鳥の声
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ9月コース)
※この記事はフィクションです。
僕の爺さんは、変わり者だった。
僕の家は、中国山地の山あいの片田舎で農業をしていたから、土地はある。
その家の庭の真ん中に小屋があり、お猿がいた。
お猿は、爺さんが飼っていた。
ある時、猿が逃げ出した事がある。お猿は家に入り母の化粧品を散らかしたりして山に逃げだ。
僕は、小さかったから覚えていないが、母が、その話をするのを何度か聞いて、覚えた。お猿も人に飼われたから、人の真似がしたかったんだろうか。
僕は、お猿がお化粧品の蓋を開けたりする姿をイメージして、「かわいいなぁ」と思った。
だが実際のお猿は、凶暴だ。小さな僕が近づくだけで、小屋の入り口を全身で揺らして威嚇していた。
爺さんはお猿も飼っていたが、何より、鳥が好きだった。
最初の頃は、インコのような小さい鳥が多かったように思う。このほかにも、キジなどの中型の鳥もいた。ホロホロ鳥や七面鳥が庭を闊歩していたのも覚えている。
好きが高じて、家の敷地に鳥小屋を建てた。僕が小学校高学年の頃の話だ。
鳥小屋は、10畳分くらいの大きで、キジのような大きな鳥とインコのような小さな鳥を一緒に飼っていた。
そんな道楽者の爺さんは、仕事をしない。
家業の農業も適当にして、いつも出歩く。
だから僕の父から、よく怒られていた。
でも、僕はずっと一緒に寝ていたし、鳥の餌やりも手伝っていたから、爺さんも僕をかわいがっていた。
爺さんが亡くなって、30年以上が経った。
僕は、今、実家から遠く離れた大きな街の郊外に住んでいる。転居を繰り返し、家族とも別れて、ここに越してきた。ここは昭和のたたずまいを残した小さな部屋。
部屋の前には、桜並木があり、並木沿いは市民の散歩コースになっている。
桜並木の桜たちは結構太く大きく、相当の年数を生きてきてる。そこには、野鳥たちも集まってくる。
部屋の中からでも、野鳥たちの声は聞こえるから、僕は、何かをしながらでも、鳥の声を聞いている。
名も知らぬ野鳥たちの声は、僕にとって心地よく、ここに越してきて音楽を聞かなくなった。
そうやって鳥の声を聞くともなく聞くうちに、爺さんの事を思い出した。
鳥が記憶を運んでくれたのだろうか。
爺さんの記憶を辿って行くと、一つの疑問が湧き上がった。
「爺さんの鳥はどこへいったんだろう?」
爺さんが亡くなった後も、鳥小屋は当分残っていたように思うけど、鳥たちのことは、記憶喪失のように、思い出せない。
ある天気のいい朝、目覚めると鳥の声が聞こえた。
「ここにいるよ 大丈夫だから」
僕には、そう聞こえたように感じ、ハッとなった。
鳥は敏感だ。僕の気配が変わった事に気づいたんだろう。すぐに飛び立った。
不思議に思った僕は、部屋から出て、鳥の声に耳をすました。でも、鳥の声はただの鳥の声としか聞こえなかった。
あれは空耳だったのかと、考え出した頃、また聞こえた。そういうことが何度かあり、僕は、鳥の声を聞くコツを理解した。それは、何も考えず、ただボーっとしてる時だったり、単純作業に没頭している時にしか聞こえないということ。つまり、思考が働かない状況の時、鳥はやってきて話してくれる。
その時、鳥たちは、僕の感情を読みといている事もわかった。
つまり、短いながら、鳥と僕は会話していることになる。
鳥たちと会話していく中で、わかった事がある。
それは、自然を大事にしてくれる人が大好きだということ。逆に自分たちの住処を奪うような事をする人たちが大嫌いということ。鳥たちは敏感だから、一瞬でその事を見抜くようだった。
ただ、会話ができると言っても、時間にすると本当に短い。それはなぜかと言うと、僕の思考が働いてしまうからだ。だから、鳥の声が聞こえて会話できるのは、3秒にも満たない、一瞬の間だけだ。そもそもぼーっとしていないと鳥の声が聞けないわけだから、準備なんてできない。
そんな会話を一年くらいは続けただろうか。
僕は、久々に実家に戻った。爺さんの法事に呼ばれたからだ。新幹線と列車を乗り継ぎ、最後は日に何本かしか走っていない路線バスを使って、帰った実家は、僕が出ていった当時よりも、さらに人が減って寂しく感じられた。それは年老いた両親の姿を見たからかも知れない。
僕は、荷物を置いて、爺さんの面影を探しに家の周りを歩いた。家の片隅に放置された鳥かごの残骸があった。
通り過ぎた月日を感じながら、昔鳥小屋があったところへとぼとぼと歩ていった。そこは、道路拡幅で盛り土され、道路の斜面になっていた。
天を仰ぐように青い空を見た。爺さんの面影は確実に少なくなっていることに、寂しさを感じ、少しうつむき加減に来た道を引き返そうとした。
「帰ってこい」
僕は、あたりを見回した。
一羽のカラスが、僕を見ていた。
僕は、そこに爺さんの魂のカケラのようなものを感じた。
***
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