいけないのか。寅ちゃんが不憫に思えてきた。そして現代のワーキングママ達に思いを巡らす。
女性の生き方は寅ちゃんが生きた時代と比べれば多種多様で、ワーキングママも以前より増えている。夫の家事や育児の参加、男性の育児休暇取得も一昔前に比べたら増えている。
それでも、女性は「仕事も家事も子育ても全てこなさなくてはならない」という重圧が男性以上に大きいのではないか。家事や育児にかける時間は夫よりも妻の方が圧倒的に多いという調査結果もある。
保育園の送り迎えのために時短勤務をし、子どもが病気の時は病院に連れていくため、看病するために早退する。でもそれが続くと職場の仲間から「子持ち様」と陰口を叩かれかねない。
こうした状況ばかりを見聞きしていると、結婚し働きながら子育てすることに私は不安しか感じない。できる自信がない。
ドラマでは、娘と一緒に新潟へ赴いた寅ちゃんは、お手伝いさんを雇いながら仕事と家庭の両立に奮闘し、娘ときちんと向き合うようになった。家族に大事な話がある時は早退をするようにもなった。東京に戻った後も、寅ちゃんは仕事と家庭に全力で向き合った。寅ちゃんは、「昭和オトコ」を卒業した。
もし寅ちゃんが、今の日本の女性達を見たらどう思うだろう?
「よく頑張っているわね」と労いの言葉をかけてくれるだろうか。もしくは「社会を本当に変えたいなら、もっと声を上げ、行動を続けなさい」と厳しい言葉をかけるだろうか。
寅ちゃんやその周囲の女性達は、悩みもがきながら、何度も壁にぶち当たってきた。それでも、自分らしく生きるために、考え、行動し、声を上げ続け、家族や社会を変えてきた。そして寅ちゃんは、今の私達にも同じことを期待しているのかもしれない。
「諦めずに戦い続ければ、必ず自分達にとってより良い道は開ける」と。
私達が生きる現代は、寅ちゃんが生きた時代に比べて確実に進歩している。それは寅ちゃんをはじめとする数多の先輩達が必死に闘った結果である。
しかし、依然として解決すべき課題も多く残っている。だからこそ、私達も声を上げ続け、行動を起こすことが求められている。
私は寅ちゃんのようなスーパーウーマンではないけれども、世の中に対して何もせずに諦め嘲るだけにはなりたくない。
寅ちゃん達がその時代に立ち向かい続けたように、私達も自分の選んだ道で悩みながらも戦い続けていきたい。自分ができることを全うしたい。
そして 「私達も、寅ちゃんのように精一杯生きたよ」と胸を張って言えるような、より良い今と未来を作れるようになりたい。
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