悪口みたいな誉め言葉で私を歓喜させる蜂みたいな先輩の話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:パナ子(ライティング・ゼミ9月コース)
10月の初旬、フットワークが羽のように軽い先輩からお誘いがあった。
「半ばに、福岡に行く予定があるんだけど、もしかして会えたりする?」
福岡の劇場で芝居を観る為、他県からわざわざ遠征するらしい。芝居までの隙間の二時間ほどでお茶をしよう、という。
会う! 会う! もちろん会いたい!!
先輩が指定してきた日が三連休の最終日ということもあり、私は家族との予定を調整して無事参上した。
こんなにも会いたくなる先輩とはどんな人物なのか。
先輩とは、とある書店がやっているライティング・ゼミというもので出会った。ライティング・ゼミとは文章力を鍛える講座で、最後まで読んでもらえる文章を目指して受講生たちは毎週毎週の課題提出に苦しみながらもしのぎを削る。
書くことは好きだったが、特に仲間もおらず、いつも一人孤独に書いていた。そんな時、課題を提出しているフェイスブックのメッセンジャーがピコンと光った。
「同じゼミに在籍する方々と、福岡でお茶することになりました。よかったらいかがですか?」
それまで一人で黙々と課題を書いていた私にとっては、願ったり叶ったりのお誘いだった。
同じように書くことに情熱をかけている人たちと会って話がしてみたい。
みんなが何を思って書いて、どんな場所を目指しているのか知りたい。
初対面になるこのお茶会に、私はドキドキしながら出かけた。
今から約二年前の事だ。
当時、我が家では、小学一年生の息子が不登校からのフリースクール、という道を選択したばかりの頃だった。傍から見れば、いったん落ち着き元気を取り戻したように見えたかもしれない。しかし、学校に対する拒絶反応を示す息子を受容し、他の道に決めていく過程での怒涛の日々は、明らかに私から生気と、母親としての自信を奪っていった。
足元がおぼつかなくて溺れそうだった。でも、気付かないフリをして虚勢を張っていた。
そんな中で参加したゼミ仲間とのお茶会は、とにかくみんなどうやって記事を面白く仕上げるかとか、挑戦してみた小説の講座が難しすぎてどうしようとか、そんな話ばかりだった。仲間と一緒に何かに熱中する人たちの顔はイキイキとしていた。
この日以降、先輩は、事あるごとに私に声を掛けてくれるようになった。
ある時は、私が不合格をくらい落ち込んでいた時のことだ。結構自信があったのだが、講師にダメ出しをくらい私は先輩に愚痴をこぼした。すると先輩は言った。
「パナ子ちゃん、目的が『掲載』になったら、腕なまるぜ?」
ハッとした。
ライティング・ゼミは講師からの合格を勝ち取ると、書店のホームページにて掲載される。もちろん掲載は受講生にとって目指すべきゴールだし、不合格の時は読者に楽しんでもらえる何かが足りなかったということになる。
だが、先輩のその一言で私は我に返った。
自分らしい文章で、もっともっと突き抜ける。
掲載よりもっと遠くへゴールを見据えていないと、それを見失うことになる。何より、掲載されることに慣れ始めて慢心気味だったのではないかと目が覚めた。
また、私が初めて「小説講座」へ申し込みをした時のことだ。
小説という未知すぎる分野にすっかり腰が引けて、ウダウダと書けない理由を並べ立てた。書き方がわからない、ネタがない、厳しいと噂の先生の講評が恐い……。
「とりあえず今回パナ子ちゃんは必ず出すんよ! 他の講座落としてでも出す!」
いつもの2,000字程度の記事を書くものとW受講していた私に、慣れたものに手を付ける前に新しく始めた難関へ挑め、とアドバイスをくれた。
初めてのことで恥を掻くのではないか、という私の恐怖心を取っ払ってくれたのもまた先輩だった。
まだ一度しか会ったことがなかったが、先輩はここぞという時に必ず刺さるアドバイスをくれた。そのたびに私は蜂にチクッと刺されたようなある種の痛みを覚えたが、その痛みは私に初心を取り戻させ、奮起させた。
先輩は実はなかなかのインフルエンサーで、3,000近いフォロワーがいるSNSで文章を掲載すればあっという間が大量のいいねがつき、コメントが何十件と押し寄せるような人だ。
しかし、彼女の本当の魅力は、周りの人間にいかに生かされているか、ご縁が自分を成長させているという事を決して忘れないところにあった。インフルエンサー特有の自信や影響力よりも、謙虚さが前に出ているような人なのだ。
だからだろうか。
人の話を興味深く聞いてケラケラ笑う彼女の姿はまるで、重たいことはまだ体験したことがない少女のような軽やかさがある。決してそんなことはないのに。
そして、今回二年ぶり二回目の対面を果たした。
話題は全然尽きる事がなく、「小説を書くために今はオンラインで『魔法』を習ってる」などと言い出した時には爆笑してしまった。まったく、先輩の引き出しの多さといったらない。
あっという間に過ぎた再会のあと、先輩から届いたメッセージは、会えたことの意味をギュッと圧縮したようなもので、私を歓喜させた。
「あ、パナ子ちゃん、前に会った時よりもいい感じに力が抜けてた。よかったね~。生きるのが楽そうで」
さすが人に興味があり、人が好きなだけある。
前回私が人生につまずいていた時、から元気だったのはとっくに気づいていたのだろう。好きな事に挑戦し、同じように頑張る仲間を見つけたことで私は自分を取り戻しつつあった。
更にはこんなメッセージも届いた。
「私のノリにヘラヘラつき合ってくれるパナ子最高~!!」
思わず吹き出した。ヘラヘラって何だよ、悪口かよ!
しかし、この先輩の一言が一気に私の心を軽くした。
明るくヘラヘラお笑い方向に振れるのって、面白いことが大好きな私の真骨頂じゃん! と。
結婚して妻になり、子供が生まれて母になり、悩みが生じて各所にお世話になり……私は誰に言われたわけでもないのに「きちんとしなければならない」呪縛に取りつかれていた。
その呪縛をサラッと、しかも私が欲しがっていた濃厚な甘みで先輩は解き放った。蜂がたくさんの花を飛び回り集めてきたハチミツのような甘さだった。
本来の自分を取り戻しつつあることを実感させてくれた先輩に心底感謝の念が沸いた。先輩にお礼を伝えると今度は「あなた、世界平和の星よ~」と規模デカすぎてもうそれは嘘だろというような甘々ハチミツをぶっかけてきた。
ありがとう。なんか元気でたよ。
時にチクッと針を刺して気づきを与え、蜜のような甘さでトリコにする。スマホを開き、蜂のような先輩とのやりとりを何度でも眺め、今日も私は自分らしくヘラヘラと邁進する。
***
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