執着の原因は、将来への不安か
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:團 雅司(ライティング・ゼミ11月コース)
憧れている生き方がある。
ホテル暮らし、だ。
自分にはマイホーム志向がない。
子供の頃から引っ越しが多く、何度も転校を繰り返していたことが原因かもしれない。
毎度の引っ越しの中で、「今住んでいるアパートも、仮住まいなのだろう」と、子どもながらに考えていた。
そうは言っても引っ越し先は横浜市内で、区をまたいで移動する程度。おとなになってみると、移動距離自体は大したことがないのだ。
自分の老後、最低限の荷物で移動しながら生きる。
国内でも、海外でも。体が動かなくなったら、老人ホームにでも入るようになる、と家族と話している。
もちろん先立つものは必要なのだが、「ここで死にたい」と思う自宅は、私にはない。
それだって、自分の自由だ。
これに対して、自分の母親は真逆の人だった。
「いつか、一軒家に住む」ということを目標、というか、夢にしていた。
昭和一桁、という言い方ももう死語になってしまっただろう。そういう世代の人だ。
高度経済成長の中、ハイカラな公団にも入れず、寮の住み込みのアパートや、古い木造アパートを何件も引っ越した。
小学生の時に、電話番号が大家さんのもので、「呼び出し」と書かれていたことを覚えている。
この「呼び出し」という仕組みも、今となってはなんのことだろう、と思われるだろう。
アパートの自宅に電話が引いていなくて、学校の連絡網の電話は、隣に住んでいる大家さんの家にかかってくる。
大家さんが声をかけてくれて、大家さんの家に上がり込む。ここで小学校の連絡網を受けるのだ。
自分自身は気にもしていなかったが、周りの人間の話していることで、なんとなくそれが特殊なのだとは気がついていた。
そして、母親はその生活に大いなる不満を抱いていたらしい。
「物量」に執着する生活は、アパートぐらしの中で目立ち始めた。
狭いアパートで暮らしていると、こたつに座って全てに手が届くところに物がある。
そのくらいしか広さがないのだから。それに慣れてしまった母親は、少し広い部屋に引っ越しても、部屋の中をものでいっぱいにし始めた。
年老いた一人暮らしの母親の引っ越しは2度。どちらも業者の人が下見のときに開口一「何人家族ですか?」答えて「一人暮らしです」。
なのに当日引越し業者は、4人家族の引っ越しに相当する車に乗ってやってくる。
ベッドも一つ。テレビも一つ。なのに大量の洋服やタオル、アルバムに食料品、日用品。
「これは捨てちゃだめ。これこれのときに買ってきたものだから」
「これも捨てちゃだめ。誰それの思い出の品だから」
こうして部屋がもので埋め尽くされていく。
これを長年見てきたので、自分はできるだけ身軽な人間でいたいと思って生きてきた。
それでも、結婚したてのときに「本が多すぎる」と苦情をもらった。
年を重ね、自分の人生の終わりが見え始めた頃から、意識して物を買わないようにした。
新しい本もできるだけ買わない。
幸いなことに、時代はデジタル化。
紙でない本の読みづらさに辟易していたが、それでも努力した。紙の本を買うのは、できるだけ電子版のない本だけにしよう。
こうして、抵抗感を感じながらも、紙の本はほとんどなくなった。
電子書籍にも少しづつ慣れてきた。
この変化が可能になったのは、将来への見通しが具体的になってきたからだ。
平均寿命まであと何年。今の状態なら年間いくらいくらまでなら使えるな。
あとこのくらい貯めないと、仕事はやめられないな。
そんな計算ができるようになって、ホテル暮らしという選択肢も現実味を帯びてきた。
20年くらいのスパンなら、なんとなく見えてくる。
そうして先の計画を立てると、安心感が生まれる。
よくニュースなどで、
「将来が不安」
と答える若者を見て、最近になってやっとその気持ちがわかるようになった。
それは単なるお金だけの話ではない。
日々の生活に追われていることで、考える時間が奪われている。
SNSに煽られて、ものを買ったり、流行に乗ったり。
買う金がなければ、見て、羨んでいるだけ。
やがて社会の流れについていけない自分を責め始める。
自分の母親の持っていた、不安の正体はこういう人間の感情なのだろう。
人間は100年くらいでは変わらない。
これからの人たちにも、ぜひ気づいてほしい。
本当の自由は、家の形にも、物の量にもない。
みんながそうしていると、自分もそうしないといけない気になってくる。
でも、そこにはあなたの自由がある。
自分の未来を具体的に描き、自分らしい選択をする。それが本当の意味での不安からの解放なのではないだろうか。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00