野菜と巡る、五感の冒険
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
「野菜って、こんなに素敵な主役になれるんだ……」
凛とする寒さに、地面から温泉の湯気がふわりと立ち上がる。
霧がかった、大分の湯布院。
赤や黄に染まる山中に、静かに佇むホテル。
その日、私が出会ったのは、野菜そのものが主役のフルコース。
ただの食事ではない。
色、香り、音、味、感触。
野菜という豊かな「命」と巡る、五感の「冒険」が始まる。
由布岳と市街地を望む絶景、源泉かけ流しの温泉、ハーブガーデンを誇るホテルの核となるのは、ニューヨークのミシュラン星付きレストランで副料理長を務めたシェフが、総料理長として腕を振るうレストラン。
レストランには、決まったメニューはない。
ホテルのすぐ近くにある自社農園に、総料理長自身が毎朝足を運び、その日一番の収穫物を見極め、全ての料理を考案する。
コースの主役は、採れたての、新鮮で多種多様な野菜たち。
地元・大分産にこだわった、肉や魚、乳製品。世界中のお酒たちも、冒険には欠かせない。
まずは一品目。そのまま手でいただく「野菜のディップ」で、ワイルドに命をいただく。
一口大にカットされたカブ、パプリカ、ズッキーニは、手に取るだけで瑞々しさが伝わってくる。そして、控えめながらもキラキラと輝いている。
今年最後の収穫だったというズッキーニの「ポキッ」という音が耳に心地良く響く。
エグ味のないカブの上品な甘みとパプリカの鮮やかな色にも夢中になる。
傍にあるじゃがいものチップスのパリッとした手触りと、バジル香るディップソースのクリーミーさも相まって、早くも五感がフルで刺激される。
一品目から野菜の持つパワーを体感し、冒険への期待は一気に高まる。
次々とテーブルに届けられる料理に、お腹も心も満たされつつ、メインの魚料理と肉料理の間に運ばれてきたのは、「ブーケ」という名のグリルサラダ。
濃い緑のリーフやインゲン、ハーブ、鮮やかなオレンジのニンジンが、真っ白なプレート全体に絵画のように美しく盛り付けられている。
淡い黄色やピンク色のソースが、舞い散る花びらのように華やかさを添える。
見た瞬間、思わず笑みがこぼれてしまうその一皿は、料理であることを一瞬忘れてしまいそうなほど美しい。
口に運べば、ニンジンの甘さ、インゲンの爽やかな風味、リーフのシャキシャキとした食感が折り重なる。華やかでありつつ優しい味わいをしたリンゴソースやターメリックソースと、見事に調和する。
その一皿からは、素材が持つ本来の力強さと繊細さが感じられ、一つ一つの食材が主役として引き立っている。まさに「畑からの贈り物」だった。
五感を刺激する冒険は、いよいよクライマックスへ。
黒いプレートにそっと置かれたデザートが運ばれてきた。その主役は、ケール。
ケールの深い緑色がプレートの黒色と対比し、「侘び寂び」を感じさせる。
滑らかなケールのムースは、ほのかな苦みと甘さが調和している。一方、ケールのビスキュイは、サクッと軽やかな食感と香ばしさが印象的。素揚げされたケールは、ほろ苦さと大地の力強さを感じさせ、抹茶の香りが全体を優しくまとめている。
サラダや青汁でしか味わったことのないケールが、デザートとして主役を飾ったことに衝撃を受け、「どんな野菜でもメインになれる」という新たな可能性を感じた。
「野菜って、こんなに素敵な主役になれるんだ……」
野菜は好きだが、日常の中で野菜の可能性にほとんど気づけていなかった。
「美味しい」、「食材に感謝」という言葉だけでは表しきれない。
この夜のコースは一皿ごとに、野菜の「鮮やかさ」、「香り」、「音」、「手触りと食感」、「風味」をフルで体感できた、「命を味わう」冒険だった。
そして、「この野菜はこう食べるべき」という固定観念が見事にひっくり返された、刺激に満ち溢れた冒険でもあった。
総料理長の技術と感性、アイデアには驚きの連続だったが、ニューヨークの人気レストランで培った調理方法や技術だけでは成り立たない。
チベット出身の彼は、幼い頃から自然に囲まれた中で自給自足の生活を送り、農業や家畜の世話を手伝いながら、野菜や動物と共に育った。
ホテルの自社農園での野菜栽培でも、彼の故郷で受け継がれている農作業の知恵が生かされているとのこと。
ニューヨークで料理人として華々しいキャリアを積みながらも、湯布院の豊かな自然と食べ物に魅了され、「自分たちで最良の農園を作り、最高の食材を育て、その日の朝に収穫した新鮮な食材で、お客様を楽しませる」というホテルのコンセプトに共鳴し、来日を決めたという。
小さな頃から、大地、動物、農作物といった「命」と真剣に向き合い続けた彼だからこそ、人々を「ワクワクさせる冒険」へと誘う料理を創り上げることができるのだ。
家でハーブティーを飲みながら、あの日の冒険に思いを馳せる。
チェックアウトの前、「お家でも楽しんでください」と従業員の方からいただいたもの。ホテルのハーブガーデンで、大切に育てられたハーブが惜しげもなく使われている。
カップから立ち上る湯気とともに、ほのかな香りが部屋中に広がり、癒される。
またいつか、野菜が持つ「無限の可能性」と「命」を味わうために、あの場所に戻りたい。
次に訪れる時は、どんな野菜が迎えてくれるのだろうか。
その日の朝、農園で収穫された命が、また新たな冒険へと私を誘うのである。
***
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