二次元にしか興味のなかった新婚の私が、Hey!Say!JUMPのせいで離婚の危機にいる話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:さくら(ライティング・ゼミ)
幼少期、ドラゴンボールのオープニングが始まったら母親を呼ぶように躾けられ、ONE PIECEと名探偵コナンを家族全員で見ていた私は、筋金入りの二次元オタクだった。もちろん初恋の人は土井先生だし、蔵馬にも恋をして、渚カヲルくんと綾波レイを守りたいと心の底から思っていた。
それがなんと、実在する人間と結婚した。豪勢な式など挙げずに、ひっそりと身内だけの結婚式だったが、大好きな人と永遠の愛を誓った私は、この上なく幸せだった。私の周囲はさぞ驚いたことだろう。
彼もアニメや漫画が好きで、そして誰よりも優しい。共にアマプラでアニメを観ては、笑ったり泣いたりして――そんな小さな幸せを毎日噛み締めていた。
けれども、そんな生活がある日一変した。
ある年、職場の後輩が、仕事上の大きな壁にぶつかっていた。彼女とはここ数年、とても親しくしており、二人で食事に行ったり遊びに行ったり、病める時も健やかなる時も共に働いてきた、大事な仲間だった。そんな彼女が、見るからに疲れ果てていたのだ。
見かねた職場の先輩が、
「彼女、大丈夫? ちゃんと支えてあげてね」
と私に声をかけてきた。私にできることなんてあるのだろうか、と考えていたら、後輩の言葉を思い出した。
「私、実は、Hey!Say!JUMPが好きなんです」
私はすぐにHey!Say!JUMP情報を探した。すると、なんと今週末にコンサートのチケットが一般販売するではないか! まさに運命としか言いようがない、と思った私はチケット争奪戦に挑み、そして勝ち取ったのだ。奇しくもその日は私の結婚記念日だった。
早速彼女を誘うと、目を輝かせて喜んでくれた。長年一緒にいたけれど、こんなに嬉しそうな顔を職場では見たことがなかった。
正月に東京ドームへ行くことになった私は「きちんと予習して行かないと、相手に失礼ではないか?」と思い、Hey!Say!JUMPについて学び始めた。これまで一般教養レベルの知識はあれど、実在するアイドルに対して、毛ほどの興味も無かった。強いていえば、「妹が同じ事務所の某グループのファンクラブに入っているな」「母親は生粋のテレビっ子だから、この事務所のアイドルに詳しいな」と、私からすれば、あくまで家族が観ている人たち、という認識だった。
だが、毎朝めざましテレビを観ている私には、唯一よく知っているメンバーがいた。それが伊野尾慧である。激務でしばしば理性と曜日感覚を失っていた私は、朝、重い身体を引き摺って布団から這い出ると、リモコンに手を伸ばして、毎朝、めざましテレビにチャンネルを合わせていた。そして彼を見るたびに、「ああ、今日は木曜日か、あと二日で休めるんだな」と人間らしい心を取り戻していたのだった。私は心の中で勝手に彼を「木曜日の貴公子」と呼んでいた。もちろん、それだけではなく「ニュースに対するコメントやリポートもいいな」とずっと密かに好感をもっていたのだった。これは、もうゆるい推しと言ってもいいだろうというくらい、彼のことはよく目にしていて、わりと好きだった。
調べていくうちに、今のメンバーは8人だということや、当時アルバムが出たばかりだということ、グループでInstagramをしていることが分かった。もちろん最新作のCDを購入し、インスタをフォローした。
Instagramを見ていたある日、ゆる推しである伊野尾くんと並んで、信じられないほど、かっこいい人が写っていた。私は雷に打たれたような衝撃を受け、すぐに怒りがふつふつと沸いてきた。我が家はずっとカウントダウンコンサートで年越しをしていたのに、どうして誰も教えてくれなかったのか。なぜこんなにもかっこいい人がこの世にいるって、私に言ってくれなかったのか。写真の画面をスクロールして、キャプションを見ると「#髙木雄也」とある。なんて恐ろしいんだ、髙木雄也。やるじゃないか、Hey!Say!JUMP。
俄然興味の湧いた私は、書店でアイドル誌を取り寄せたり、レギュラー番組を見たりして、グループの様子を見ると、なんとも仲の良い人たちだった。後輩が「わちゃわちゃ感が好き」と言っていた意味がよくわかる。私もだんだんと心惹かれていくのが分かった。三次元も捨てたもんじゃなかった。
そして年明け、ついに東京ドームで行われたコンサートに行った。初めて見る生のHey!Say!JUMPは、さらに輝いていた。席は遠くて、もちろんファンサなんて貰えないけれども、目の前に彼らが確かに存在していて、私のいる次元と彼らのいる次元とが繋がっていると感じられた。推しと自分を隔てる次元の壁が無いという、未知の体験だった。どのメンバーも魅力的で、瞬きすら惜しかった。終演後も余韻が残り続けた私は、帰りの電車の中で、前のコンサートのDVDを買い、ファンクラブに入会した。誰か一人、推しを選ばなければならないのだが、悩み抜いた末に結局、伊野尾慧を選択した。こんな簡単に入会できてしまうなんて、全く便利な世の中である。
以降、夫が家を空けると分かれば、後輩ちゃんに「今度、夫が出かけるから、うちに来ない?」と、不倫と疑われかねないような連絡をするようになった。実際には、我が家の大画面テレビで、Hey!Say!JUMP鑑賞会をしていたのだが。私がHey!Say!JUMPを好きになればなるほど、夫とアニメを楽しむ時間は少なくなった。
ある日、Hey!Say!JUMPが札幌ドームのフェスに出ることになった。私たちは初めての地方遠征をすることになり、浮かれていた。私は深く考えずに親に「今度、札幌行くけど、お土産何がいい?」と尋ねた。
「夫婦で旅行?」
「ううん、後輩と地方遠征だよ」
「夫婦として、大丈夫なの?」
私は、はっとした。どんなことも受け止めてくれる彼の優しさに甘えていた。
しかしHey!Say!JUMPの沼は、そう簡単に私を逃してくれそうにない。
せめて、こんな私を選んでくれた彼に捨てられないよう、今日も晩御飯は、彼の好きなものを作ろうと思う。
***
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