FIP:猫伝染性腹膜炎は、なぜ伝染しないと思われていたのか、また本当に伝染しないのか?
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記事:琴森美香子(ライティング・ゼミ11月コース)
「FIP」の3文字は、長い間、猫の飼い主にとって、恐怖の象徴だった。
なぜなら、FIP、正式には猫伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis)は、長年、有効なワクチンも治療薬もなく、不治の病とされてきたからだ。
最近になって治療薬が登場し、完治する猫が増えてはきたものの、治療費の相場は1頭当たり60~120万円と非常に高額である。そのため、FIPにかかった猫の、治療費支援を求めるクラウドファンディングを頻繁に見かけるようになった。
そのたびに、「もしも、我が家の猫2頭が次々にFIPを発症したら、大変なことになる」と考えていた私は、ある日、FIPについて詳しく調べ始めた。その結果、混乱することになる。
「FIPは猫から猫へ感染しない」と記載するサイトがある一方で、「感染する」とする情報もあったからだ。
一体、なぜ、これほどまでに正反対のことが書かれているのだろうか?
そもそもFIPは、猫コロナウイルス(FCoV)といって、世界中の猫の集団内に広く存在するウイルスが、病原体である。
「コロナウイルス」と聞けば、2020年から世界中で猛威を奮った新型コロナウイルスを連想すると思うが、猫コロナウイルスも、新型コロナウイルスと同じコロナウイルス科に属している。
ただ、「種特異性」といって、同じコロナウイルスでも動物ごとに感染するタイプが異なり、猫コロナウイルスが人に感染する心配はない。それに、猫コロナウイルスは、猫にとっても、通常は軽度の下痢を引き起こす程度で、ほぼ無害だ。
しかし、猫コロナウイルスが、猫の体内で【突然変異】を起こすと、無治療であれば 99.9%が死に至る、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)へと変化する。
このように、【突然変異】という、偶発的、且つ、ランダムな出来事が、FIPウイルスの発生に必須であることから、「FIPが猫から猫へと伝染することはない」と考えられてきたのだろう。
ところが、2023年、衝撃的な事態が発生する。
約100万頭の猫が暮らす、地中海のキプロス島で、FIPの感染爆発が起こったのだ。
キプロスでは、ヒト用に備蓄していた新型コロナウイルス感染症の治療薬、モルヌピラビルを猫に投与し、何とか感染拡大を抑制した。しかし、発症率は驚異の40%に達し、一部では約30万頭もの猫が犠牲になったと推計されている。(確認されている正確な死亡数は、約8千頭)
その後の研究により、感染爆発の原因となったウイルスは、猫コロナウイルスと、犬コロナウイルスが、遺伝子組み換えを起こして生まれた新型のウイルス(FCoV-23)であることが明らかになった(Science, Vol 382, Issue 6673, 2023. doi: 10.1126/science.adm9513)。
このウイルスは、糞便を介して排出され、他の猫に容易に感染することで、感染爆発を引き起こしたと推察されている。
つまり、従来、FIPは猫同士で感染しないと考えられてきたが、新たなウイルスの出現により、強い感染力を持つ病へと変貌を遂げた可能性が示唆されたのだ。
賢明なる読者の皆さまは、もう、お気づきであろう。
FIPが、「猫同士で感染しない」と記載された情報源は、おそらく、2023年のキプロス島での感染爆発以前に書かれたものであり、「感染する」とする情報源は、2023年以降に記されたものだろう。
このことから学ぶべき教訓は、「医療に関する知識は、常に最新の情報に基づいて更新し続ける必要がある」ということだ。
ウイルスは、常に変異を続けている。
過去の情報に頼って誤った対応をすれば、愛する人や動物を、思いがけないリスクに晒すことにもなりかねない。
とはいえ、ネットの検索結果で、関連サイトやページの発表・更新日を一つ一つ確認するのは手間だ。しかも、ページに作成日の記載がない場合も多いだろう。そこで、Google 検索を使った簡単な方法を紹介する。
Google 検索で、検索ワードを入力し、検索を実行
検索結果が表示されたら、「ツール」(画像・動画などの検索オプションが並ぶバーの右端)をクリック
「期間」をクリックし、指定したい期間を選択
カスタム期間を選ぶ場合は、「カスタム範囲」を選び、カレンダーから開始日と終了日を設定
この方法で、指定した期間内に発表・更新されたウェブページだけを表示することができる。
もちろん、この方法は、内容が最新であることを保証するものではない。
しかし、少なくとも2023年以降に発表・更新されたページでなければ、キプロス島の事例は反映されていないであろうから、情報を取捨選択する上での一助となるはずだ。
ぜひ、参考にしてほしい。
***
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