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焼き鳥のある人生は、そう悪くない

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:町田郁(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
気がつくと、楽しい思い出にはいつも焼き鳥の匂いがあった。飲み会、祭り、野外イベント、いつもそこには焼き鳥があった。それは幼かったある日からずっと続いてきた物語……。
 
焼き鳥を三本、焼酎のお湯割り、メインは釜めし。私のたまのお楽しみ、贅沢一人ランチの定番である。
スマホを片手に、どれにしようか迷う時間も楽しい。老舗の釜めし屋でもスマホでオーダーが定番になったようだ。
「どうも人手不足でね。今まで通り声かけて注文もできますからね」
と店主は言う。
焼き鳥を注文するときに、とりかわとレバーは外せない。なので二本は決まっている。あと一本を何にするかが悩みどころだ。スマホを注視して最後の一本を決めるのに全力を尽くす。柔道の試合か何かのようだ。
「せせり」
その文字が目に入ったときに勝負はついた。一本、決まった!
焼酎は芋、釜めしは……五目、鮭、鰻、一応迷ってみたが、
「いつものやつにしよう」
鳥釜めし。結局いつもこれだ。釜めしについてくるスープは迷わず鳥スープ。読書をしながら焼き上がりを待つのも乙なものだ。
運ばれてきた焼き鳥にかぶりつく。これで一杯やりながら釜めしを待つのが定番だ。
じゅわっと口の中に広がる脂身の甘さを存分に味わう。至福の時間だ。
そしていよいよ釜めしの時間。
「やっぱり鳥が一番だな」
とホカホカの釜めしの香りを楽しむ。
そう、私は無類の鶏肉料理好きなのだ。なかでも焼き鳥には目がない。この店の焼き鳥は最高なのだ。もっとたくさん食べたいけれど、そうすると酒が進んでしまう。昼間から飲んだくれているのはどうもよろしくないので、さっさと釜めしで閉めてしまおうというわけだ。
 
焼き鳥は大好きだけれども、自分で作ることもスーパーで買うこともしない。作るなら唐揚げの方だ。焼き鳥はお店で焼きたてのをいただきたい。
その原点となるのは恐らく子供の頃の記憶だ。
小学生の頃、当時住んでいた団地に焼き鳥の移動販売車が来ていた。今でもスーパーの駐車場などでよくみかけるやつだが、あらかじめ焼いてあるパック詰めのものではなく、その場で注文を受け、焼きたてを売ってくれた。
ある日のこと、団地の同じ棟に住む同級生の女の子が
「焼き鳥って一本なら結構安いんだよ」
と言い出した。
「安いっていくらくらい?」
「んっとね、50円くらい」
駄菓子屋のお菓子より高いが、一、二本くらいならお小遣いでなんとか賄える値段だ。
「行ってみよっか」
と話はまとまり、小学生女子三名様ご来店の運びとなった。
「いろんなのあるね」
焼き鳥に種類があるのも知らなかったのだ。
「わからなかったら、ももにしとくといいよ」
お店のおじさんの勧めで、もも三本お買い上げ。その場で食べる焼き鳥は初めての味だった。
「おいしいね」
顔を見合わせてうなづきあった。
「おじさん、もう一本ちょうだい」
一本だけ、のはずが追加注文をしてしまう、今と変わらない自分がいた。次は何にしようか。そこで目にとまったのが
「とりかわ 三十円」
他のものと比べてずいぶん安い。今月のお小遣いで漫画本を買う予定があるので、ここはちょっと節約しよう、思った私はそれを食べることにした。
それからだ。とりかわが私のソウルフードとなったのは。
柔らかくて、でも弾力があって、甘くて、何とも言えないおいしさだった。
それからお小遣いをもらうたびに焼き鳥を食べに通った。三人でいろいろ話をした。三人で話したのは主に好きな男子の話。三人一緒に通っていた書道教室の話。テレビや漫画の話。そして将来の夢。心の中にしまっておいた悩みや希望を打ち明けあった。話は尽きなかった。思えば私の女子会デビューはこの日だったのだ。
 
レバーに挑戦したのもこの店だ。少し癖のあるレバーが苦手な人も多いが、この味は私の好みにどんぴしゃりだった。このころから酒飲みの素質があったのだろう。
移動販売車の前にたむろし、焼き鳥を貪る小学生などはたから見れば珍妙だったろう。その女子会は結局、お小遣いが足りなくなって終わりになり私たち三人は駄菓子屋に戻った。でも大人の味? を知ってしまった私たちには駄菓子屋は少しだけ物足りない所になった。小さい子も多くいて、落ち着かないのだ。
 
考えてみれば、あの時の焼き鳥は実はそれほどおいしくはなかったのかもしれない。おいしいと感じたのは初めてのことをしたドキドキ感のせいかもしれない。でもあのあと出会う焼き鳥はどれもおいしかった。あれから半世紀過ぎても、焼き鳥は私とともにある。途中からアルコールが仲間に加わり、ビールと焼き鳥、日本酒と焼き鳥、焼酎と焼き鳥、様々に楽しんできた。生まれ育った団地を遠く離れたこの街でもお気に入りの焼き鳥屋が何軒かある。嬉しい日も悲しい日も、またなんてことのない普通の日も、私は店の暖簾をくぐり焼き鳥の串にかぶりつく。
「う~ん、幸せ」
人生、そう悪くない。特に焼き鳥のある人生は。明日も元気で生きていこう、そう思える。
そしてあの日の自分を思い出す。初めて焼き鳥に出会った日のことを。少しだけ大人になったような気がしたあの日のことを。
 
 
 
 
***

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2024-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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