古くて弱いものが最強だった! というお話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松本尚美(ライティング・ゼミ9月コース)
京都室町の街角。おしゃれな感じだが、何を売っているのか分からないお店があった。陶器なのか植物なのか、はたまた現代的なアート作品なのか? 気になって入ってみると実は着物のお店だった。
店員が、店内に展示してある着物達のストーリーを熱く語ってくれた。
「日本に古くからあった繊細な絹織物を再現し、製品にして販売しています!」
現代は、蚕の改良が進んでいる。特に中国産。
強くて大きくて太い糸を出す蚕が、大量生産、大量消費にもってこいなので人工的に改良を重ねてきた。今の蚕は人の手によって、昔の小さな蚕とは全く違うものに作り替えられているとのことだ。
ここの店主としては、昔ながらの日本の着物のこまやかで美しい織り柄をなんとしても再現したかった。その為には、今の太い糸では使いものにならず、原料から見直さなければならない。昔ながらの細い絹糸を出す蚕を求めて世界中に探し回った。
そして、探し当てた。なんと。ブラジルに! 昔ブラジルに移住した日本人が持ち出した蚕を使っての養蚕が今でも営まれていたそうだ。
現在、ブラジルの養蚕家と提携して、日本古来の幻の絹織物を再現、製造・販売しているそうだ。
私は着物を見て歩くのは好きだが、専門家ではないので感覚的なことしか言えないが、確かに、細い絹で織り上げられているのは、わかる。図柄が、あり得ないくらい細かい。例えば古布の切れ端に出てくる、もやけた糸の一本一本までを、織り込んだ図柄として表現することが可能だ。これがどんなにすごいことかは、見てみないと分からない。手触りも格別に優しい感じがした。
店主が日本古来の、この絹織物に惚れ込んだのも理解できる!
採算度外視して? 世界中に蚕を求め、織りの技術を現代につないだ情熱はキチガイ沙汰だが、わかる気がした。
現在一般的なのは太い糸を吐き出すカイコ。人の欲望に合わせて自然からどんどん離れて改良され続けてきた。
現代は何かと「強くて大きくて少しでも利益を生み出すものを!」という方向性で動いているのかもしれない。が、古くから引き継がれたもの。より自然に近いもの。弱いものが残っていて、急に輝きはじめることがあるのかもしれない。
この話に感銘を受けた私は、30年近く前にもなる、私自身のある体験を思い出した。
古くて弱くて使われることが少なかったからこそ逆に強かった、という不思議な話。
次男が赤ちゃんだったころ。
満1歳になる前に中耳炎にかかった。職場の育児休暇が間もなくあけて、出勤開始というタイミングだった。
上の子も何度か中耳炎にかかったことがあった。服薬して2~3回耳鼻科に通院すれば治った。次男の場合もすぐによくなるだろう、と簡単に考えていた。
しかし、検査をしてみた結果は深刻だった。
MR SA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染しているとのこと。抗生剤に耐性がついてしまっている。効く薬がない。
「このような場合、薬のなかった時代に行われていた治療法に頼るしかありません。原始的なやり方です」いつもお世話になっている町医者が伝えてくれた治療法というのは、専用の注射器できれいな水を耳の中にいれ、毎日洗い流す、というものだった。
「毎日1回耳を洗浄します。菌が繁殖しないように清潔を保ち、あとは自然に治癒するのを待ちます。こちらの施設ではそのような対応はできませんから大きな病院を紹介します」とのこと。
以後、電車で往復して2時間はかかる大きな病院に毎日通うことになった。
次男の誕生日が6月半ば。ちょうど梅雨時だったので、雨が降る日も蒸し暑い日も。赤ちゃんを抱えて病院で半日過ごした。
赤ちゃんの時に、中耳炎になって耳の聞こえが悪いと脳の発達に重大な影響が出ることがある」という専門家の話を聞いて心配もした。
MRSAだったからこその「よいこと」も一つだけあった。MRSAだったゆえ、一ヶ月間育児休暇を伸ばしてもらうことができた。特例措置だった。これは有り難かった。
通常は、後ろ髪を引かれる思いをしながら、かわいい盛りのわが子を保育園に預けて仕事に復帰する。
「少しでも長く赤ん坊と一緒に過ごせて、幸せ」だった。
「不幸に違いない」渦中に居たにもかかわらず。
生後1年の赤ん坊は成長が早く、毎日何かしら変化する。毎日の新しい発見に喜びを感じながら育児に携われることは幸せだった。「幸せって何なのだろう?」考えさせられた。
毎日欠かさず。2週間ぐらい病院に通っていたある日。
主治医からの話。
「朗報があります。効く薬がたった1つだけ見つかりました。
古くて弱いので、現在ではほとんど使われていなかったミノマイシンと言う抗生剤です」
現在あまり使われていないからこそ、ミノマイシンには耐性がついていなかったとの説明だった
「治 る 抗 生 物 質 が 見 つ か っ た!」
ミノマイシンの投与が始まると、みるみる状態が良くなっていった。耳だれが出なくなった。
その後のチェックで鼓膜の穴もちゃんと塞がったのが確認された。心配した聞こえの問題も、テストしてみた結果ではさほどの悪い影響はなかった。
より強いもの。より大きいもの。より金儲けにつながるもの。
現代は一直線の価値観の上に肥大化して、我も我もと先を競っていくのだろうか?
この世は「強いものに飲み込まれて弱いものが消えていくしかない世界」なのか?
いや、
弱肉強食の中でも潰されずに堪え、細々と営み続けてきたものが、誰かの発見により日の目を見て光り輝く事もある。
価値が分かって生かそうとするクレイジーな人間が、確かな存在としてこの世界に、居る!そのことに、そこはかとなく魅力的に感じる。現代も捨てたものじゃない!
PS 当時の医者の説明に感動して「ミノマイシンが古くて弱かったゆえに救世主となった!」と今でもミノマイシンに感謝しているのは事実ですが、専門家の目からして「誤った」ものであっては困ると思ったので調べてみました。
当時(1990年代)抗生剤使用の使用勢力図を円グラフで「Chat GPT」に示してもらいました。その結果「ミノマイシンは3割程度。それに次いでセファロスポリン系やペニシリン系が使用されている」との回答がありました。(「Chat GPT」も間違うことがあるそうなので鵜呑みにはできませんが。)
ミノマイシンは、新たに開発されはじめた強い薬とはタイプが違ったようですが、「古くて弱くてあまり使われていない」というのは事実が異なるみたいです。「たまたま、次男の耳の中にいた菌には過去にミノマイシンが使われていなかったので、耐性ができていなかった。だから効く!」というのが正確でしょう。
念願の薬が見つかったことを、医者がわたしに少し誇張して「ドラマチック」に伝えたかったのかもしれません。お恥ずかしいことですが、私が勝手に感動して拡大解釈していたのかもしれません。
私の心の中に大事にしまってきた、とっておきの感動秘話ですが、このような「但し書き」をつけて今回の記事とさせていただきます。
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