「お間違いありませんか? 」が持つ魔法
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:丹羽由紀子(ライティング・ゼミ9月コース)
「女性用のMサイズですが、お間違えありませんか? 」
三連休の最終日、ようやく順番が回ってきた白髪の男性に、レジのスタッフが丁寧に声をかけていた。
彼は
「あ、女性用? 違うな。ぼくが着るんだから。男性用はどこにあるんだっけ? 」
と笑いながら売り場に消えていった。
「良品週間」には、日用品や雑貨をお得に購入しようとする人々が押し寄せる。いつもこの時期は大混雑だが、今日は特に長蛇の列。午後3時過ぎのレジ待ちは、釧路湿原を蛇行する釧路川のようにうねっていて、私も気長に待つしかない。
カヌーでのんびり川を下ったあの夏の日がふと思い出される。とはいえ、この列はカヌーのように快適には進まない。「待てど暮らせど順番が来ない」というあきらめに似た気持ちは、だんだん釧路川の悠久さにも似てきた。周りを眺めると、みんな一様にスマホを眺めているので、私も以前誰かが「銀行のATMで待ってる間に夏が終わりそう」とつぶやいていたツイートを思い出して笑っていたところ
「どうぞ~」
とレジスタッフさんに声をかけられ、ついに自分の順番が来た。
これだけ混雑していると、白髪の男性が探しに行っているのを待てないと判断した店員さんは、彼が戻ってくるのを待たず、私の会計を先に進めることにしたようだ。レジに立つ女性はまるでこの店のポスターから抜け出したような清潔感あふれる人で、さらりとしたボブの髪が白のプルオーバーによく似合っている。
「男性用のSサイズとXSサイズの2種類で、お間違いございませんか? 」
と優しい声で確認してくれる。
「はい、大丈夫です」
私は時間を取りたくないので手短に答える。着心地の良さから、数年前からこの店の男性用TシャツのXSとSサイズをリピート買いしているのだ。
並んでいる間にあらかじめスマホで会員証を準備し、支払いはアプリを切り替えて○○Payで手早く会計が済んだ。私も満足、店員さんもにこり。私の会計で夏は終わらせない「いとおかし」のひと言を胸に会計を終える。
ホッとした私は、先ほどの白髪の男性が目的の商品を無事に見つけたのか気になり、レジから離れて後ろを振り返ってみた。店員さんに売り場を案内してもらっているのが見え、少し安心。彼も再びレジに並び直さなくてはならないから、しばらく時間はかかるかもしれないけれど、なんとか男性用のMサイズを手に入れるだろう。
帰り道、ふと思い出して苦笑いしたのは、昨日届いたネット注文のハニカムシェードのことだった。リビングの出窓用に、幅80センチのものを1つ、幅1メートルのものを2つ購入していたのだが、これが今日と全く真逆だったのだ。
ハニカムシェードの商品ページには「ホワイト」と書かれていて、掲載画像も柔らかな光が差し込むイメージがふんだんに並んでいた。イメージするだけで部屋がぱっと明るくなり、理想の空間が広がる。カーテンレールに取り付けるための金具も同時に注文済み。届いた商品を手に取ると期待感も高まって、まずは80センチ幅のシェードをカチッとはめると、なんとも美しい仕上がり。和風の趣が感じられる柔らかい日差しが、窓辺から優しく部屋を包み込んでくれた。
「よし、あとは1メートル幅のシェードを2つ取り付ければ完成だ」
と意気込んで作業を続ける。不器用な私でも意外に手早く装着が済み、さっそく3枚のシェードを下ろしてみると、そこでまさかの違和感が。
「え、色味が違う……」
80センチ幅のシェードはどう見ても「オフホワイト」、そして1メートル幅のシェードは「アイボリー」で、明らかに色合いが異なっている。ネットの商品画像ではどちらも「ホワイト」としていたのに、どうしてこうなったのか。日が暮れるまで様子を見ても、夜の闇でも変わらず、オフホワイトはオフホワイト、アイボリーはアイボリーのままだ。
店舗での購入なら、レジの店員さんが「色味が少し異なりますが大丈夫ですか?」とひと声かけてくれたかもしれない。でもネットでは、私が3枚並べて使おうとしていることなど、誰も知るはずがない。まさか私も「ホワイト」の色味が違うとは夢にも思わなかったのだ。
一瞬、80センチのシェードだけ交換してもらおうかと考えたが、交換品が今手元にある1メートル幅と同じ「アイボリー」でなく、「オフホワイト」のままで来る可能性のほうが高いだろう。こうしたらどうなるか、頭の中でさまざまなシミュレーションをしてみるが、どれもパッとしない。結局、思い切って販売元に事情を話してみたところ、なんと3枚とも返品を快く受け入れてくれた。あっけないほど簡単に返品が通ったため、「ひょっとして、これもよくある事例?」と少しばかり安心したりもする。
ネットでの買い物では、売り手も買い手も互いの顔が見えない。こちらの体格や使う場所、さらには希望する雰囲気さえも伝わることはないし、伝える機会もない。しかし、店舗での買い物では、商品を手に取ってみたり、ちょっとしたやり取りの中で「この人にはこのサイズや色が合うだろう」といった推測と人肌の思いやりが働くことがある。
良品週間の混雑した店内で、長く待つのは釧路川のような会計待ちの列。白髪の男性がレジで「女性用ですか?」と突っ込まれ、私が「お間違いありませんか?」と尋ねられるあのやりとりが、やはり便利さだけでは味わえない豊かさを秘めているのだ。
少し手間がかかっても、顔を見ながらの買い物で得られる安心感を改めて感じた三連休だった。
***
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