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乳がん検診と元カレの言動で「塞翁が馬」を実感した話


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記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「人間に起こることは全て、幸か不幸か予測がつかない。ある出来事が一見不幸に見えても、後に幸運につながることがある」
 中国の故事成語「塞翁が馬」の意味である。
 
初めて聞いたのは、確か受験勉強の時。あの頃は、良い点数を取るために、志望校に合格するために覚えただけ。でも、大人になってから「痛み」を伴って、この意味を実感した。
 
社会人になって数年目。職場の乳がん検診を受けた時、「乳管内腫瘤の疑いあり」と診断され「要精密検査」になった。自覚症状はなく、痛みも感じたことがない。まさに「寝耳に水」で、病院の待合室で涙が止まらなかった。
 
母は、「再検査は念のため。腫瘤だって良性だってことも多い」と慰めてくれた。その言葉を胸に、評判の良い先生のところで再検査することに。
それでも「もしも悪い病気だったら?」と不安で押しつぶされそうだった。
 
当時、付き合っている彼氏がいた。月に一度会う遠距離恋愛。なんとなく見た目がタイプで、話も面白いし、なんとなく、将来のことも考えていた。
 
彼氏には心配をかけたくなかったが、「何でも言い合える関係が良い」と言われていたので、再検査前日に伝えることにした。不安も少しは和らぐかも、という期待も込めて。
 
「明日再検査だけど、ちゃんとした病院で、先生も優しくて良い人みたいだから、あんまり心配しないで。検査で何もないことを願っておいて」とLINEで送る。
 
数十分後、1,000字を超えるメッセージが届いた。初めて見る彼の一面に、頭は真っ白。
 
「とにかく検査なんか行くな!」
「医者の言うことは信用するな。俺は何年も病院に行っていないけど健康だ」
「俺は、健康診断も人間ドックもワクチンも絶対に受けない!」
「ガンだったとしても、治療なんかしなくて良い。ガン治療は単なる金儲け」
「沙和ちゃんのことを大切に思っているから言っているの!」
 
彼は、医者の言うことは一切信じない。ワクチンも一切接種しない。健康診断や人間ドックも一切受けない、らしい。徹底した「アンチ医療主義者」だった。
 
もうすぐ日が変わるというのに、すぐ電話をしろと言われ、怖くなり電話した。
 
私の話は一切聞かず、ずっと自分の意見を言うだけ。状況が飲み込めず、相槌すら打てなかった。
 
「両親も心配している。検査だけは受けたい」振り絞った声で言った。
 
「親」という単語を聞いたからか、物理的に離れているからか、彼は一旦諦め、「検査だけは別に受けても良い」と言い電話を切った。遠距離恋愛で良かった。
 
もう彼氏と呼びたくない。
 
私が不安でいっぱいなのに、自分の考えを押し付けることしかできない、彼の本性が判った。相手の気持ちも全く察することができない人だということも判り、悲しくなった。
この人が、悪魔に見えてしまった。
 
再検査当日。父親が「大丈夫、何とかなるよ」と優しく言ってくれた。そして、再検査の担当の先生も柔らかな口調で「まあ大丈夫ですよー。すぐに終わりますし、職場検診の再検査で来た時は、何もないことの方が多いからね」と言ってくれた。父と先生が、壊れそうな私の心を救ってくれた。
 
検査後、彼に「結果は2週間後」と伝えたが、また自分の考えを繰り返していた。でも、あれだけ自分の主張をしていたのに、それからはなぜか検査や医療のことを含め何も言ってこなかった。
 
そして検査結果の日。陰性だった。
両親も先生も喜んでくれた。もちろん、私も。
面倒だったから彼には伝えずに。
 
彼の価値観や本性が判ったことで、結婚を真剣に考える関係にはなれない、命の価値観が合わない人とは一緒にいたくないと思うようになり、別れを意識するようになった。LINEのメッセージや電話でも、上っ面の言葉だけを並べる。
 
そして、些細なことで大喧嘩となり、なじり合うメッセージのやり取りがしばらく続く。ここぞとばかりに、私は別れを切り出した。
 
お互い仕事が休みだった日曜日の朝、2時間近く電話で話す。
 
彼は、「医療や健康のことは議論の余地がある」「もう少しだけ恋人同士の関係を続けても良いんじゃないか」と言ってくる。
 
でも、私の答えは一つ。「命にかかわることで絶対に意見は譲れない。別れよう」
 
再検査の件と大喧嘩をした後もあり、怒ると怖くて頑固で面倒くさい私の性格に嫌気がさしていたからか、最終的には別れてくれた。
 
直後は、彼との楽しかった思い出が蘇りたくさん泣いた。でも自分の将来を考えると、彼から解放されてホッとした気持ちの方が、明らかに勝っていた。
 
再検査と分かってからは、ショックで本当に不安な日々を過ごした。そして、彼の言動でさらに不安になってしまい、「なぜ自分ばかりに不幸なことが起こるの?」とストレスは計り知れないものだった。
 
でも、早い段階で彼の価値観や本性を知ることができ、別れることができたのは、結果的に幸運だった。まさに「塞翁が馬」だった。
 
もしあの時、職場の女性検診を受けていなかったら?
もし再検査の前日に、彼に全てを話していなかったら?
もし私が勇気を出さずに、きちんと別れていなかったら?
 
万が一彼と結婚し、その後に彼の本性が分かってしまったら、取り返しのつかないことになっていた。
それは私にとっても、そして産まれたかもしれない我が子にとっても。
 
そして、どんな人と一生を添い遂げたいか、はっきりとした考えを持つようになった。
 
今までは正直、異性と付き合うのにはっきりとした価値観を持っていなかった。
なんとなく見た目がタイプだから、面白い人だから、優しそうだから、愛情表現が豊かだから。大事なことなのに、全てが「なんとなく」だった。
 
この出来事で、命に関わる大事な価値観については妥協してはいけないことを学んだ。そして、自分が不安で悲しい時には、あの時の父親や先生のように「大丈夫、何とかなるよ」と言って、寄り添ってくれる人と一緒になりたい、と強く思うようになった。
 
大事なことを「なんとなく」で考えて決めていては、幸せにはなれない。
 
「人はいつ病気やケガをしてもおかしくない。後悔しないように、やりたいことはやろう!」今まで以上に、趣味の旅行や習い事、勉強に力を入れるようになった。
受け身な恋愛から卒業し、私が辛い時に「大丈夫?」と寄り添ってくれる彼氏と出会えた。
 
身を以て知った「塞翁が馬」の意味。
嫌なことが起こると辛い気持ちになるが、その後には良いことが起きる、ということ。
だから、嫌なことが起きても、あまり凹み過ぎない方が良いということ。
 自分にとって大切なのは何かを考えて、行動すること。
 そう自分に言い聞かせてこれからも生きていく。
 
 
 
 

***

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2024-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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