メディアグランプリ

私の心から決して消えない光景は、消えてしまいそうだった子供たちの姿


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記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

忘れられない光景がある。
 
当時住んでいたマンションから、息子たちの通う小学校までの道のりを登校班からだいぶ遅れて、手を繋いで歩く私と次男。ゆっくりだけど、彼のペースに合わせさえすれば、ご機嫌に楽しそうに、小学校までの道をゆっくりと歩く。しかしそんな中で、同じように、登校班から外れて歩く子供たちが、何人かいた。
 
その子たちの足取りは、揃って思い。引きずるように、とはよく言ったものだ。今にも足が地面にめり込んでしまうのでは、と思えるほどに重たそうな足。ガックリと落ちた肩。ふと目を離すと、本来ならばまっすぐ行くはずの小学校までの最後の角を曲がって、そのままどこかに消えてしまうのではないかと思った。
 
中でも一際、忘れられない親子がいた。そこは、我が家のように付き添いで登校している親子だった。子供は、当時1年生の次男より、2学年ほど上かなと思う体型をしていた。ただ、その子が次男と違うのは、本当に辛そうに、重たそうに歩いていたことだ。足はのろのろと前に進んでいる。だが、上半身が明らかに、後ろに取り残されている。
前を歩くのは、我が家と違って父親だ。スーツ姿だったので、おそらく私と同じように、出勤前なのだろう。イライラとした表情は、だがしかし、子供にそのイライラをぶつけてしまうと、その日は取り返しのないことになると知っているような表情をしていた。
 
 
毎日ではないが、たまに見かけるその親子は、うちの次男と同じように、学校に行きたがらない子供と、なんとかして行かそうとする親の姿だったのだろう。
 
そして、忘れられない理由は、単にうちと似ていたからとか、男の子が辛そうだったから、ではない。
いや、簡単に言えばそうなのだが、違う。
 
 
私は、羨ましいと思っていたのだ。
 
 
次男は、テンポを合わせさえすれば、楽しそうに登校する。私と一緒に、遅刻ギリギリに。だがそれは、当時フルタイムで働いていた私にとって、とても過酷なタイムスケジュールになることを意味していた。
もし、次男が辛そうに学校に行くのならば、こんなキツイ生活は、終わるのではないかと思っていたのだ。
 
あの父親は、どんな気持ちで付き添い登校をしているのだろう。母親は、どんな気持ちで、2人を送り出したのだろう。もしかしてシングルの家庭かもしれない。だから、どんなに学校が嫌でも、1人で留守番をさせられず、学校に連れていくのだろうか。
でもあの子は、見たところもう3年生か4年生くらいに見える。1人でお留守番だって、出来るんじゃないか?
ああ、私なら、いっそあそこまで辛そうにしてくれたなら、もう学校に行かないで良いと次男に言えるのに。もしくはあの男の子くらいの年であれば、家でお留守番をしてもらって、私はさっさと仕事に行くのに。
次男が楽しそうに行かなければいいのに。先生にも、「登校したら、楽しそうにしていますよ」ではなく、「しんどいことがあるみたいですよ」と言ってもらえたらいいのに。
学校に行くのが辛い理由が、ちゃんとあれば良いのに・・・・・。
 
 
今から思うと、なんと酷い母親だったろうと思う。でも、本心だった。
 
 
毎日毎日、付き添い登校をした、小学1年生の終わりごろ。私の望んでいた日が、まさにやってきた。
 
登校しようとしたら泣き叫び、次男が家から出ようとしなくなったのだ。
 
その瞬間、あの親子を見て感じていたことなんて、全て吹っ飛んだ。辛そうにしていたらやめるのにと思っていたのに、私はなんとか次男を学校に行かせようと、頑張った。ご褒美を提案してみたり、怒ってみたり。
 
でも、次男は動かなかった。
 
本気で抵抗する人間は、たとえ小学1年生でも無理やり引きずって連れていくことは困難だ。私は理解したのではなく、物理的に無理だと降参して、学校を休ませることにした。
 
 
その日から、結局次男は不登校になった。どうやったら次男は学校に行ってくれるだろう。そんなことばかり考えて過ごしていた。当時のスマホの検索履歴は、「不登校 小学生 原因」とか、「不登校 低学年 解決」とか、そんなものばかり。
 
そんなある日、学校の先生に提案された。
「なんとかして、マンションの下まで連れてきてくれれば、何人かの先生で、無理やり抱き抱えて学校に連れていきますよ」と。
 
 
一瞬、喜んだ。だがその瞬間に、あの朝に見た子供たちの姿が蘇ったのだ。
 
 
重たそうに足を引きずりながら歩く子。
今にも消えてしまいそうな子。
お父さんの後ろで、明らかに逃げていた、あの男の子……。
 
 
学校って、そんな思いまでして、行かないといけないところなの?!
いや、違うだろう。
 
「せっかくですが、そこまでして学校に登校させたいとは思いません。お気持ちだけ受け取っておきます」
気がついたら、そう答えていた。
 
 
自分がやろうとしていたことを、客観的に想像が出来てしまったのだ。そして、「あの子くらい辛そうなら、行かせないのに」と思っていた自分、「なんであのお父さんは、あんなに辛そうな子を、学校に連れていくんだろう」とまで思っていたことも思い出した。
そして、それは他人だから思っていた、非常に自分勝手な考えだと、恥ずかしさに身悶えする思いがした。
 
思えばその日から、次男の不登校を受け入れる体制が、少しずつ私の中に出来始めたのかもしれない。
 
学校は、楽しいこともある。でも、理由は分からなくても、どうしても合わない子がいる。それはもう、アレルギーのようなものだ。
 
アレルギーなら、無理をしたらいけない。違う道を探そう。
 
きっと、次男も私も笑って過ごせる場所が、どこかにあるはず。地球はとっても広いのだから。
 
 
 
今でも時々思い出す、あの朝の光景。
願わくば、あの子たちが、今明るく楽しい道を歩いていますように。
今の次男のように。

 
 
 
 
***
 
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2024-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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