まさか、息子と犬を間違えるなんて!
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記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ9月コース)
「え、僕? 何もしてないよ?」
キョトンとした顔の次男にそう言われ、私自身も一瞬、意味が分からなかった。
が、次の瞬間。全てを理解して、頭を抱えた。
なんということだろう。
まさか、我が子と飼い犬の名前を呼び間違えてしまうなんて!
しかも、自分でも全く気が付いていなかったなんて!
子供時代、私の母は、私たち兄弟の名前をよく呼び間違えていた。
「陽子!!」と呼ばれたので振り向くと、明らかに母の顔は弟か妹を見ていることが、よくあった。もちろん、逆もあった。
母も、読んだ直後に間違えたと思うみたいで、「陽子、じゃない、えーーーーっと…」と、名前を言い直す姿はいつもの風景だった。
子供が複数いたら、呼び間違えるもんなんだろうか。
しかし、私と妹を間違えるなら、まだ分かる。私と弟、弟と妹を呼び間違えるのは、どういうことだろう。異性だから、名前も全く違う。聞いていたら、伝えたい内容も、間違えようがないように思う。
子供だったら、性別の違いって関係ないんだろうか?
少し疑問だったが、母はもともと天然ボケなところがあったので、子供なりに納得していた。
自分も親になったら、子供の名前を呼び間違えるのかな。
でも流石に、性別が違う場合は間違えないような気がするけど。
そんな疑問が、ほわっと心の奥底に残っていた。そして私には2人の息子ができた。
呼び間違えるのかなと思っていた疑問は、あっけなく解消した。息子たちが幾つになっても、私は彼らの名前を呼び間違えることはなかったから。
母は、かなりそそっかしいところがあったので、きっとそのせいだろう。
そう思っていたのだけれど。
ああお母さん。私はやっぱり、あなたの娘です。
でも、なぜよりによって、次男と飼い犬の名前を間違えるんだろう。
しかも、それっきりではなかった。その後何度も、次男に呼びかけたつもりが犬の名前、犬を叱るつもりが、出てきたのが次男の名前、ということが起きた。
犬を飼っているママ友にそのことを話すと、「いや、犬と子供の名前を間違うとか、さすがにないわ」と、少し引かれた。
どうしてだろう。自分でも不思議で、よく考えてみた。おそらく、何か共通点があるはずだ。
そうしてひとつ思いついた。次男は、私にとって末っ子。息子はどちらも可愛いが、どうしても中学生の長男より、まだサイズも小さくて、コロコロしている次男の方が、見た目にも可愛い。
不登校なので全く外に出ないため、ぷにぷにと太ってしまっているけれど、それもまた、ゆるキャラみたいでとっても可愛い。
その可愛さが、まだ我が家にきたばかりのポメラニアンの子犬と、重なるのだ。
実際に、次男と飼い犬が遊んでいる姿が、丸っこい子犬がじゃれあっているようにしか見えず、とても微笑ましい。
そこまで考えて、ふと思った。母が私たち兄弟の名前をしょっちゅう間違えていたのは、子供達全員を、平等に大切に想ってくれていたからじゃないだろうか。
私は、3人兄弟の一番上だ。2つ下に弟、5つ下に妹がいる。
母にとって初めての子供だった私は、かなり厳しく育てられた。どれくらい厳しかったかと言えば、同じように躾けようとしたら、弟はチックと夜尿症になってしまったくらい、厳しかった。
このままでは弟が壊れる。当時、母はそう思ったらしい。少しずつ厳しい手を緩めていった母は、末っ子の妹に対してはさらに甘かった。
子供時代、そのことを母に指摘したことがある。私にはもっと厳しかったのに、と。
それに対して母から返ってきた答えは。「あなたは強かったから、大丈夫だったけど。弟は繊細だから、厳しくできなかったんよ。そのうちにお母さんも厳しくするのに、疲れちゃったし」だった。
それは、私の望む答えではなく、反抗期でもあった私は、ずっとそのことで母に対して、怒りを抱えていたのだ。
もちろん、育ててもらったことに感謝はしている。それでも、私に対してだけ厳しかったことは数え上げればキリがなく、何年も心の中に、恨みの気持ちが蓄積され続けていた。
ここ数年で心理学を学んだ私は、そんな母に対する恨みや怒りの気持ちとも向き合ってきた。
その中で、次第に母への怒りは薄れ、恨みを手放し、昇華させることができた。
感謝の気持ちも自然と湧き、私が望む形ではなかったにせよ、母なりに私のことを大切に思ってくれていたんだ、とも思えた。
だから、今更母に対して、私と弟妹の名前を呼び間違えていたことについて、怒りや恨み、寂しさなどの感情は残っていない。おっちょこちょいだなあ、という気持ちくらいしか。
それでも改めて、母にとって、私と弟妹は同じくらい大切な存在だったということを感じることができた。
もしかしたら、私の考えすぎかもしれないけれど。こういう考えすぎは、悪くはないだろう。
母にとって、私と弟妹は同じくらい大切な存在だった。
そして私にとっては、次男と飼い犬は、とても愛くるしい存在である。
ただ、次男はやはり、犬と名前を間違えられるのはイヤみたいなので、できるだけ気をつけるようにした。
確かに、「ほら、ご飯だよ〜」と、自分の名前を呼ばれながら、犬のご飯を置かれるのはいい気持ちではないかもしれない。
ごめんね、次男。できるだけ気をつけるから、たまに間違っちゃうのは許してね。
***
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