人を育てる苦悩と喜びは人生におけるスパイスとスイーツかも……。 (『赤毛のアン』のマリラから学ぶ)
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記事:かのん(ライティング・ゼミ9月コース)
ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』をご存知だろうか?
孤児院暮らしだった赤い髪の毛の少女アン・シャーリーが、プリンス・エドワード島のマシューとマリラ(独身の兄妹)に引き取られてからクィーン学院を卒業するまでの少女時代を描いた小説である。
日本では村岡花子さんをはじめ多くの人が翻訳し、アニメ化や舞台化もされているので、その本を読んでいなくても、なんとなく聞いたことがあるという人もいらっしゃるだろう。
私にとって『赤毛のアン』は子供の頃から繰り返し読み返している大好きな本の1冊。だが、児童書ではないと思っている。大人になっても読む度に新しい発見がある。
今回は、マリラに思いを寄せてみた。
孤児のアンを引き取ったマリラは、どのような思いでアンを育てたのか。
もしかしたら、子育てや部下育成のヒントになるかもしれないと思っている。
アンは、感性と想像力が豊かで、素直で、明るく、自由奔放で、魅力いっぱいの女の子だ。
もし、そのアンと一緒に暮らすことができたら?
ユーモアにあふれ、笑いが絶えない楽しい毎日になるだろう。と思う人は多いと思う。
でも、本当にそうだろうか。
私がマリラだったら……
アンのことは大好きだが、正直、戸惑いの方が大きいと思う。
私がイメージするマリラは、堅実で論理的な考えの持ち主。信心深い。作法やマナーを重んじる。料理や家事が上手。常識人。つつましやかな日常の中で密かな喜びを感じる女性。
これは、この小説の時代背景である19世紀末という時代においては、典型的な家庭の主婦の生き方だったのではないかと思う。
兄とのふたりきりの平穏な暮らしの中で、ある日、突然やってきた賑やかな女の子アン。
アンはマリラとはとても対照的なので、マリラは苦労したのではないかと思う。
静かにしてほしい時もいつまでも続くアンのおしゃべり。それもほとんどが空想物語である。時には、マリラには鬱陶しいと感じたこともあっただろう。
料理が上手なマリラにはアンは相当不器用に映っただろうし、毎週、教会に通うマリラには眠る前にお祈りをしないアンは狂気に感じたかもしれない。癇癪もちのアンに手を焼いていたことも想像できる。
兄のムシューは、アンをひたすら可愛がり甘かった。孤児院で愛情に飢えていたアンには無条件に可愛がってくれる存在は必要だったと思うが、そうなると、躾役のマリラは厳しく接することになる。娘に甘いパパと厳しいママ、よく聞く話だ。
マリラもアンを愛おしく思ってはいたが、ムシューが甘い分、自分まで甘やかしてはいけないと律していたところもあったように思う。マリラは損な役回りだが、ムシューとマリラのふたりのおかげで、アンは愛情をたっぷり受けたレディに育ったのだと思う。
未婚で子育ての経験もないマリラは、アンの育て方について思い悩む日も多かったに違いない。でも、誠実にアンと向き合う姿勢を貫き、ムシューとは違った慈しみの心でアンを育てている。
「マリラ、よく頑張ったね」と、声をかけてあげたい。
もちろんマリラにも欠点はある。厳格すぎる。気難しい。少し皮肉っぽいところもある。多分、声に出して笑うことは滅多になかっただろうと思う。アンが来るまでは。
でも、私は、厳格なマリラの中に、少女のような純粋さや可愛らしい点も垣間見える感じがした。
アンという女の子に接することで、マリラは少女時代の自分を思い出したのだと思う。
自分は、どのような子供だったか。子供時代に何をしたかったのか。何を言われたら嫌だったのか。そして、今、後悔していることはないのか。
アンを通して、マリラ自身の人生を振り返ることで、マリラの頑なな部分が少しずつ寛容になり、マリラ本来の良さが出てきたように思う。
アンの成長と共に、マリラ自身も変化している。成長している。と、私は思う。
そして、マリラは、今まで経験してこなかった喜びに気づき、彼女の人生は精神的に豊かなものになり、幸せな日々を送っていたに違いない。
これは、マリラだけでなく、さまざまな人にも共感できることではないか。
子育てで日々奮闘している人、友だちや家族などの人間関係に悩んでいる人、部下育成で落ち込んでいる人……。
自分と同じ人間はいないのだから、アンとマリラのように、考え方や行動が違っていることが当然。同じように育つはずはない。思い通りにいくわけがない。そう思えば、少し気が楽になるのではないか。
マリラも、自分とは全く異なるアンを受け入れている。
アンの躾のために罰を与えるなど厳しく叱ることもあるし、マリラも悩んだり、心を痛めたりすることもあっただろう。
でも、マリラの素晴らしいところは、自分が間違っていた場合、誤りを認めてアンに謝っている。大人が子供に素直に謝ることができるのは、人として大事なことだと思う。
そして、何より、アンを信じて、アンの良いところを見つけようとしている。アンの良さをつぶさないようにしている。
マリラの想いはアンにもしっかり届き、ふたりは信頼という強い絆で結ばれていると思う。
私も、マリラのように、自分の弱さや間違いを認め、そして、周囲の人の強みを大切にしようと心がけているが、なかなか難しい。
時には、アンを育てたマリラを思い出し、マリラに励ましてもらっている。愛情と時間をかけて、人と向き合う大切さを教えてもらっている。
そして、自分自身や周囲の人の成長を感じた時の喜びはとても大きいことも知っている。
苦悩と喜びは、人生におけるスパイスとスイーツかもしれない。その両方があるからこそ、人生はより豊かなものになり、幸せを実感できるのだと思う。
私の心を豊かなものにしてくれた『赤毛のアン』の翻訳者の村岡花子さんに敬意と感謝を込めて。
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