メディアグランプリ

くたばれタイパ


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記事:田辺 哲(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
 『Z世代の6割が映画を倍速視聴、「タイパ」重視 民間調査』
 これは日経新聞オンライン、10月31日記事のタイトルである。
 Z世代と呼ばれる1990年代半ば以降生まれの若者のおよそ6割が、映画を倍速で視聴しているという。
 限られた時間で効率よく消費したいというタイパを意識する傾向が見られたという分析が行われていたが。
 何というか、呆れ、嘆息せざるをえなかった。
 そして、これほどまでにタイパというものに縛られている若年層をはじめとする多くの現代日本人がむしろ気の毒にすら思えてきた。
 タイパ。タイム・パフォーマンス。日本語で「時間対効果」。
 最小の時間で最大の効果を上げようという、効率重視と無駄排除の考え方である。
 多くの人々、特に若い世代の人たちに重視されているという。
 今は自由主義の大競争時代。
 また多くのメディアに無数の情報が飛び交うデジタルの時代、最適なものを効率的に選択する為には、必要なことかもしれない。
 多くの人々が、特に時代の変化を敏感に感じ取る若い世代の人々が重視するというのも、ごく当然のことだろう。
 
 しかしここで私は、タイパという価値観と、それを重視する世の風潮に、あえて異を唱えたい。
 営利企業で仕事をしている時ならばともかく、それ以外のことでタイパだのを気にしなければならないなんて冗談じゃない、とすら思う。
 ましてや映画の視聴など、個人の趣味や楽しみの世界にまでそんなものに縛られるなんて!
 
 私はもう15年以上、休日の度に京都やその周辺の地域に出かけては、写真を取ったりして、それを元にブログ記事を書いている。
 しかしながら私自身は、昔からずぼらで不器用で、さらに計画性も無いという人間である。さらに、方向音痴でどんくさいから、バスや電車を乗り間違えたり、目的地と全く逆方向を進んでいたりすることも少なくない。
 そんなものだから、私の行動には無駄が多く、仕事以外ではタイパなどとはほとんど無縁の生活をしている。
 だがその無駄や計画性の無さこそが、役に立っている。もっと言えば、それがあるからこそ、次々と新しい発見があり、私の趣味の散策やブログ記事の執筆もより楽しく、充実したものとなっている。
 どういうことかを最近の例で見てみる。
 
 東京の品川付近へ出張に行った時のこと。
 半日だけ自由になる時間があったので、どこかへ出かけてみようという気になった。
 宿泊所からそう遠くないところに鈴ヶ森刑場跡という史跡がある。
 よし、そこへ行ってみようと思い立って、バスに乗った。
 その途中、ふと思った。
 「確かそこは心霊スポットとしても有名な場所だったな。万が一でも祟りとかあったらこわそうだし、せめてどこかの寺か神社に参詣してから行こうか」
と、バスの中で近くの寺や神社を検索、その結果、美原不動尊という小さな寺院を発見。そこへ寄ってみようと、途中のバス停で下車する。
 ここでまた、道路を挟んだ向かい側に大きな神社を見つけ、引き寄せられるようにそこを訪れる。
 そこは大森神社という古社だった。昔この岸辺に流れ着いた黄金の像を御神体として祀っているという面白い由緒を持つ神社であった。
 ようやくここで当初の目的であった鈴ヶ森刑場跡を訪れようとする。
 が、何と。
 目的地と全く反対方向に進んでいたことに気付き、元来た道を戻る羽目に。
 ようやく鈴ヶ森刑場跡にたどり着いた頃には、日もとっぷりと暮れた後だった。
 全く、我ながら本当にドジで無計画、行き当たりばったりだな、と苦笑してしまう。
 しかし全く後悔はなかった。
 むしろ、旧東海道沿いの歴史あるスポットを幾つも巡り、それまで全く知らなかった神社仏閣とめぐり会うことも出来て、実に楽しく有意義な時間を過ごせたと思っている。
 
 私の散歩や散策、旅行はたいていこのようになる。むしろ計画通りに行かないことの方が多い。
 しかし計画性や効率など二の次で、ふと気が向いて立ち寄った場所で、思わぬ発見や出会いがあったりする。
 そこが面白い伝承や、歴史的な事件の舞台であったりとかもする。
 何の気なしに立ち寄った店に、予想外に長い時間滞在して、それからすっかりお気に入りになり、その店主とも十年以上の付き合いになってしまったということもある。
 
 むしろ無計画や無駄を、そこから生じる様々な出会いや発見こそが楽しいのだ。
 タイパなどといった、効率重視や無駄排除など一面的なものに重きをおくような価値観やスタイルでは、決して辿り着くことも、理解することすら出来ない楽しみだろう。
 
 この資本主義の世の中、タイパやコスパなど効率重視の考え方が必要となる時もあるだろう。
 しかしそれらもまた、人間がより良く、楽しく生きる為の手段である筈だ。本来は。
 その為に、本来の楽しみまで犠牲にしてしまうのは本末転倒だ。
 
 少なくともこの私は、せめてプライベートの楽しみくらいは、タイパなどというものに縛られないでいたいものだ。
 今後も無駄で、無計画で、行き当たりばったりの旅や散策を楽しみたい。
 映画などを観る時も、早送りで倍速視聴などという、それこそ本当に無意味なことはしないでおきたいものだ。
 
 
 
 
***

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2024-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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