メディアグランプリ

高潔なるオタクの苦悩

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田口志郎(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
これは私が聞いた、とあるアイドルオタクA氏のお話。
ファンであるアイドルグループへの愛と正義感は人一倍、でもちょっぴり生きることに不器用。
そんな彼が
「どうするのが正解だったんだろう?」
と頭を悩ませたというエピソード。
 
A氏はあるアイドルグループが好きだったが、ライブに参戦したことがなかった。それに対し「ファンとしてどうなの?」という思いは常にあった。そのため、ある時一念発起、全国ツアーで各地の公演に応募しまくり、なんとか地方公演のチケットを入手することができた。地方なのでいわゆる遠征することになるのだが、いかんせん初めてのことなので、勝手が分からない。ライブの終演時間もはっきりしないので、帰りの新幹線も、後泊の手配もせずに出発した。ライブは楽しいことはあれ、まさかあんな思いをするとは露知らず。
 
ライブは大盛り上がり。独りでだけど。推しが初ソロ歌唱に緊張し、涙ぐんで歌えなくなった時には、A氏は人生最大の声援を送って、自分も涙した。
 
ただ、終わった後が想像以上に大変。ライブは思っていたより長く、新幹線の最終に間に合うかどうか。そこから宿の手配も考えたが、A氏は生来の貧乏性が頭をもたげ、しなくてよい出費はするものかと、最終に乗る方にオールイン。駅に急ぐ人波に揉まれながらネットで指定席を取ろうとするも、当然のように売り切れ。乗車券だけ確保し、かろうじて最終の時間に間に合うことが出来たので、慌てて飛び乗った。
 
無事乗れても、一難去ってまた一難。そこには同じライブ帰りと思しき人達で溢れていた。自由席に座るどころか、通路も満杯。結果、指定席車両の通路に人垣の一部として立ちんぼとなる有様だった。
 
新幹線が進むに連れ、指定席に座っている乗客の中に途中の駅で降りていく人が現れる。必然、そこが空席となる。すると、その傍に立っていた人が空いた席に当然といった体で座る。
 
それを見たA氏の頭の中。
「そこは指定席だから空いたからって座っちゃダメなんだけどな。でも、こっから乗ってくる人もいないだろうし、誰かに迷惑かけるってものでもない。自分も立っているの辛いし、座りたいは座りたいけど……でも、やっぱりそこはちゃんと対価を払って、権利を買った人が座れるところだから。座っちゃダメだ。それに今はライブ帰り。ファンとしてグループを貶める行動をするわけにはいかない!」
自問自答の末、座らないことに決定。
 
しかし、その後も駅に到着する度、人が降りていき、空いた席に立っていた人が座るということが繰り返される。そして、最終的に立っているのは自分だけ。
 
再びA氏の頭の中。
「自分は正しい事をしているはずなんだけど、立っているの自分だけだし。自分が変なのかな? 周りからも『アイツ、なんで座らないんだろう? 変なヤツ!』って思われているのかな?」
奇異の目で見られていると思うと、途端に羞恥が凄まじく沸き上がってきて、居心地悪さがMAXまで急上昇。
 
三度A氏の頭の中。
「ああ、もう耐え難い! 座ってしまおうか……いや。いやいやいや! これしきのことで挫けては、気高きファンとしての名折れ。自分は正しい事をしている。『千万人と雖も我往かん』だ! 初志貫徹!」
結局、最後まで立ちっぱなし。最終的に、脚、震えてました。
 
新幹線を降りた後、A氏はさっきまでのことを思い出しながら考えた。
「あの局面で座るのが上手くやる、要領よく生きるって事? 自分は損して生きてるのかな。意味のない事に意地を張ってる? 間違っているのかな。いやでも、自分は正しい事をしたはず。負けずに最後まで貫いた。グループを想う気持ちも、自身を信じる気持ちも守れたことは誇りだ!」
とは言え、最後に自分を奮い立たせたときの勢いは既に失われ。悔しいような気持ち半分、誇らしい気持ち半分だったというのが正直なところ。とっても複雑な気持ちで帰路についた。
 
話は以上で終わり。今までA氏のこの話を聞いたみなさんの中に、批判的なことをいう人はいなかったけれど。でも、何人かから「A氏は生きづらそうだね」との意見はあった。自分はA氏に対して、共感しかないのだけれど。私も生きづらそうってよく言われる。だから、こういう行動は普通じゃないんだろうなって。でも正しい事をしているはずなのに、それが普通じゃないなんて。嫌な世界。
 
さて、みなさんはどう思った?
A氏は、高潔なアイドルオタク?
それとも、ヒロイズムに溺れるナルシシスト?
はたまた、ただ単に要領悪いマン?
 
 
 
 

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2024-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事