同僚不足問題に関する一考察
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記事:あき(ライティング・ゼミ9月コース)
「この職場は、自分にとってはあまりいいとは言えないんですよね。上司を懐柔できる人が、美味しい思いをしているので」
ブレイクルームでたまたま一緒になった後輩から出た唐突な一言。不意をつかれた私は、「え、今そんな話してたっけ?」と頭の中でぐるぐる考えながら、思わず無表情になってしまった。何か言わなきゃいけないのに、言葉が見つからない。焦る私を残して、後輩は『じゃまた』と軽く手を振って去っていった。
何も言えなかった理由は2つある。ひとつは、この後輩が、社交的な同僚たちを羨ましく感じるのも無理はないと納得してしまったからだ。彼はどちらかといえば物静かで、必要な会話しかしないタイプだ。2つ目の理由は、彼の言う「上司を懐柔できる人」が誰だかわかってしまったからだ。ジェラシーは、職場の人間関係を壊す要因ナンバーワンだ(と思っている)。うかつに何か言いたくない。
なのに、自分のデスクに戻った後も、彼の一言がずっと引っ掛かって、悶々と考え続けてしまう。彼みたいに思いながら働いている人が、他にもいるんだろうか。
人間関係が転職理由のトップだと言うのは、兄もよく言っていた。「周りの人と気持ちよく働けるかどうかが、結局一番なんだよな」と。
「それなのに」なのか、「それだから」なのか迷うところだが、上司が無能だ、部下が言うことを聞かないという愚痴は、世の中に溢れている。
ランチタイムに外食してみればわかる。仲良く連れ立って食事をしている同僚と思しき人たちは、ほぼ「職場で問題のあの人」の話をしているから。
異論はあるだろうが、私は、仕事の愚痴はストレス発散のために言った方がいいと思っている。言ってスッキリ仕事に戻れるなら、躊躇うことじゃない。そもそも、人間は何世紀にもわたって、「大人はわかってくれない」「最近の若者は」と、自分より年上と年下に常に文句を言い続けてきたのだ。
だからといって、「人間関係の良い職場で働きたいですか?」と聞かれて、「いいえ」と答える人はまずいないだろう。となると、やっぱり職場で誰と働くのかを無視できない人は多いのだ。
私はどんな人たちと働いてきただろう。学生時代のバイトも含めて、これまで一緒に仕事をしてきた人たちを思い出そうとしてみた。他の人と比べて多いかどうかはわからないが、300人は下らない。その中で、真っ先に思い出す人がいる。
彼は、恐ろしく優秀な上司。人格者でもあった。今でも私はこの上司を心から尊敬していて、彼ならこういう時にどんな判断をするだろうかと考えて動くことがある。
若気の至りで、この上司に自分とソリの合わない先輩のことを言いつけたことがある。
「先輩の威圧的なものの言い方と、理不尽な批判にこれ以上つきあえません。これから指示は〇〇さん経由でお願いしたいです」と、生意気な私は先輩と仕事をしない宣言をした。
上司は一瞬考える素振りを見せた後、穏やかな笑顔を浮かべて言った。
「それは、いつ終わらせるのかな?」
その一言が、私の未熟さを一気に突きつけた。沈黙が流れ、私は何も答えることができずにいた。
あなたが先輩に腹を立てているのは分かるし、しばらく話したくないのもわかる。でもあなたたちは同僚でしょう? いつかまた一緒に働くんでしょう? 拳を振り上げるって決めたなら、下ろし方も決めなきゃね。
上司の落ち着いた声と視線を浴びながら、浅い自分を、深く深く恥じた。上司の力を借りて、嫌な人を自分の周りから排除しようとした、卑怯な自分を。
今でも思い出すたびに、幼かった自分に顔から火が出るどころか、絶叫したくなる記憶だが、この恥ずかしい出来事のおかげで、心に刻んだ教えがある。一緒に仕事をする人たちは、立場や役割の違いはあっても、皆「同僚」だということ。
以来、私は考えるようになった。自分が「また一緒に働きたい」と思ってもらえるような同僚でいられるかどうか。
上司とか部下とかいうのは、職場において決められた役割に基づく関係性だけれど、同僚は自分で作ることのできる関係だ。その人の役割を見るから不満になる。見方を変えれば、無能な上司は、責任感の重さにストレスを抱えた同僚だ。言うことを聞かない部下は、仕事のやり方が理解できなくて困っている同僚だ。困っている同僚には、「何か手伝おうか?」と、手を差し伸べればいい。
そうか、先ほどのブレイクルームでの会話、あれはジェラシーの発言じゃない。彼は、同僚の私を信頼して、弱音を吐いてくれたんだ。同僚としてそれを受け止めて、少しでも助けになりたい。あの上司なら、きっとそんな風に手を差し伸べるはずだから。その姿を見習って、今度は自分が同僚として彼に向き合う番だ。私は立ち上がり、彼に声をかけるために歩き出した。
「さっきは話してくれてありがとう。気の利いたこと言えなくて黙っちゃった。ごめん。何かあったら、いつでも言ってね。同僚として、力になりたいから。」
少しずつでも、私たちの職場がもっと居心地の良い場所になったらいいなと思いながら。
***
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