五十音図はすばらしい
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記事:向日葵
「なんでヤ行とワ行は3文字しかないの? 他の行は5文字なのに」と思ったことがある人はいないだろうか。この質問をされたら、私は嬉しくて飛び上がってしまう。私は「あいうえお表」がとても好きなのである。「あいうえお表」を見ると、ついついうっとりしてしまう。「あいうえお表」の中にサグラダ・ファミリアを見るからだ。
現在親しまれている「あいうえお表」の原型は、五十音図という。この五十音図、実はとても長い歴史を持っている。古くは平安時代、仏教の経典の中に登場している。平安時代から現代にいたるまで使用され続けている五十音図……なんという歴史! サグラダ・ファミリアもまた、古くから現在に至るまで建築され続けている。そして、多くの人々を魅了し続けている。私は、五十音図の中にサグラダ・ファミリアのような歴史的なロマンを感じているのである。
五十音図は、その構成の美しさもすばらしい。ア行で母音(aiueo)を示し、その後の行では、「子音+母音(か=k+a)」と構成されている。この構成、実は、仏教とともに伝来した悉曇学(しったんがく)というインドの語学研究が元になっていると言われている。当然インドと日本では言葉が違うので、僧侶たちがせっせと日本語に置き換えていったと考えられる。五十音図のルーツといわれる『孔雀経音義(くじゃくきょうおんぎ)』には、そもそも五十音書かれていなかった。並び順も今とは異なるものだった。今のような並び順になるまでに漢字の音も関わっていたという。今と同じ形になるまでだけでも途方もない労力がかけられている。とても一人ではできない地道な研究を重ねて、原型が平安時代に生み出された。一人の僧侶がなしえたのではない。サグラダ・ファミリアもとても美しい建造物だが、一人で作られているのではない。何人もの建築家や設計者がかかわり、一つの美しい建築物を作り続けている。五十音図も同じである。何人もの僧侶が研究し、書物を書き、それを読んだ僧侶が批判したり、考えを引き継いで発展させたりしてできたものなのだ。この、何人もの人々が時間をかけて作り上げた構成に心惹かれる。現代まで耐えうる構成の美しさ! この構成があるからこそ、小学校で「あいうえお表」として使用されているのだろう。どこにでもある「あいうえお表」でもついつい見入ってしまう。
五十音図の原型が生まれるだけでも大変な状況だが、この五十音図、実は中世ごろから並び順が間違えられるという困難な状況に直面していた。ア行の「お」とワ行の「を」が入れ替わっていたのである。それもそのはず、当時の日本語ではすでに「お」と「を」の発音の違いが失われていた。同じように発音する文字となってしまっていたのである。ヤ行の「い」「え」、ワ行の「ゑ」も発音の違いは失われていた。当然、行が間違っているなどとは誰も考えない。契沖(けいちゅう)の『和字正濫鈔(わじしょうらんしょう)』という書物がある。この書物、「仮名が間違っているから正しくするよ!」という趣旨で書かれていて、とても有名であるが、この書物でも「を」と「お」は入れ替わったままだった。これを訂正したのが本居宣長の『字音仮字用格(じおんかなづかい)』である。彼は『万葉集』での使用例を収集、分析し、「お」と「を」が入れ替わっていることを訂正した。これは、授業中に先生が話している内容を疑って、自ら証拠を探し、授業の最中に訂正しているのと同じくらい勇気が必要で、難しいことである。本居宣長であっても、長年の五十音図の間違いを疑うのは簡単ではなかったらしく、初期の本では、訂正されていないことがわかっている。それでも、彼は、その後に研究を積み重ね、「お」と「を」の位置を正しいものにした。サグラダ・ファミリアもスペイン戦争でガウディの設計図など建築するのに重要な書類が散逸したが、聞き取り調査や残っていた資料から今もまだ建築が続けられている。困難な状況にあってもそれを乗り越えて建築され続けるサグラダ・ファミリアと、研究の積み重ねから正しく訂正され、現在も使用され続ける五十音図。どちらも奇跡としか思えない。
五十音図はサグラダ・ファミリアのようなものである。歴史の長さ、その発展にかかっている情熱と努力の積み重ね、構成の美しさどれをとってもサグラダ・ファミリアに匹敵する。「あいうえお表」は簡単で、あまりにも見慣れ過ぎているため、こんなことは考えたことがない人も多いのではないだろうか。私もその中の一人だった。でも、五十音図の歴史に気づいてからは、「あいうえお表」を見るだけでうっとりしてしまうのである。
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