なんだっけはモネのように
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記事:punneko(ライティング・ゼミ9月コース)
「あのドラマに出てるあの、シュッとしてるあのひと……えーと……なんだっけ」
「この花の名前なんだっけ」
「なんだっけ」が多くなると老化の始まりだ、なんて
どこかで目にしたことがあるけれど
私の雑談中の「なんだっけ」は今に始まったことではなくて
若いころからずっと、である。
その場で思い出して
ああ、あれだ、
となることもあれば、
最後まで思い出せなくてそのままになるものもある。
雑談なので、
なにか目的があって
正確な情報を伝えようとしているわけではないから
特に問題はないかな、と過ごしてきたのだけれど。
ここ最近、
AIが発達し、
携帯電話に搭載されて
検索がしやすくなったことで
雑談中の相手の対応が変わってきたなあ、と感じる。
なんだっけ、と言った瞬間に
相手が携帯電話を取り出して、
私が言ったキーワードを
いくつか入れて検索してくれようとする。
一緒に歩いていて、
季節の移ろいに自然が美しく変化しているのを見ながら
「ああ、この花が咲いていると秋って感じがするよね。
この花……なんだっけ……」
と言いかけた瞬間に
携帯電話がすっと出てきて、
写真を撮り、その画像を分析してなんの植物かを
教えてくれようとする。
「親切に教えてくれてうれしいんだけど、
正確な名前が知りたいんじゃなくて、
あれなんだっけ、
なんだっけねえって言い合っているのが楽しいの」
と笑いながら言うと、
相手も
ああ、そうか、そういえばそうだねと
携帯電話をしまいながら納得してくれる。
AIを搭載した宝の小箱である携帯電話の発達は
瞬時に正しい情報にたどり着ける便利さと同時に、
今すぐ調べられるのだから
正しいことを調べないとといけないというような
曖昧さが許されないような
オブセッション(強迫観念)も呼び起こすのだろうか。
手元の機器で簡単にすぐに調べられる。
それは便利で、時に窮屈でもある。
AIの便利さが、
曖昧さの美しさを少し侵してしまうような感覚を
最近とみに感じるようになった。
AIの便利さと曖昧さのバランスが
これからの人間の課題なのではないかと思ったりする。
曖昧さは、
人間に許された文化のひとつではないだろうか。
人間らしさ、とも言える。
最近モネ展が開催されていて
観に行ってきたのだけれど、
モネの絵は
何が描いてあるのか
輪郭がはっきりとしないものも多く
とても曖昧だけれど
観ているものの心を打つ。
ぼんやりと霞んだ水面、
揺らぐ花の影
差し込む光……。
曖昧さが生む心地のよさ、
模糊の美しさがそこにはある。
モネの絵が放つ柔らかな光や、
水の揺らぎを
そのままに受け取って
心に刻んだり
楽しんだりできるのは、
人間だからこそ
できることなのではないだろうか。
モネの絵画を目の前にして
ここには何が描かれていて、
これは何という種類の花で
この白い点は光ではないか、
などと解析してしまうのは
批評家や専門家には必要なことかもしれないけれど
そういうことが大好きな人は別として
一般人にとっては楽しみ方をひとつ
失ってしまうことかもしれないと思ったりする。
余韻というか、
余白というか。
曖昧さの妙というか。
雑談や、正確さが求められていないことくらいは、
あえてはっきりさせない
美学みたいなものがあっていいのではないかと思う。
その場でなんとなくその空気感を楽しんで、
特に有益な知見など生み出すこともなく消えていく、
正しいか正しくないかもよくわからない、
そんな時間があってもいいのではないかと。
記憶の揺らめきの中でぼんやり浮かび上がる
AIも携帯電話もとても便利だけれど
介在させることで
人間らしい感動が減ってしまうことも
あるのではないだろうか。
今、この瞬間に
そのツールを介在させることが
本当に必要かどうか、
を人間が都度都度判断するようにすること。
便利さと不便さを選び取るバランスが
大事な点かもしれない、とも。
自然の中にでかけるとき、
人と雑談として話すとき、
正確さが必要ないとき、
AIや携帯電話はあえて持ち出さず、
曖昧さを楽しんでみる時間を
意識的にもってみるのはいかがだろうか。
記憶の揺らめきの中で
ぼんやり浮かび上がるもの。
それをあえて味わってみるのはどうだろう。
より心豊かな時間が過ごせるかもしれない。
そう、なんだっけ。
無理に思い出さないからこそ、
曖昧なまま美しく愉しい。
記憶の霧の中、
名前も意味も曖昧なまま漂うもの。
そんなぼんやりとした美しさが、人の心にそっと染み入る気がする。
曖昧さを曖昧なままに受け取るからこそ
心を打ち、
人間らしい息遣いを感じる
モネの絵画のように。
***
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