企業への就職でマイナスからスタートしたが、得意のコミュニケーション戦法で乗り切った僕
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小林利幸(ライティング・ゼミ9月コース)
「何故、夜間学部卒だとダメなのですか?」
もう30年前の過去のことだ。
私立大学の夜間経済学部出身の僕。
大学4年の秋、就職課で就職先を探していた。
しかし、求人票にある「夜間学部の応募の可否」の多くが「応募不可」だった。
納得がいかない僕は、就職課の人に聞いた。
回答は、夜間学部は、昼間の学部より取得単位数が少ないことや、既に就職している人が多いと企業側は判断しているとの回答だった。
確かに、言わんとすることはわかるが、それって夜間学部を差別されているような気がして、悔しかった。
でも当時はそれが現実だった。いや現在も。
僕は、埼玉県に生まれ育ち、裕福ではないが、何不自由なく育ててもらった。
高校は、国立の高校。なぜなら、学費が安い。
大学も国立を目指したが、人生そう思い通りにならない。不合格の通知。
親は、私立大学の昼間の学部の入試を薦めてくれた。
しかし、家の事情を考えてしまった。それが親の望みではないかも知れないのに。
私立大学の夜間の経済学部に合格し入学した。
昼間は、バイトで学費と少しの小遣いを稼いだ。
昼間の学部が終わった後の時間帯から、夜間の学部の授業が始まる。
夜間の学部には、スポーツ推薦、芸能人、会社経営の社長など多種多様である。
たまに、一コマが急遽、休講になることがある。
そんな時は、教室の仲間と渋谷の安い居酒屋で、ホッピーを頼み、追い焼酎を大事につぎ足し呑んでいた。追い焼酎とは、追加で注文する焼酎のこと。
授業で得た知識だけの経済論や、政治情勢を侃々諤々と話していた。
そんなかんだで、大学も四年生の秋になっていた。
就職先を決めないといけない。
ところが、夜間学部応募不可のこととは別にもう一つの問題があった。
そう、何をしたいのか、決めていなかった。
でも、「働かざる者食うべからず」というように、食べるためには働かないといけない。
何日間か就職課に通い続けた。
そして、コンピューターシステム開発会社の企業で、応募が可能な会社を見つけた。
「よし! ここに応募してみよう」
職種に経理の募集もあった。簿記が出来たので、ここならいけると思った。
何回か、面接も通過し色々と応募動機を聞かれた。
しかし、一度も、夜間の学部のことや、経理希望に関しては、聞かれなかった。
不思議だった。
それでも、内定通知が届いた。
コンピューターシステム開発会社の経理部署で働ける。
と、思い続けていた。
翌年、いよいよ入社式。
会場には、約400名の新入社員が来ている。
最初に、社歌を暗記させられ、ラジオ体操も覚えさせられる。
まるで軍隊。
社長の訓示と続く。
いよいよ、配属部署の発表。
最初は、管理部門から始まり、次にシステム開発部門へと続いた。
「あれ?」
経理部署に僕の名前がない。
と、思っていたら、システム開発課で僕の名前が呼ばれた。
「システム開発課?」
知っている友達もいなかったので、聞くに聞けない。
その翌日から、さっそく集合研修。
最初は、名刺の渡し方からと思ったが、いきなりコンピュータソフトウェア言語であるCOBOLの講習から始まった。
当時は、COBOL、FORTRAN、アセンブラが主流の言語だった。
COBOL、FORTRAN、アセンブラは、プログラムを作成する指示語と思ってもらえばいい。
説明を聞いても、何が何だか、サッパリ。
「ダメだ! 辞めよう」
でも、次の日も仕方なく行った。
この日からは、課題を与えられ、COBOLでプログラムを作ることになった。
周りの人は、黙々と作成している。
僕は、教科書を読んでも何が何だかサッパリ理解出来ない。
でも、どんな時でも、人には聞いてみるものだ。
隣の人に、どうやって作るのかを恥も外聞もなく聞いた。
渡る世間は鬼ばかりではなかった。
彼は、理系出身で、既にCOBOLを習得していた。
でも、彼は、この何もわからない僕に、親切に教えてくれた。
同期の友達1号の誕生。
勝手がわかれば、こっちのもの。
次々に恥も外聞もなく聞きまくった。
講師に怒られるかと思ったが、何も言われない。
友達第1号のおかげもあり、新人研修の課題もなんとか提出することが出来た。
研修の最終日に、配属先の課長との面接が行われた。
「君は、コミュニケーションの能力があると講師から聞いているので、プログラム開発ではなく、プロジェクトマネージメントを中心に行ってもらうよ」
「プロジェクトマネージメント?」
コミュニケーションとプロジェクトマネージメントが頭の中で繋がらない。
そうか、研修の際には、プログラム作成の実力の有無だけではなく、仕事への適正も見られていたのか。
そして、システム開発の現場への配属。
システム開発は、発注先の会社へ行って作業するのが基本であった。
僕は、現場が横浜にある通信会社への配属となった。
その現場でいきなり、小さなシステムのプロジェクトのリーダーを任された。
まだ新人ですが、なんていうことは通用しない。
なぜならば、僕が就職した会社は、たくさんの外注会社を抱えていた。
従って、その外注会社の人たちを纏めていかなくてはならないのだ。
僕のプロジェクトチームの外注会社の人は、いずれも経験豊かな人たちばかり。
でも僕は、ここでもコミュニケーション戦法で仕事を進めることにした。
考えてもわからないことは、聞きまくった。そして聞いたことをメモする。
毎日がその繰り返し。
しかし、外注会社の人たちは、何もわからない僕に対して、丁寧に教えてくれた。
仕事中に聞いたメモをノートに書き残し、家と現場の通勤途中で必死に覚えていった。
その現場の仕事も無事終わり、次に大手ゼネコン配下の国家プロジェクトのプロジェクトリーダーを任された。
いつのまにか、「仕事100%」の人間になっていた。
当時、同期で付き合っていた彼女にも軽蔑を込めて言われたくらいだ。
プロジェクトマネージャーは、メンバー内のコミュニケーション調整の割合が全体の仕事のうち90%と言われている。
プロジェクトマネージャーは、プロジェクト内の課題解決のために、コミュニケーションを取ることに奔走しないといけなくなる。
僕は、夜間の学部卒で必要な技術の経験もないのに仕事をしている。
会社という組織は、出身校は評価の妨げにならない。会社に入ってからが勝負なのである。
稼げるか、何かに秀でた人は将来、会社で成功するチャンスは大きい。
誤解がないように言うと、一流の大学の出身者は、それはそれで優秀な人が多いことも事実だ。
39歳の僕は、同期のトップで課長に昇進した。
研修で親切に色々と教えてくれた友達第1号の彼は、彼の素質を活かして技術部門で活躍している。
今でも一番の友人である。
僕は、想像していた時期より早く課長になったことで、有頂天になっていた。
でも、その時の僕は、その後に待ち受ける困難な出来事に遭遇することなど、知る由もなかった。
***
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