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会議室で勝負! あのスキットルを倒せ! モルックと歩んだ熱い日々

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:町田郁(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「モルックってなに?」
と、誰もが思った。
社内でモルック大会を開催するという。
各部でトーナメント戦にて代表を決め、社内の代表戦で優勝チームを決めるというのだが……。
「いや、だからモルックっていったいなんなの?」
 
「モルックって、動画で見たことありますけど楽しそうですよ。すごく盛り上がってました」
と言ったのは向かいの席のAである。
誰もが
「モルック、いったい何者?」
と疑問を抱いたと思いきや、知ってる人間が一人はいたというわけだ。
「なんか、棒に棒を投げて倒すんです」
棒に棒を投げる? なんのこっちゃ。
「倒した棒の本数が得点になって……あ、違った。棒に書いてある数字が得点になって……ちょっと待ってください」
Aもよくわかってはいないらしく、「モルック ルール」で検索し始めた。
 
「えっと、モルックはデンマークだっけ? 違った。フィンランドのスポーツみたいです」
Aが言った。
「数字が書いてあるボーリングのピンみたいなのを12本並べて、500mlのペットボトルくらいの棒を投げて倒して、得点が決まるって書いてあります」
奥の席の男性、Bが聞く。
「ボールの代わりに棒で倒すボーリングみたいなものか?」
「ボーリングにも似てるけど、得点の計算はもうちょっと複雑みたいです」
Aが答える。
「1本だけ倒すと、その数字が点数になって、2本以上倒したら倒した本数が点数になるんです」
ボーリングとは違って、たくさん倒したらいいってものではないらしい。
「それでどうなったら試合終了なの?」
と私。
「50点先に取ったら勝ちなんですけど、50点超えちゃったら25点に減点されるみたい。結構難しそうですね」
体力はたいして使わないけど、頭を使うスポーツのようだ。
「私計算苦手なんだけど、大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。私も計算苦手です」
Aよ、答えになっとらん。
 
「面白そうだから、私はやりたいです」
Aが言った。
ムードメーカーのAが言うと、本当に面白そうに思える。課内の雰囲気は一気に参加の方向に傾いた。
「じゃ、うちの課は全員参加ね」
課長の鶴の一声で決まった。
 
部内のチームが編成され、それぞれ工夫を凝らしたチーム名まで出来上がった頃には話題はモルック一色である。乗り気ではなかった人にもAが声をかけて参加者を増やしていた。
早くモルックを投げてみたい。スキットルを倒してみたい。
そんな気持ちになった頃、念願のモルックセットが部にやってきた。
勤務時間中にみんなでモルックセットを囲み、ああだ、こうだ言い合う。
一気に倒したらいい音がしそうだ。楽しみだ。
 
早くやってみたい人のために練習会をやることになった。場所は昼休みの会議室。昼食もそこそこに会場に向かう。
初めて投げるモルックは意外に扱いにくく、まっすぐに飛んでくれない。
期待していたいい音が誰も出せないまま終わった。それでも初めてのモルック、とても楽しかった。
 
「今日、練習する?」
誰からともなく声をかけあって、自主練をするようになった。昼食もそこそこに会場へ急ぐ。初心者ばかりでどうしていいかわからないまま、それでも何回もモルックを投げるうちにコツをつかみ、次第にいい音が聞けるようになった。
「今日は次長が練習に来ます」
「明日は部長も参加だそうです」
練習を重ねるうちに、お偉方も参加するようになった。誰かが声をかけたのか、それともこのまま練習しないでいると部下に負けてしまうと焦りだしたのかは知らない。
ただ、この頃から部長をはじめとするお偉方と仕事以外の話をする機会が増えたのは確かだ。ほとんどモルックの話ではあるが。
練習会に部長が参加することによって少し緊張するものの、モルックについては我々の方が経験が長い。いわばベテランだ。
「転がしても大丈夫ですけど、この場合は狙って投げたほうが当たりやすいです」
「この線から足が出ないように投げてください。出たら失格です」
ここぞとばかり先輩風を吹かせて部長にご指導差し上げた。
ちなみに部長の上達は早く、部長チームはベスト8まで勝ち残った。これも我々の指導の賜物である。
 
試合は週に二回、一日二試合行われる。今日まで和気藹々とともに練習に励んできた仲間が、明日から対戦相手となる。今日の友は明日の敵!敵とは口をきくまいぞ。
「お菓子ありますよ」
Aの声に
「ありがとう」
と笑顔で答えた。敵に塩、もとい人気のスイーツを贈られた。
 
試合が進み明日の敵が今日の敵になっても和気藹々の状態は変わらず、勝っても負けても笑いが絶えなかった。それは仕事にもいい影響を及ぼした。
「最近、仕事やりやすくなりましたよね」
「モルック効果だよね」
という声も聞かれるようになった。モルックという共通の話題ができたためコミュニケーションがとりやすくなり、ちょっとしたことでも相談しやすい雰囲気ができたためであろう。モルック大会開催の狙いもそこにあったのは明白だった。我々はまんまと乗せられたのだが、もはやどうでもいい。楽しくモルックができる相手となら、楽しく仕事ができるのだ。楽しく仕事ができれば効率もよくなる。モルックはAIを導入するのと同じくらい仕事の効率化に役立ったのだ。
昼休みにモルックだ、と思えば出勤もちょっと楽しみになり、午後の仕事は効率が上がる。
 
印象に残った試合は準決勝だ。素人集団としてはかなりいい試合だった。実力は拮抗しており、チームXがリードするとチームYが抜き返す。チームYが一本も倒せず0点になると、なぜかチームXの投げたモルックもとんでもないところに飛んでいき0点になってしまう。
昼休みも終わりに近いのに勝負はまだ決まらない。
チームXがあと2点で50点となった。2と書かれたスキットルを倒すか、2本倒すかどちらかで50点になり勝負が決まる。ところが、2のスキットルのすぐ近くに2本のスキットルが並んでいる。2を倒すと並ぶ2本も倒れて51点となる可能性が大きい。
チームXの選手がモルックを構える。さて、どう投げるか?
「カシャーン!」
小気味のいい音がした。モルックは2ではない別のスキットルを倒す。倒れたスキットルは転がって少し離れた1本を倒した。2本倒れたので2点チームXの勝利だ。
会議室は歓声の渦だった。
「すごいな! よくやった」
ふだん物静かな部長の声がひときわ大きく響いた。名勝負だった。
 
さて、明日はいよいよ決勝だ。どちらのチームが部の代表となるのか楽しみだ。旗でも持って応援に行こうか。
 
ところで私のチームであるが、一回戦であっけなく敗退した。悔しいのでここでは触れたくなかったけれど一応報告をしておく。
勝ちたかったなあ。今から特訓の開始といくか。

 
 
 
 
***
 
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2024-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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