豊かさと幸せが乖離する国
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記事:森 きこ(ライティング・ゼミ11月コース)
三年の時を経て、日本に帰国後しばらく経った時だった。
私はこの一つの疑問が頭の中に浮かんだ。
何故こんなにも、みんな辛そうなのだろうか?
どこを歩いても安全で、道は綺麗に整備され、ゴミは少ない。
お店に入れば安価で高品質なサービスを受けることができる。
コンビニの店員でさえ、きちんと挨拶をし、お辞儀をしてくれる。
ガムをかみながら仏頂面で紙袋を投げ渡される、なんて事はまずない。
日本ほど「当たり前」の基準が高い国は、世界でも稀だろう。
しかし、同時に、日本ほど「幸せ」から遠く、善意が悪意で返ってくる国も、私は知らない。
少し、カナダにいた時の話をしよう。
その日は天気がよく、彼氏とピクニックに行くことになった。
ピザを購入し、二人で公園のベンチに座りながら地域が催していたサッカーを観戦していた。
催されていたサッカーの参加条件はあまり無いのか、そこにはいろんな人達がいる。
中にはボロボロの服を着ている人も。
しかし、共通して、皆少年の様にとても楽しそうにしていた。
しばらく、二人であーだこーだ言いながらピザをバクバク食べていたが、二人とも満腹にり、まだピザがたくさん残っているにも関わらず食べる手が止まってしまった。
なにしろピザを購入した際、店員が間違えて余分に一つ作ったのだ(その分のお金はきっちり払わされ、彼氏は怒っていた)。
持ち帰るには遠すぎるし大きすぎる。しかしもう一口も食べられない。
「これ、あの人達にあげようか?」
突然そう言った彼の視線を追ってみると、そこにはさっきまでサッカーを楽しんでいたボロボロの服を着た人達が7.8人程いた。
彼らは物欲しげに、私達の余ったピザをチラチラ見ている。いわゆるホームレスの人達だ。
しかし、あまりにも私の知っている日本のホームレスとは、様子もオーラも違っていた為、本当にホームレスなのか疑問を感じていた。
確かに、ボロの服を着ていたが、どこか小綺麗だったし、
何よりも、みんな表情が穏やかで満たされている様に見えた。
すると、彼は迷うことなくピザを持ち、彼らのもとへ行った。
「これ、余ったんだ。もしよければだけどどうかな? 捨てるのもったいなくて」
すると彼らはこれでもかというほど目を輝かせた。
「うわぁ、ありがとう! 今日はなんてラッキーな日なんだ!」
そういうと、誰が言いはじめた訳でもなくピザのピースを皆んなで分けはじめた。
ことば通り、とても幸せそうに私達の残りもののピザを頬張っていた。
彼らのお陰で私はその日、一日中とても良い気分だった事を今でも覚えている。
そして、日本に帰国後、私はあくせくとペットボトルを集めて回っているホームレス達がいるのを知った。
カナダの出来事もあり、私は自分たちの使ったペットボトルをゴミとして出さずにすべて寄付することにした。
私達は、70ℓのゴミ袋二つ分のペットボトルを両手に、トボトボとペットボトルを集めている老人に話しかける。
すると、何が起こったのか。
目の前のホームレスの老人は憤怒した。
「何様のつもりだ! 馬鹿にするな!」
そう大声を出しながら持ってきたペットボトルの山を、私からもぎ取って足早にそこから立ち去っていった。
私はびっくりしたと同時に、とても怖かった。
悪意のある大声と、何よりも、
わたしの善意が彼をそうさせてしまったのでは無いかという恐怖があった。
それだけでは無い。
ある日、コンビニから家に帰る途中の事だった。
私は、目の前のご婦人がバックを落としてしまい、中の物が道路に散らばってしまったのを目撃した。
急いで駆け寄り、物を集めるのを手伝おうとしたその瞬間、ご婦人は「触らないでっ!」と怖がった声で、私の手を跳ね除けた。
またしても私の行動が、ご婦人を恐怖におとしめてしまったのではと思った。
その日以降、私は学んでしまった。
「無闇に助けることは避けた方がいい」
本来、こんな事を学べきでは無い。
しかし、ことあるごとに自分の善意が、他人を不幸にさせてしまったのでは無いかと思わされた。
善意が善意として相手に届く。
この単純な事が、この国では難しいことのように思える。
もちろん、すべての人がそうではない。しかし、善意が拒まれたり、嫌な思いをする経験は私だけではないだろう。
だからこそ、道端で困っている人を見かけても素通りする人が多い国になってしまったのではないだろうか。
この国にとっての善意とはなんだろうか。
そこには文化や社会背景、そして相手の立場を思いやる想像力が関係しているのだろう。
何が自分にとっての幸せか?
なんのために生きているのか?
そんな根本的な疑問を持つ事すら難しいこの国では、ただの迷惑な自己満足である「偽善」になってしまうのだろうか。
それでも人は人である以上された事しか相手に与える事はできない。
だからこそ、私はこの国で、自分の目に困る人が映る限り、優しい連鎖を紡いでいこうと思う。
***
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