「明日への希望をためて、今日は潔く眠る!」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松本尚美(ライティング・ゼミ9月コース)
私は49歳の時に26年間勤めてきた教職を辞めた。自営で教室事業を始めた。公務員からの転身。今から思えば何をすればよいのか分かっていたとは言えない。女性起業家セミナーに通ってもみたが、スタートは見切り発車だった。
どの事業家も、初めの3ヶ月間は夢がいっぱい。意気揚々と事業を立ち上げ、動く。
しかし3ヶ月目位から現実にぶつかり落ち込むそうだ。
私も例にもれず。
ビギナーズラックに恵まれて喜んだのもつかの間、3ヶ月目ぐらいになると困難な現実が立ち現れてきた。世の中を甘くみすぎていたかも。力量不足。法律等の知識不足もあった。
「素晴らしいものだから、誰もが喜んで顧客になってくれる」なんて事はなかった。
どんなに良いものであっても、知ってもらわなければ意味がない。私自身の未熟さ。何が足りなくて、どのようにすればよいかわかったとしてもすぐには成長できない。ジレンマ。
そのような時に事業で成功した先輩たちが後輩に助言するのは「トレーニングジムに通って筋トレをせよ」だそうだ。私もやってみた。時間とお金に余裕がなかったのでトレーニングジムには行かず。もっぱら自宅でやってみた。
私が開いた教室は自宅から電車で40分程度の距離。始発で出かけて、早朝からチラシポスティング。朝9時から教室準備。朝、昼、晩3回のレッスン指導を終えて夜9時半に戸締まり。それから終電12時過ぎまでチラシポスティング。
やるだけの事はやりきっていたつもりでも「今月の家賃が払えるのだろうか」心配になって来ると、寝床に入って布団をかぶりながらブルブル震えた。寒くなくても本当に鳥肌が立つのだと、この時わかった。
筋トレが希望になった。「明日への希望を体に貯めて、今日は潔く寝る!」声に出して
布団から出て腕立て伏せをする。30回腕立て伏せをしても1分もかからない。それでもキツくて、考える余裕がない。思考が止まる。そのあと布団に入ると本当に、安らかな気持ちで朝までぐっすりと休むことができた。
「明日への希望がある。明日の私はもっと強く賢くなっている! 今、くよくよしたって仕方がない。よく寝て体を休め元気回復しよう。明日は何とかなる!」
ありがたい事に、心の底からそう思えた。
腕立て伏せのおかげで私は、私自身を守ることができた。毎日コツコツ腕立て伏せをしていると自然と体力がついた。疲れにくくなった。やる気も出た。
起業しての数ヶ月間の未熟な私の救世主は腕立て伏せだった。
腕立て伏せに関して、どうしても忘れることのできないエピソードがもう一つある。
事業を始めて7年位経った頃だった。私は同業者の知人に悩みを打ち分けていた。結構深刻になって重い話をしている途中、タイマーが鳴った。ちょうどその頃「筋トレ1分運動」に参加していた。どんなに忙しくても1時間に1回タイマーをかけて1分間筋トレをする取り組み。
「あ、1分運動の時間だ!」話すのを中断して二人同時に腕立て伏せをした。
その直後。
「あれ何を話していたっけ? どうでもよくなっちゃった!」
悩んでいる現実自体が変わったことでもないのに、心が明るく軽く前向きになっていた。気持ちの変化に心底驚いた。
「腕立て伏せの威力はすごすぎる!」と、二人で顔を見合わせて「ガハハ」と大笑いした。
そのようなことがあってから私は腕立て伏せの信者になった。
が、神頼みではなく、科学的な根拠がある。別に腕立て伏せでなくてもよい。筋トレをすると、エンドルフィンの分泌や自己効力感の向上が見られるという。
エンドルフィンとは。Wikipediaによると、脳内で機能する神経伝達物質の一つ。モルヒネ同様の作用を示す。脳内の「報酬系」に多く分布。内在性鎮痛系に関わりまた、多幸感をもたらすと考えられている。そのため脳内麻薬と呼ばれることもある。とのこと。
「モルヒネ同様」とはすごい作用があるものだ。
さて、私は3ヶ月前から「懸垂」にはまっている。はじめは0回だったが今では調子のよい時だと10回以上できるようになった。
「懸垂」では一度苦い思いをしている。
ある日広場に高鉄棒を見つけて、懸垂がしてみたくなった。学生時代は20回くらいできた記憶がある。簡単にできる気がした。が、すぐに無謀な試みだったことが分かった。1回はかろうじてできたが背中が「ぴきっ」となって激痛が走った。それから2週間。違いをしたような不快感が引かずに苦しんだ。
それでも懲りずに、痛みが引いてから少しずつ懸垂の練習をした。毎日近くの松の木にぶら下がって腕の力をつけた。少しずつ回数が増えるのが嬉しかった。20回ぐらいできるようになったときに、右の肩を痛めた。痛くて懸垂するどころではなくなった。
今回3度目のチャレンジを始めている。よっぽど私は懸垂が好きなのだ。
だが、以前腕を痛めたという心理的な恐怖心があって、久しぶりにやってみたら0回だった。
「ただ回数を増やすだけの懸垂は意味がない」と知った。私の今までの懸垂は、ただ闇雲にやっているだけだった。今回は体を痛めないために、きちんとした専門家の指導を受けている。
そこで学んだ事
①ウォーミングアップを必ずする(読んで字のごとく体温をあげる)
②可動域を広げる。柔軟性を高める体操は必須。
③体の感覚によく集中して異常があったら無理をしない。
(昨日の体と同じではない。今日の体調はどうか?これをよく感じてチェックする)
懸垂では、腕を曲げることに注意が向きがちであるが、実は腕だけでするのではく、背中・脇腹・丹田の力を使ってする。腕に意識をおかず、胸を鉄棒に近づけていくようにする。などなど、多くの助言を得た。ただの懸垂ではなく、Love Myself懸垂だ。
本格的に正しい懸垂に取り組んでみてわかってきたこと、気づいたことがたくさんある。
①不可能に思える事でも正しい努力を毎日コツコツ積み上げていけば自然に到達できる。
②「やりたい」と目標を掲げてもすぐにやれるものではない。
③絶対に怪我をしてはいけない。60%位の力で楽しくやることが大事。準備運動とクールダウンも大事。
「体のどこの筋肉を使って懸垂をしているのかな?」 毎日体を観察しながらするので、体の感覚が目覚めてきた。筋肉の使い方が分かリ、普段の生活にも生かせるようになった。体つきが物理的に変化してきた。
0回しかできなかった頃に比べて、明らかに見た目が変わった。
痩せ体質でもう少し増やしたかった体重が筋肉増量によって増えた。疲れにくくなった。気持ちが前向きになった。
不可能と思えるような大きな目標にもチャレンジしてみる意欲が湧いた。懸垂と同じく「必要なことを少しずつ、無理せず楽しみながら続けて準備していけば必ず高いところに到達できるに違いない」という確信、自信がついた。
たかが懸垂だけれども、やってみなければ分からない多くの気づきを得た。
「やってみなければ分からないものだ」これこそが、頭でっかちな私にとっての一番の成果で、これからの人生においての一番のプレゼントかもしれない。
***
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