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消えたAirPodsと、見つけた教訓


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記事:峯山政宏(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

4日前、名古屋駅で在来線に乗り換えて、僕は大垣駅に降り立った。いつもの忙しい一週間がようやく終わり、今日は待ちに待ったリフレッシュの日。駅前には人々が慌ただしく行き交い、朝の通勤ラッシュがまだ続いていた。僕もその流れに乗り、少し離れた場所にある創業80年の老舗サウナを目指してタクシーに乗り込む。ここで一息つき、疲れを癒そうと思っていた。
 
タクシーの車内は静かだった。運転手は無口な人で、僕たちは必要な会話以外、一切言葉を交わさなかった。エンジン音と道路に擦れるタイヤの音だけが、微かに耳に残る。僕は仕事中のストレスを解消するため、AirPodsを装着し、穏やかな音楽を聴いていた。車内の静けさと音楽が相まって、思わず心が落ち着く。今週も多忙だったが、こうして自分の時間を過ごせることに、ささやかな幸せを感じていた。
 
目的地に到着し、運転手から「1,930円です」と機械的な声がかかる。ぼんやりした頭で財布を取り出し、2,000円札を運転手に手渡す。お釣りの70円をポケットにしまいながら、左耳に装着していたAirPodsを外す。そして、もう片方を外そうとしたその瞬間、手のひらから小さな白いイヤホンが「スルリ」と滑り落ちた。
 
「まあ、すぐに見つかるだろう」。最初はそう思っていた。狭い車内だし、ドアは閉まっている。どこかにあるに違いない。そう楽観的に考えながら、座席の下や足元を軽く確認する。しかし、見当たらない。さすがに少し焦りがこみ上げてくる。「おかしいな」。座席の隙間、ドアの内側、ポケットをもう一度チェックするが、どこにもない。
 
「なんでこんな簡単なことがこんなに面倒なんだ?」
 
心の中でそう呟きながら、探す手は次第に焦りを帯びていく。運転手も異変に気づき、「何かお探しですか?」と尋ねてきた。僕は「AirPodsを落としてしまったみたいで…」と少し恥ずかしそうに答えると、運転手も一緒に探してくれることになった。しかし、それでも見つからない。狭いはずのタクシーの中で、AirPodsはまるでブラックホールにでも吸い込まれたかのように姿を消していた。
 
時間が経つにつれ、僕の中で苛立ちが膨らんでいく。心臓の鼓動が少し速くなり、冷静さが失われていくのがわかる。小さなAirPods一つ見つけるだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだ?「これ以上は運転手にも迷惑だし」そう思いつつも、なぜか諦めきれない自分がいる。
 
30分が経過したころ、僕はついに「もういいです」と言った。これ以上探しても無駄だろう。運転手にお礼を言い、タクシーを降りようとしたその時、ふと後部座席に目をやると、そこにAirPodsがぽつんと置かれていた。
 
「見つかった!」。思わず声を上げ、手に取ってみるが、何かが違う。よく見ると、それは僕のAirPodsではなく、見知らぬ誰かのAirPods Proだった。「どうしてこんなところに?」頭が混乱し、状況がますます不可解になっていく。僕のAirPodsはどこに消えたのか?
 
そのままサウナに入り、蒸気に包まれながらも、頭の中ではこの奇妙な出来事がぐるぐると回り続けていた。体は徐々にリラックスしていくが、心の中にはモヤモヤとした疑問が残る。「探すべきだったのか、それとももう諦めるべきだったのか?」そんな思考にとらわれながら、僕は汗をかき続けた。
 
ふと、スマートフォンを取り出し、「探す」アプリを開いてみた。大して期待していなかったが、驚くべきことにAirPodsの位置が表示されていた。その場所は「大垣駅前タクシー乗り場」。再び駅に戻る決意を固めた。
 
駅に到着すると、あのタクシーがまだ待機していた。運転手も僕の姿に驚いている。「すみません、またお世話になりますが、もう一度探してもいいですか?」。
 
運転手も快く承諾してくれ、再び車内の探索が始まった。今度は一層慎重に、座席とドアの隙間に指を滑り込ませる。すると、白い小さな物体が指先に触れた。
 
「見つかった!」。それは間違いなく僕のAirPodsだった。安堵の息が漏れる。これでやっと解決した、と思った瞬間、ふと考え込んでしまった。「なぜこんなにも小さな問題が、これほどまでに大きな悩みになっていたのだろう?」
 
焦りや不安が物事を複雑にしてしまうことが、今回の出来事を通じてはっきりとわかった。ほんの些細なことが、冷静さを失うことで巨大なストレスに変わってしまうのだ。仕事でも同じ。予期せぬトラブルは避けられない。しかし、重要なのは、その瞬間にいかに冷静でいられるかだ。焦りや苛立ちに身を任せてしまうと、解決策は遠のいてしまう。
 
僕が学んだのは、物事をシンプルに、そして冷静に対処することの大切さだ。問題がどんなに小さくても、それをどう受け止めるかが、解決のカギになる。そして、次にトラブルが起きたとき、僕はもう少し冷静に対応できるだろうか?それが今回の出来事が残した問いかけだ。

 
 
 
 
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2024-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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