庭に花を見つけて、母の考えに思いを馳せた訳
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:片山勢津子(ライティング・ゼミ9月コース)
酷暑がようやく収まってきた10月、いつものように庭の植木鉢に水をやっていました。植木鉢といっても寒さを嫌う樹木ばかりで、この季節に花は咲きません。庭で咲いているのは夏の名残でまだ咲いているサルスベリの花ぐらい。ところが一昨日、庭で思いがけない発見をしました。大きなピンク色の花が咲いているのを見つけたのです。植えた覚えがないので、ビックリです。酷暑に耐えた健気な花に嬉しくなって、すぐに切り取って食卓に飾ってみました。
庭の花を飾る習慣は、コロナ禍から始まりました。家に閉じ篭もることが多くなって、自然からの癒しを求めていたのでしょうか。初めて飾ったのは、庭にはびこりだした紫蘭です。赤紫の花が増えるとちょっと暑苦しく感じたので、思い切ってバッサリと切り、食卓に飾ってみました。
すると、あら不思議!
庭では目立たなかった赤紫色の花が、飾ると可憐に見えるのです。特徴的な花の形も、間近で見ると新鮮で、見飽きることがありません。
ところで、今朝見つけたピンクの花は何でしょうか? Googleカメラで調べてみると、カタバミの一種だとわかりました。尋常ではない繁殖力があるということなので、日当たりの悪い我が家でも、酷暑の中でも育ったのだとわかりました。
いつものように、小さなガラス容器に入れてテーブルに飾りました。雑草のような花ですが、眺めていると幸せな気持ちになります。夜になると花弁が閉じ、翌朝には再び花弁が開くことがわかると、より一層、愛おしくなってきました。
プレゼントされた花束や鉢は、とても綺麗ですが、こうした感情を抱くことはありません。
庭で見つけた野草の可憐さが、心を惹きつけるのでしょう。自分で見つけ、生けるという能動性から感じる愛着が、その理由かもしれません。
これって、面白くないですか?
豪華な花束よりも、カタバミの方が嬉しくなって気持ちも安らぎ、愛着が湧くって、不思議です。そもそも、なぜ、人は花を生けるのでしょう。庭の花を飾ることによって華道家だった母親の思い出が呼び起こされました。
今はすっかり忘れていますが、私も母から華道を習っていました。母は本質から伝えたかったのか、高校生の私に対して、陰陽五行説を説き、さらに黄金分割などの幾何学的説明をしました。ただ、幾何学の説明が間違えていたことから喧嘩になり、マヤカシだと反発するようになっていきました。それに、「水辺の景色を作るように」と言われても、都会育ちの自分にはいささか無理な話です。結局、大学に入学して間もなくて、華道との関わりは無くなりました。
それでも、実家にはいつも、玄関と床間に花が生けられていました。残念なことに、幼少期からずっと、それを何とも思わずに過ごしてきました。母と生け花を介して会話することもありませんでした。話すのは日常の些細なことだけでした。ところが、一輪の花をテーブルに飾ったことから気持ちが癒されて、人はなぜ花を生けるのかと考え出したのです。
母は美大出身で、私が幼い頃は油絵を毎日のように描いていました。それが、いつの間にか、絵画よりも華道に没頭するように。京都の大きな神社仏閣で、花を生けていたので、恐らくその筋ではベテランだったようです。お稽古の日の帰宅は遅く、終電に乗って帰ることも度々でした。何がそこまで母を動かしていたのか、改めて不思議に思います。
母は、小さな島の生まれです。だから、都会の喧騒から逃れ、自然を取り入れることで自分の心を癒していたのでしょうか。そんな母の姿が、今になって理解できるように思えます。花を生けながら、子供の頃に見た風景を思い出したり、人の生き方を考えたり、あるいは世の中の姿を見ていたのかもしれません。
なぜ、こんなに母のことを思い出すのでしょう。亡くなって2年。もう悲しみは消えています。毎日のようにベッド横で一緒に過ごしたので、心残りもないはずです。
ただ、最近になって実家に膨大に残された花器があることに気付き、その整理を始めました。そんなことから、母と華道に思いを馳せるのかもしれません。
日本の華道は、住まいから床の間がなくなって、すっかり廃れました。かつては床の間に花が生けられ、軸がかかり、季節や自然、芸術を愛でる空間が住まいに取り込まれていたわけです。床の間のあった時代がいかに文化的だったか、と改めて思います。
せめて、花を一輪だけでも愛でて暮らしに取り入れたいと、つくづく思うようになりました。どうしてこんなにも小さな花から考えを巡らせるのでしょう。あれほど反発してやめてしまった華道ですが、花が私を素直な気持ちにさせてくれるようです。
今、庭に咲く小さな花が、「自然と対話する心」を教えてくれています。
母の教えは技術ではなく、生き方を自省することだったのだと、今ようやく理解できました。
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