水のようになったらリーダーになれた
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記事:髙木穣(ライティング・ゼミ9月コース)
「いいキャプテンになれなかった」
高校剣道部最後の試合が終わった後、そう思った。
試合の成績は例年通り。悪いわけでない。ただチームのまとまりは感じられなかった。
1年前に主将に抜擢され、頑張ってきたが、最後まで1人で浮いていた。
大きな悔いを残し、僕の高校剣道部人生は終わった。
ここから僕の「リーダーとはなんぞや」の旅が始まる。
3年生の先輩が引退する時、僕は監督から「次の主将はおまえだ」といわれた。
驚いた。当時同級生は5人しかおらず、その中でも3番めくらいの実力だし、存在感もそんなものだった。
それがいきなり主将に抜擢。監督には何か考えがあったのだろうが、それも聞かされず、私は戸惑いの中にぶち込まれる。
その時から考え出す。
「主将って何したらいいんだ」
自分がなるとも思っていなかったので全く考えたことがなかった。
なので、とにかく威厳を保って後輩になめられないようにしっかりしようと思った。
そして部を強くするために厳しい練習を部員に課した。
とにかく頑固にやった。
その時はただそれだけの主将だったので、人望もなかったし、無理しているのも後輩たちにもばれていた。
あまりの頑固さにこれまで気楽に話をしていた同級生もあまり話しかけてこなくなった。
しかし、その時の自分は頑固に頑張るしかなかった。
その結果が冒頭に書いた後悔である。
大学に進学して、また剣道部に入った。
1年生からのスタートだが、上級生になった時にいいリーダーになることは意識していた。
まず4年生の主将を観察。
主将は当時日本のトップであった熊本県八代東高校の出身。実力は申し分ない。
それでいて寡黙。威厳があった。
「やっぱり威厳か」
でもよくよく考えてみると、この威厳は剣道が強いのが前提でなりたっている。
その点、僕はそんなに強くない。
強さでは同級生でずば抜けているのが一人いる。たぶんこいつが主将になるだろう。
自分は主将にはならないだろうが、上級生になっていいリーダーになりたいのだ。
威厳は多分僕にとって有効なアイテムではない。
さてどうしたものか。
ここで書いている話は40年前の話しだ。
だから剣道部はバリバリ体育会系だ。上下の序列が厳しく、しごきもある。
そんな世界の中で威厳は規律を維持するために重要な要素なのだ。
しかしそんな世界の中で、僕が大学2年生の時、衝撃的な出来事が起こった。
その年、中央大学が全国制覇を成し遂げた。
なんとそのチーム、試合場でニコニコ笑っているのだ。
練習中に水は飲んでなはいけない、体罰として正座を一時間させられる、そんな時期に試合の最中にニコニコするなんてありえない!
チームみんながこの世界ではありえない態度をやっている。でも優勝している。
もしかして今まで大事だと思っていた「厳しさ」は幻想だったのでは。
そう思った時、威厳がなくてもリーダーになることはできると確信めいたものが生まれた。
とはいえ実際どうしたらいいものか?
そのタイミングで一冊の本に出合う。
その本の名前は「老子」
中国の古典だが、そこにはリーダーのあり方が示してあった。
その中でも私が最も衝撃を受けた言葉が「上善如水(上善は水のごとし)」
上善、つまり理想的な生き方は水のようにあれということだ。
特に、水はあらゆる生物に恩恵を与えておきながら、自分は低いところ、低いところに流れていく謙虚さがある、というものだ。
この言葉に出会い、私は目覚めた。
「そうかリーダーが身を低くしていたら、いろんな水の流れがそこに集まってくるのか。もしかしたらそこに求心力が生まれるのかもしれない」
そこから行ったことは、「人の話しに謙虚に耳を傾けること」と先生や先輩だけでなく、同級生や後輩にも「教えを積極的に請う」という2つのアクションだ。
気になっている表情をしている人がいたら「どうした?」と話を聴く。
後輩に指導する時、まずどうしたいかを聴く。
わからないこと、困ったことがあったら「教えて」と教えてもらう。
これをやっていたら段々と人望みたいものが生まれてきた。
最上級生になった時、主将はやはり剣道の実力が最も高かった同級生がなったが、主将を決める先輩たちはそいつと僕のどちらにしようかは最後まで迷ったそうだ。
主将にはなれなかったが、僕がやってきたリーダーになるためのトライはあるイベントで結実する。
持ち回り制で行っている全国のキリスト教系大学の剣道大会がこの年わが校で開催される予定だった。そして、私はこの大会の実行委員長に選ばれた。
十数年に一度回ってくるので経験者はいない。前年担当した大学からの引継ぎを受けて、ゼロから立ち上げていかなくてはならない。
目がくらむようなスタートだったが、なんとかその大会をやり遂げた。
その大会をやり遂げられたのは、周りの人たちの自発的な協力があったからだ。
私はどうしたらいいかわからない日々が続いていたが、OBの先輩・同級生・後輩が頼んでもいないのに自主的にやることを見つけ、どんどんやってくれたのだ。
私が苦手な寄付集めを先頭にたってやってくれた同級生。
お金の計算をきっちりやってくれるマネージャー。
会場設営の段取りをどんどんやってくれる下級生。
私が知らないうちにいろんな人が動いてくれていた。
大会終了後の達成感は半端なかった。
それにもまして、みんなが自主的に協力をしてくれたこの現象がなんともうれしかった。
最後に謙虚さに欠けて申し訳ないが、一方で自分がやってきた「上善如水」の賜物でもあったのではないかと思っている。
それ以来、「上善如水」を肝に銘じ、人生を過ごし、色々な場面でリーダーをやらせてもらっている。
***
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