小籠包の店
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記事:るるる
この一年間で近所のテンポが7つ、変わった。
その中でも注目すべきは我が家から徒歩3分のところに出来た小籠包の店である。
最初、出来たばかりの頃、その店の前を通った時に思ったことは、実にシンプル、言い換えると地味な店だな、ということだった。
店内は大して広くはなく窓側にカウンター席が4席、さらに小さめの円卓が2席、それでけだった。店内の内装も単に壁を白く塗っただけという簡単なものだ。各席には割りばしの入った縁卓上の入れ物と醤油とラー油がそれぞれ置かれていた。
店員も無口(実際にそうだった)そうな50代か60代の中国人男性が2名黙々と作業、言うなればメニューの総菜を作っていた。
メニューは実にシンプルで看板メニューの小籠包と餃子と焼売の3つ、これがメインで後はスープが一種類。卵とワカメの中華スープだ。それからドリンクが青島ビール一種類。
これで全てである。そんな内容でお客さんは入るんだろうか。私は大丈夫かなと、自分とは全く関係ないが思ってしまった。この辺りはそもそも同じような価格帯の飲食店が結構多いのだ。
私は好奇心が旺盛な方だと思う。それでいつも最低ランチ一回なら全ての飲食店に入ってみたい、というぐらい新しい物を口にしたり初めての店内に入ることに興味を持っている。
だから早速、その小籠包の店に入ってみた。その日はまだ開店して数日しか経っていなかったせいか、お客は自分だけだった。
メニューがテーブルに置いてある。せっかくだから看板メニュー、店名にも入っている小籠包にしてみよう。それらは3つ共600円だった。そして中華スープは400円。足して丁度千円になる。ドリンクはアルコールを飲めないのでやめた。
ふと横を向くと今までいなかったスタップがいた。30代に見える男性だった。
「お決まりになりましたか」
イントネーションから中国人とわかる。それにしても、さわやかで感じが良いのだ。
オーダーしたものは10分弱でさっと出てきた。蒸篭に入っており本格的だ(当たり前かも?)。小籠包は形よくトップがひねられ美味しそう。まもなく中華スープも出来てきた。
どちらも出来立ての熱々である。
「美味しい」ひとり言を発してしまった。それぐらい美味しかった。蒸篭の中には小籠包が3つ入っていた。早速、箸を入れてみる。小論包だから確か中にスープが入っているんだよね。ところが全くそんなことはなかった。スープは入っていなかったのだ。
これじゃあ、小さいサイズの肉まんじゅうじゃやない。そう思った。でも小籠包は出来立てのせいなのか、とても美味しかった。中華スープも溶き卵とワカメがベストマッチというのだろうか。よく合って美味しい。瞬く間に平らげた。
「お会計は千円になります」
オーダーを取りに来た男性がいう。お札で払う。価格も払いやすいものにしたのかな。ちょっと感心したりして。
「何か気がついたことありませんか」
彼がニコッと笑顔でいう。
そう言えば、「お酢があるといいと思います」
食べている時にふと気がついたのだ。
「そうですか」彼はひと言いった。
その後、特にその店に行くことはなかった。なぜなら私は基本的に毎回違う飲食店でランチをしたいタイプだからだ。だからその小籠包の店も行くことはなかった。
それから約2カ月が経った。
たまたま夕方、6時頃だろうか。小籠包の店の前を通った。すると5,6人行列が出来ていた。みんなおひとり様女子、30代から40代の女性達だった。会話をしている気配がないのでおひとり様と察しがついたのだ。
(えっ、すごい)
その翌日もたまたまその店の前を通った。また夕方時だった。するとまた数人並んでいる。
感心してしまった。あんなにシンプルなメニューなのに。きっと作り立てで、他の飲食店と違うってわかるのかも。価格もスープを頼めばちょうど千円だし。手頃なのかも。
その後もお昼時に店の前を通ってもやはり列は途切れることなくいつも数人並んでいる。
さっと店の中を覗くとお酢が各テーブルに置いてある。私のリクエスト、聞いてくれたんだ。嬉しくなった。こういうところが人気が出る秘訣なのかも。お客のリクエストをすぐ取り入れるなんて。また感心してしまう。
それから再びひとりでお昼時に入店してみた。今度は餃子と中華スープをオーダーした。
やはり美味しい。
新規参入って、この辺り店舗が多いから激戦だと捉えがちだけど美味しくて適性価格だとちゃんとお客さんは来るのだな、と教訓を得た。
それでも最近その店の前を通ると以前に比べると並ぶ人は減ってきたようだ。メニューが少ないから飽きられてきたのではないだろうか。
そう私は読んでいる。さあ、ここで次はどんな手を打つのだろう。あの感じの良い店員さんと他の二人は。
それをちょっと楽しみにしながら時々、その前を通る自分なのであった。
外国人の店でも成功するチャンスがあるとは日本って素晴らしい国だな、と思いながら。
***
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