父の期待に縛られた僕が、本当の自分を見つけた日
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:内山遼太(ライティング特講)
「お前も、そろそろちゃんとした仕事に就いたらどうだ?」
久しぶりに実家に戻った僕に、父はそう言った。家族で囲んだ夕食の席、祖父母も母も楽しそうに笑っていたのに、父の一言でその場が一瞬で凍りついた。まるで心に雷が落ちたかのようだった。父の真剣な眼差しを見ていると、僕も反論する気が失せていくのがわかる。
僕は今、個人事業主として、手探りで自分のビジネスを始めたばかりだ。安定した収入もなく、生活は苦しいが、自分の力で何かを成し遂げたいという思いが僕を突き動かしている。そんな僕の思いを知らない父は、安定した職を持つことこそが「大人」としての義務だと信じている。
「いい加減に、周りに迷惑をかけるのはやめろ」
父の言葉がさらに続き、胸の内にしまっていた何かが破れた気がした。幼い頃から「親に認められたい」と思い続けてきた自分が、また顔を出すのを感じた。
学生時代、僕は常に父の期待に応えようと必死だった。勉強も部活も、進路も、いつも「親が喜んでくれるか」「家族に誇れる自分でいられるか」ばかり考えていた。周囲からの評価や父の期待を気にするあまり、自分の本当にやりたいことを選べなかった。僕を縛り続けていたのは、いつも「誰かに認められたい」という気持ちだった。
大学を卒業し、父の望むように一流企業に就職した。最初は、周りの友人や家族も喜んでくれたし、僕自身も「やっと期待に応えられた」と感じていた。しかし入社から半年も経つと、職場でのルーチン業務に心がしだいに擦り減っていくのを感じるようになった。出社と退社を繰り返す日々は、まるで自分が薄い膜に閉じ込められているようで、「このままで、本当にいいのだろうか?」という疑問が頭を離れなくなった。
「父の期待に応えるために選んだ道なのに、心が悲鳴を上げている……」
ある日、意を決して両親に相談し、「自分で何かをやりたい」と伝えた。けれども返ってきたのは「そんな甘えた考えではやっていけない」という父の厳しい言葉だった。それでも、自分の中に眠る「自分の力で生きてみたい」という想いをどうしても抑えられなかった。結果として、会社を辞め、自分で仕事を始める道を選ぶことにした。
退職してからの日々は、試行錯誤の連続だった。新しい仕事の知識を学び、営業にも自ら足を運び、ようやく最初の契約が決まったときには、思わず泣きそうになった。少しずつ仕事が形になり、収入も増え始めたとき、初めて「この道を選んでよかった」と心から思えた。
だが、実家に帰るたび、父は「いつまでフラフラしているんだ」と言い、母も心配そうな顔をして「あなたが幸せならそれでいいのだけど」と繰り返す。父の言葉が頭をよぎるたび、「やはり自分の選択は間違いなのかもしれない」という不安が、心に小さな影を落としていた。
そんなある日、仕事で関わっている先輩がふと、「自分らしく働いている君が一番輝いているよ」と言ってくれた。その何気ない一言に、これまでずっと抱えていた不安が一瞬で軽くなった気がした。家族にどう見られているかを気にするあまり、「自分の生き方」に自信を持てていなかったことに気付かされたのだ。その夜、鏡を見てみると、少し明るく見える自分の表情がそこにあった。「これが、本当の自分なのかもしれない」。そう思えた瞬間だった。
それからは、周りの声に揺るがない自分を少しずつ育てる努力を始めた。友人と話すときも、自分の仕事や夢を堂々と語るように心がけた。以前なら、家族にどう思われるかを気にして遠慮していたが、今では「誰かのため」ではなく「自分のため」に生きることを意識するようになっていた。
また、家族の期待に縛られている友人たちの相談に乗る機会も増えた。彼らもまた「親の期待に応えられないことへの罪悪感」に悩んでいた。僕は彼らに、「期待に応えることだけが人生じゃない、自分を大事にすることも大切だ」と伝えるようにした。友人たちは僕の話にうなずき、「少し気が楽になった」と言ってくれた。
そして一年が経った頃、再び実家を訪れる機会があった。父はまたしても「いつまでフラフラしているんだ」と厳しい顔をして僕を見た。今までなら、父のその言葉に反発しつつも言い返せなかったかもしれない。けれどその日、僕は意を決して「僕は今の自分を誇りに思っている」と言葉にした。
父は驚いた表情で黙り込み、少しうつむき加減に「…そうか。なら自分の決めた道を貫け」とだけ呟いた。その一言には父なりの理解と、僕への応援が込められているように感じられた。
あの日以来、僕はさらに強く自分を信じることができるようになった。誰かの期待に応えるためではなく、自分自身のために生きる。その選択が僕の心を強くし、どんな壁にも立ち向かう力を与えてくれるのだと確信している。
これから先も、どんな期待にも縛られず、自分の足で一歩ずつ歩んでいこう。
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