メディアグランプリ

本当はね、パパとは、結婚するはずじゃなかったの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「本当はね。パパとは、結婚するはずじゃなかったのよね」
と母は、よく言っていた。
お料理が上手で、おやつは、いつも手作り。キレイ好きで、お掃除もお洗濯も完璧。
若気の至りだったのか、ほぼ働く事なく、世間知らずのままで、父と19歳で出会い、20歳で結婚、21歳で私を産んだ。
趣味で、お洋服やバッグを自分で作り、お花が大好きで、家の中やお庭はお花がいっぱい。センスも良くて、良妻賢母そのままを、生きているような女性だ。優しくて従順で、気遣いも出来るので、同居の義父母にも大事にされ、家族はみんな仲良しだ。
そして、母は家にいる時でも、メイクと髪型をバッチリ決め爪もきれい、美意識が高くて、細身で美しい。余談だが、喜寿を迎えた今でもネイルサロンに通い、美容院で髪を染め、家事も完璧にこなす。
 
子供の頃、母は私に「女の子はいつか、お嫁に行くんだから、完璧じゃないとね」
と言い、塾だけでなく、ピアノ、華道、着付け、茶道、お琴、英語、書道を習わせてくれた。
何でもテキパキこなし、芯が強い。私の自慢の母だ。父にとっても、自慢の妻だったに違いない。
 
しかし、父と母は1年に数回、激しく大喧嘩をした。
喧嘩が始まると、誰が止めても完全無視! どんどん激しさを増し、父も母も言葉を選ばず、大きな声で怒鳴り散らしながら、感情をぶつけて言い争う。現代でいう、モラハラ全開!
「本当は、パパとなんか、結婚するはずじゃなかったのよ」と母が、言い出すと
「もらってやったのに、何を今さら」
「だって、泣いて頼むから。仕方なくお嫁に来てあげたのに、なんなのよ」
バカだ、アホだ、クソだと。「お嫁に来て、パパには騙されたわ」
と、どんどん言葉がキツクなり、強く汚くなり、お互い一歩も引かずに、さらにエスカレートしていく。私の大好きな普段の母からは、全く想像もつかないような姿である。
そのままの激しい勢いで、母はタクシーを呼び、私を連れて実家に向かった。
 
母の実家は、築何百年という古い家で脈々と何代も続いてきたらしく、地元では有名な旧家で、とても大きな家だった。広いお庭には、ブランコやすべり台があり、背の高い大きな木がたくさんあり、鯉が泳ぐ池には、小さな滝も流れていた。
理由はどうであれ、かくれんぼしたり、走り回ったり、遊ぶところだらけ。とても楽しくて、私は、母の実家に行くのが大好きだった。
「こんな大きなお家。もしかしたら? 母は、お嬢様だったの?」と、ふと考えたりもした。
 
私が中学生の頃、父と喧嘩した母は、怒り爆発!
 「なんで私は、パパと結婚しちゃったんだろう。19歳だったから、何も分かってなかった」
「私は、藤原家の出身だから、パパとは釣り合わない!」さらに、
「本当は、パパじゃなくて、全然違う人のところに、お嫁に行くはずだったの」と、とても怒ってた。
何について怒っていたのか? 私は知る由もないが、「全然、違う人のところ?」という言葉は、衝撃的だった。
 
母は20歳の頃、両親や親族や周りの人たちに、父との結婚を猛反対されたらしく、押し切って結婚したようだった。
私は、思わず「どうして、猛反対されていたの?」と、聞いてみた。すると
「私の前の名前は、藤原(ふじわら)でしょ、ご先祖様は平安時代からの藤原氏の貴族の流れで、実家の周りは、藤原という姓ばかりで、お友達も周りもみんな藤原さんだし、藤原家どうしで結婚して、お家(おいえ)を支えて、繁栄させていく。のが、先祖代々続くしきたりなの」
と話した。さらに
「だって、ママは産まれた時から、ずっと藤原氏の血を引く、貴族のお姫様だから」と。
「えッ? お姫様って」
お嬢様と言うなら、少しは理解出来るが、お姫様って?
何? 母が突然、何を言い出したのか? 私には、理解出来なかった。
確かに、母の実家は良家だが、母は、お嬢様だったのか? お姫様だったのか?
 
そして、その後夏休みに、母の実家の大きな裏庭を発見した事で、驚くべき事実が分かった。
 
それまでは、私1人で外に出る事が怖かった。が、なぜか? どうしても気になり
「裏庭を探検してみよう!」と、興味津々であちこちに、行ってみた。
裏庭は想像以上に広くて、どんどん奥の方に行くと、そこに石の階段を見つけた。
私は、ドキドキしながら駆け上がってみた。すると、そこには大きな五輪塔があった。
「あれ、これは何? お墓かな?」と思い、じっと見上げた。
石塔の真ん中には、何やら難しい名前が彫られていて、横には、お墓建立の日付けと、20人くらいの建立者の名前が彫られていた。しかも、名前は全て‘藤原’だった。
「何、これ?」「なんで、全員が藤原?」
と、驚き! 慌てて家の中に、走って戻り、祖父に
「ママは、子供の時は、藤原さん? お祖父ちゃまも、お祖母ちゃまも、みんな藤原さん?」
「裏庭のお墓みたいなのにあった名前、全員藤原さんだったよ。何あれ?」
と聞いてみた。
すると、祖父は「このあたりの村は……。」と、話し始めた。
その内容は、諸説あるらしいが、
平安時代に天皇の皇子に仕えていた、藤原朝臣という人が、この山中に良材があると見つけて、一族と移り住んだ。という説と、
平安時代の戦で負けた、藤原氏の一部の軍勢が、とにかく生き延びる為に、東へ逃げた。そして、何とか京まで戻った。が、そのまま京にいては殺される。と、さらに東へ逃げた。すると、琵琶湖があり、反対側の岸へ船で逃げた。さらに東へ、目の前の険しい山を登り山を超えて、命からがら辿り着いた。という説。
いずれも伊吹山の東側で、ここに‘藤原さんだらけの村’が出来たらしい。どうやら、母の生家は、藤原氏がそのまま棲みついた。祖父も母も、その末裔らしい。
‘藤原さんだらけの村’で、生まれ育った母は、幼い頃から
「女の子は、おしとやかに。強くたくましく」と、藤原氏の貴族の話を何度も何度も、ずっと聞かされ
「家長の言う事は絶対、両親には感謝し口答えせず、家の手伝いをして、さらにお勉強に励み賢く、道とつく華道・茶道・弓道等を学ぶ」と育てられ、
成長し、大人になり
「良家に嫁ぐ事。を絶対とし、藤原家と藤原家の繋がりを重んじる事。子供を多く産み、男子を必ず出産し、家を繁栄させること」と厳しく育ち、今の母はある。さらに
「私は、藤原氏の貴族の流れでお姫様。何でも完璧でないといけない。いざとなったら、戦わねば!」
と、心に刻みこまれていたのかもしれない。
自分に厳しく、プライドも高い。父との喧嘩の時は「いざとなったら、戦わねば!」と、
‘猪突猛進’で、まっすぐに突き進む。
 
幼い頃は、母が喧嘩で言っている意味は分からなかったが、今、思えば……。
激しい言い争いの言葉の中に、母は、藤原氏の家系。という事をいつも強調し、繰り返していた。
母には、平安時代から戦乱の世を生き抜いてきた、お姫様の血が流れていたのだ。
母は、ただのお嬢様ではなく、お姫様だった!
とは、私の理解を超えているが、妙に納得出来る! というのは、不思議なものである。

 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事