アメリカ一人旅、ホテルの予約が取れていない?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
「あなたの部屋、予約されてないかも」
もしかしてそう言っている?
心臓がドキッとする。
フロント係の従業員が話す英語のスピードが早すぎて、何を言っているのか内容が掴みきれない。もう一度聞き返す。
「予約されてないかも」
心の中で叫ぶ。
「え、え、えー!」
アメリカ合衆国の北東部・ピッツバーグ。
ダウンタウンに構える、とあるホテルのフロント。
現地で働く友人に会うため、1人でやってきた。
明日の夕方に彼女と会う予定で、旅の初日はホテルに泊まることにしていた。
ピッツバーグに辿り着くまでに、3本の飛行機を乗り継ぎ、ほぼ1日を機内で過ごしていた。
入国審査では1時間ほど列に並んだ。少しの時差ボケ、おまけに風邪気味。
とにかく疲れている。早く部屋でシャワーを浴びて、ベッドにダイブしたい!
なのに、部屋の予約がされていない?
そんなの、ムリ、ムリ、ムリ!
私に非情な宣告をしてきたフロント係の従業員は、なぜか落ち着いたまま。
ガッチリとした彼女の腕にびっしりと刻まれたタトゥーが、こちらの不安をさらに掻き立ててくるようだった。
長旅と突然のアクシデントでゲッソリした私の顔つきは、雲一つない爽やかなダウンタウンの空と対照的。
でも、「あ、そうですか」と大人しく引き下がるつもりはこれっぽっちもない。
「ちゃんとお金を払っている。2週間前にクレジットカードで引き落としされているんだから」
スマートフォンに保存していた予約確認書を見せて、拙い英語で何度も伝える。
そして、彼女に「Why?」と問いかける。
私史上、一番感情を込めてこの単語を発した。
インターネット予約サイトを使って「予約が勝手にキャンセルされていた」「ホテルが実在しなかった」というトラブルは、メディアで見聞きしたことがある。
私もついに、その被害者になったのか……。しかも、一人旅で、異国の地で。
ピッツバーグの治安は、アメリカの中では良い方らしいが、それでも異国の地。
女性1人で野宿はありえない。日本のように、24時間営業の飲食店もインターネットカフェもない。
ホテルに着くまでの間、怖そうな人達を路地裏で何人も見かけていた。
そして、アメリカの国内線乗り継ぎから感じていたのが、アジア系の少なさ。目的地に近づくにつれ、観光客や現地の人達を含め、アジア系の方を見かけることがどんどん少なくなっていった。
考えすぎかもしれないが、どっからどう見てもアジア系の見た目である私は、歩くだけで異質な存在かもしれない。
ホテルを放り出され、ストリートに迷い込むなんて、尚更ありえない!
フロントのテーブルのフチを力強く握りしめる。
私、ルームカードキーをもらうまでは、絶対に、絶対に、一歩も引かない!
お金は払ったと何度も伝えたからか、私の鬼気迫る思いが通じたからか、彼女は「もう一度確認してみる」と告げ、バックオフィスに駆け込んだ。
待っている間、さらに考えが巡ってしまい、気が気でなかった。
今回の旅なら、仮にここに泊まれなくても、友人に泣きつけば、彼女の部屋に泊めてくれたかもしれない。
でも、物価高と円安でホテル代が高騰する中、それなりに奮発してお金を払った。やっぱり、簡単に諦めるわけにはいかない!
5分後、彼女が戻ってきた。
「大丈夫よ。今からチェックインの手続きをするわ」と。
「本当に? ありがとう!」
良かったー。予約できていたらしい。これでホテルに泊まれる!
ホッと胸をなでおろした。
クレジットカード引き落としのタイミングで、何かの手違いで予約がキャンセルされたらしい。
ただ、英語が完璧には聞き取れないので、本当の理由ははっきりとは分からない。
少し前まで危機にさらされていた私に、もう一度聞き返す気力は残っていなかった。
宿泊できるのだから、もう理由は何でも良いや!
その後は、何事もなかったかのようにチェックインや館内の案内をする彼女。
夕方からロビーのラウンジで無料提供されるドリンクとスナックが、どれだけ素晴らしいかをプレゼンしてくれた。
「過剰なまでに何かを褒めるところが、英語圏の表現らしいな」
そう考えられるくらいまで、私にも余裕が出てきた。
無事に部屋に到着。腰の高さぐらいある、大きすぎるベッドにダイブ!
今回の経験で得た、海外旅行の二つの教訓。
一つめは、毅然とした態度を取りながら、自分の主張を続けること。
例えば、お金を払ったと言い続ける、本当に困った、というアピールをする。
日本では過度な自己主張やアピールは敬遠されがちだが、ここは海外。どう思われたって良い。
自分が安全に異国の地で過ごせるかどうか、もっと言えば自分の命がかかっている。大事なことは、何度でも言ってみる。
もう一つは、翻訳アプリをスマートフォンにインストールしておくこと。
恥ずかしながら、旅行ならサバイバルイングリッシュで何とかなると思っていた。
ただ、詳しいことや細かなニュアンスは分からない。それで不安になるなら、翻訳アプリを使った方が良い。
今回のように「なぜ予約ができていなかったのか」の詳細が分かりにくいと思った時に、翻訳アプリを使えば正しい意味を理解でき、もっと安心できただろう。
現地の通信環境もそれぞれ違うので、オフラインでも利用できる翻訳アプリをインストールするのがおすすめ。
フロントの彼女が、尋常じゃなく褒めていたサービスのマカロニチーズ。
マカロニがブヨブヨで、プリプリ食感の日本のマカロニが恋しくなってしまった。私の好みとは少し違っていたみたい。
気を取り直し、部屋で日本から持ってきたカップ味噌汁を飲み、ほっこりする。
明日からこそ、アメリカンな美味しい料理を楽しむんだ、と意気込みつつ。
改めてこのホテルを見渡す。20世紀初頭に建てられた歴史的な建物と、某日本企業が買収を計画している巨大鉄鋼会社の本社ビルに囲まれていることに気づく。
私はまさに、ピッツバーグの中心にいるんだ。そう実感した。
ホテルの建物自体も、100年前に建てられ、元は銀行として利用されていたものをリノベーションしたもの。
アールデコ様式の荘厳なロビーは、かつてメインバンキングルームだったらしい。
高い天井と大理石の装飾が施されていて、歴史を感じさせる不思議な空間。
今日はここに泊まれて本当に良かった!
夜の9時を過ぎても、夕暮れ時のように明るいサマータイムのピッツバーグ。
思わぬトラブルを乗り越えた今、旅の本当の始まりが待っている。
***
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