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農神祭と血塗られた闇の歴史


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記事:田辺 哲(ライティング特講)
 
 
 なんということだ!!
 地域の祭や伝統行事の裏側に、闇に葬られたはずの、血塗られた歴史があったとは。
 我々の先人たちがやってきた、紛争や虐殺の事実が隠されていたとは。
 そんなことに気付いてしまったのは、今から十年ほど前のことになる。
 
 近畿各地には、五穀豊穣を祈願する農神(のうじん、のうがみ)の祭が遺されている場所がある。
 その中で3つ、似たような祭がある。
 
①山科・二の講
 京都府山科区・小山で毎年2月9日に行われる伝統行事。南北朝時代、内海影忠という武士が小山の里を荒らす大蛇を倒したという伝承に基づき、藁で創った大蛇を祭って、豊作祈願を行う。
 
②奈良橿原・シャカシャカ祭
 奈良県橿原市上品寺町で毎年6月5日に行われる伝統行事。昔、村人に悪事をはたらいて退治された大蛇の霊を供養する為、藁で創られた大蛇を祭る。
 
③勝部・住吉の火祭り
 滋賀県守山市の勝部神社と住吉神社とで毎年1月の第二土曜日に行われる伝統行事。
 昔、悪事をはたらいた大蛇を斬り殺し、その頭が落ちた住吉神社と、胴体が残ったとされる勝部神社とで、大蛇に見立てたたいまつを派手に燃やして、五穀豊穣と無病息災とを祈願する。
 
 おわかりいただけるだろうか。
 
 いずれも、大蛇が悪役かつ主役として登場し、悪事をはたらいて退治された大蛇の霊を祭ることによって、五穀豊穣を祈願している。③の勝部・住吉の火祭りは、供養というより、大蛇の死体を火葬する、もしくは焼き殺しているという印象も受けるが。
 そこに幾つかの疑問もわいてきた。
 
 それぞれ離れた3つの地域に、同じような大蛇退治の伝承に基づいた祭りが伝えられてきたのは一体、何故なのか?
 
 それらの伝承に登場する大蛇とは何者なのか? 何を表し、象徴しているのだろうか?
 
 それぞれの伝承に登場した大蛇とは、本当に人間に危害を及ぼすような邪悪で危険な存在だったのだろうか?
 そんな存在を供養しようとするのは何故なのだろうか? 
 
 などなど。
 考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
 
 その疑問が解けたのは。
 或いは、解けたような気がしたのは。
 ③の山科・小山地区での二の講を訪れた時であった。
 その祭りで、大蛇を退治したという武士・内海影忠の子孫とされる内海家に伝わる「内海家文書」のコピーが配られていた。私は地元の方に頼み込んで、コピーのひとつを分けて頂いた。
 そこには、内海影忠が大蛇と戦って倒した時やその後の様子などが記されていたが、 その中に、気になる記述を発見した。
 それは、「影忠が大蛇を倒した時、不思議なことに、その日一日、清水寺・音羽の滝の水が赤く染まった」というくだりである。
 この記述を読んだ時私は、私の歴史・妖怪研究の大先輩ともいうべきK氏から教わったことを思い出した。
 「坂上田村麻呂が清水の観音様を祭る前、そこでは出雲の民が大国主を祭っていました。現在でも、大国主を主祭神とする地主神社が清水寺境内にあるのはその名残です」
 「大国主は蛇身の姿の大己貴命(おおなむちのみこと)としても崇められています。蛇とは、大己貴命を、それを崇める出雲系の人たちを象徴するものでもあるのです」
 その時K氏のお話と、内海文書の記述とが合わさって、今まで農神祭やその悪役である大蛇の謎などが一気に解けたような気がした。
 興奮したと同時に、恐ろしくもなった。
 
 古代日本の一時期において、大和の国を上回る勢力を誇った出雲の国とその民。
 しかし後に大和に敗れ、征服・吸収されることになってしまった。
 日本神話の「大国主の国譲り」はその歴史的事実を象徴しているともよく言われる。
 そしてそのような「国譲り」が、現実には平和的に行われていなかったとしたら。
 その過程で、紛争や虐殺などもあったとしたら。
 各地の農神祭で悪役とされる大蛇の正体とは、蛇身の神を崇める出雲系の人たちやその共同体を象徴していたのではないか。
 我らの先祖である大和の民は、出雲の人々と血で血を洗う闘争を繰り広げて、土地を奪うことによって豊かになっていった。
 大蛇を退治することによって豊作になるという農神祭も、今では闇に葬られたそんな歴史的事実を表しているのではないだろうか。
 「退治した大蛇に水を飲ませる」シャカシャカ祭り。
 「大蛇を派手に焼く(焼き殺す)」勝部・住吉の火祭り。
 そして、「音羽の滝が(おそらくは出雲の民の血で)赤く染まった」という内海家文書の記録などから。
 大和と出雲との土地を巡る闘争の過程で、かなり凄惨な虐殺なども行われたのではないか。そんな推測や想像すら頭に浮かんで来る。
 
 以上はまだ決定的な確証も無い、断片的な情報をつなぎ合わせた私の推測か想像に過ぎない。
 しかし、世界中ほとんどどの民族も、こういう負の歴史も抱えているものだ。
 大和民族も、そのような闇の歴史があってもおかしくはない。
 日本という国もこのように創られてきたのかもしれない、と思う。
 
 
 
 
***

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2024-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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