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違和感を放置して、60万円と体の一部を失った


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記事:punneko(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
思えば1年以上前から、
違和感に気付いてはいた。
この小さな違和感を無視することが、
大金と体の一部を失わせることになるなんて……。
 
あれ?
おかしいな……。
あ、でも気のせいかも。
うん、
たぶん気のせい。
絶対気のせい。
 
違和感を受け流し
何も悪いことは起こっていない、
と自分に言い聞かせ、
不安な気持ちに蓋をする。
 
だけど1年を過ぎても
違和感がなくなることはなかった。
 
違和感というのは……、
右側の上の犬歯の歯茎の違和感、であった。
虫歯の痛みとはまた違う。
ただ、
噛むごとに歯が奥に入っていくような、
鈍い圧迫感が歯茎に走る。
 
だけど私が
選択した対応、それは
右側で噛むのを辞めて、
左側で噛む、であった。
なんと浅はかな対応。
今はそれがどんなに間違った選択だったかがわかる……。
 
皆さんは「予防歯科」をご存じだろうか。
半年に1回くらいの頻度で
歯科衛生士さんによる歯石除去やクリーニングののちに
フッ素を塗って仕上げていただくもので
同時に虫歯のチェックもしていただける。
私は20年くらい前から
定期的にこれに通っていた。
割合歯のメンテナンスはしていたほうなのである。
でも、ここ1年くらいは忙しくて行けていなかった。
 
絶対大丈夫なんだけど、
でも違和感が心配だから
久しぶりに予防歯科と検診をお願いしよう……。
意を決して歯医者さんに向かった。
 
「最近なにか気になるところとかありますか?」
歯科衛生士さんに尋ねられる。
「あの……。
右上の犬歯にちょっと違和感があるというか……。 
痛みとかではないんですけど……」
 
「イワカン、ですか。
でも虫歯ではないみたいですね。
ちょっと先生をお呼びしますね」
 
虫歯じゃないって! よかったー!!
私は心の中で喜びのガッツポーズをしていた。
 
歯医者さんが部屋に入ってきて、
私の歯を確認する。
「うーん、虫歯ではないですね。
 でもちょっと気になるところがあるから、レントゲンを撮ってみましょうか」
喜びのガッツポーズが下ろされた。
気になるところ……?
 
レントゲンを撮影し、
それを見ていた歯医者さんが「ん?」と
目を凝らした。
 
背中がひやっとなる。
 
「ここ……空洞になってるのわかりますか?」
私に、レントゲンを指し示す。
そこには私の犬歯が写っていて、
確かに歯根の周りが他の歯と違うようにも見える。
「わかるような、わからないような……」
私が言い終わらないうちに、歯医者さんはうん、とひとりうなずくと
「これCT撮ったほうがいいですね。うちで撮れるからやりましょう」
 
シ……シーティー?!
なんだか大仰な名前が登場してしまった。
歯医者さんの説明によると、
レントゲンではわからないような
立体的な情報を三次元で取得できるので、
違和感の原因が確定できるとのことだった。
 
小さな部屋に移動し、すぐにCT撮影が行われた。
機械がものすごい音を立てて頭の周囲をぐるぐると回る。
なんだか……大変なことになってしまった……。
ドキドキが止まらない。
 
撮影されたCTを見ている歯医者さんの顔が曇る。
「残念なことに、あんまりよくないですね……」
私の前に設置されたモニターに
CTと、レントゲンを並べて投影して見せる。
私の顔の骨や組織が輪切りになって
上から下から横から撮影されている。
それを面白がる余裕はもはや私にはない。
 
「ここ、歯に亀裂が入っていて、
歯の根元までそれが達しているんです。
歯茎に刺さっている歯根まで割れているから
そこから菌が入って。これはもう……」
「抜かなきゃいけないってことですか?」
歯医者さんの言葉にかぶせるように言った。
 
「残念ながらそうです」
「そんな……。 本当に抜くしかないんですか?」
「ここまで来ちゃうと、もう抜くしかないですね。
 たぶん1年前とか、それくらいから悪かったんじゃないかな」
まるでよく当たる占い師みたいに、
私が違和感を感じ始めた時期を言い当てられて私は無言になる。
 
「抜いたあとの対応はいくつか方法があります。両側に位置する歯を削ってかぶせるブリッジ法と、よくご高齢のかたがなさっているようなひっかける入れ歯形式のもの。最後は、インプラント法です。インプラント法は失った歯の代わりに人工歯を骨に固定する治療で、長期的に見れば自然な見た目と機能を保ちやすい。あなたのケースの場合、両側の歯は健康だから、削ってかぶせるブリッジ法はおすすめしません。ひっかける入れ歯も手入れが面倒だし、器具が目立ちます。おすすめは、費用はかかりますがインプラント法です。見た目もきれいだし、手入れも普通の歯とほとんど変わりません」
 
淡々と説明を続ける歯医者さんの声が頭の上を通り過ぎていく。呆然自失……。 
私の思考は止まったままだ。
「ただ、先ほども申し上げたように費用が全部で60万円ほどかかります。歯を抜いたあと、インプラントの歯を入れ込めるまでに治療期間を合わせると2か月近くかかります。その間に歯がないと見た目的に困ると思うので、抜いた歯で仮歯を制作し入れ込んで、その間も何回か消毒や治癒を促進するコラーゲンを……」
 
……ろくじゅう……まん……? 2か月歯がない……? 
なんで……? なんでこんなことに……?
 
「あの……
愚問だとは思うのですが、
 違和感を感じたときにもう少し早く来ていたら、抜くことにはならなかったんでしょうか……」
「申し上げにくいですが、その通りです。歯に関連することは、日にちを置いて悪くなることはあってもよくなることは絶対にありません。今回の件は、違和感を感じ始めたときにご来院いただいていればクラック(ひび)を早めに修正して、奥まで菌が入り込むのを防ぐ治療ができたと思います。抜くことにはならなかったでしょう」
 
こうして私は、
60万円という大金と、
体の大切な一部である歯を1本失ったのだった。
小さな違和感は、
放置すれば取り返しのつかない大きな損失につながる。
私はその代償を心と体で払ったのだ。
 
違和感を感じたら放置は厳禁。
勝手な自己判断をせず、
専門家に診ていただくことをおすすめする。
更に言うと、
定期的に予防歯科などの検査を受けることだ。
そうすることで、
自分の体とお金を大きな損失から守ることができるのである。
 
 
 
 

***

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2024-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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