「短所は愛されポイント」のことばに救われている?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松本尚美(ライティング・ゼミ9月コース)
小学校時代から、私は忘れ物の王様だった。
忘れ物で叱られた一番古い記憶は、小学校1年生のころ。
教室の中。私が座っている席の前に先生が仁王立ちして腕を組んでいた。「いかにも私は怒っているのですよ」と言わんばかりの怖い顔。
下から先生の顔を見上げていた私は「ワア、先生のあごが、梅干しの種になっている!」と、目を丸くしていた。ポイントのずれた反応に、「のれんに腕押し」と感じられたのか、先生は同じクラスの、私の近所に住んでいるしっかり者の女の子に向かって「忘れ物がなおらなくて困っているって、お母さんに言っといてくれる!?」と振り上げた拳の降ろしどころを変えた。
小学校三年生の頃だった。教室に「忘れ物表」が張り出されていた。
忘れ物をする度に自分の名前の上に×が上に積み上がっていく。棒グラフのような表だった。
気がついたときには、私の名前の上に××××××……。
1列目、2列目の天上まで行って3列目に突入。他の子は多くても1列目の真ん中へんだった。
この時の記憶が私の頭の中に写真のように焼き付いていて「私は忘れ物の王様に違いない!」という確信にお墨付きをくれている。
小学校4年生に上がった頃には、下校時にランドセルを教室に忘れた。
手提げカバンだけ持って下校した。
手提げカバンの中の本が気になって仕方がなかった。早く読みたくて、下校途中にある神社の参道で座り込んで本を読むのに夢中になった。
学校では、ぽつんと一つ、教室に残されたランドセルを発見した先生達が大騒ぎ。
校内放送で「校内にいたらすぐに職員室に来てください!」と私の名前が何度も呼ばれていたそうだ。その日の放課後、運動場に残って遊んでいた友達が翌日私に教えてくれた。
自宅に電話しても私が家に帰っていないというので、いよいよ先生達は大騒ぎ。その頃の小学校は昔ながらのボットン便所だったので「トイレの中に落ちたのでは?」
と構内すべてのトイレをのぞいて回ったり、「誘拐されて裏山に連れて行かれていないか?」と裏山に登ったり。大捜索してくださったようだ。
結局、自宅近所を探してくれた母に見つかった。
母には一言も叱られず。ひたすら「良かった!」と安堵の言葉をかけられた。
「叱られる!」と覚悟を決めて翌日学校に登校したが、担任の先生からも「ああ、無事でよかった!」と優しい言葉をかけられた。叱られるよりも堪えた。「もう忘れ物をしないでおこう」
心に誓ったはずだった。
しかし、大人になっても「忘れ物」横綱歴を更新してきた。
各電鉄の「お忘れ物センター」に詳しくなった。
京阪梅田のお忘れ物センターに行ったときは近くに日本画家の美術館があることを知り、観に行った。その日本画家の大ファンになったというおまけがついた。
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近鉄のお忘れ物センターは鶴橋駅の改札の外にある。忘れ物を取りに行くだけでは時間も電車代も無駄なので、鶴橋ツアーをすることにした。街を散策して美味しいものを食べ、お土産にキムチを半月分くらい買って帰ってきた。
ジップつきファイルを電車の中に置き忘れた時には、あり得ない奇跡に感動した。
中に入っていた、その日に私が交換した一枚の名刺が手がかりになったそうだ。
名刺の電話番号に係の人が連絡を取ってくれて、私の連絡先が判明したとのこと。
名探偵のような「落とし物係」さんに、できる事なら直接会って感謝の気持ちを伝えたいと今でも思う。
ある日は「五条警察所」から電話がかかってきてびっくりした。京都の地下鉄五条駅の切符売り場に私の銀行通帳がおいてあったらしい。「なぜそんなところに通帳を出して、置くのか?」自分の行動が不可解だ。
家の鍵を落としたときには娘にこっぴどく叱られた。海外に住んだことがあるので少し感覚が過敏になっている面もあるのかもしれないが。「家のドアを変えなければならないような重大なことをしたのよ。お母さん、分かっている?」
「忘れ物」のおかげで沢山の人生勉強をさせてもらった。ありがたい事でもあるが、忘れ物は私の最大の短所。悩みの種だった。
忘れ物をすると消耗する。取りに行く手間暇時間が実に勿体ない。そして、何よりも「恥ずかしい」「何とか忘れ物をしないようにしたい」といつも緊張して過ごしてきた。
しかし!
とある学習会での、とある言葉で私の人生が変わった。
「人は長所で他人を助け、短所で愛される」小説の中のヒーローでも、必ず短所がある。何でもできてしまうオールマイティーの人物は、人の記憶に残らない」
「短所は愛されポイントなのです!」
「なるほど、その通りだ!」いくつかの物語を思い出し辿ってみて痛く納得した。
その翌日のこと。
出張先でのこと。いつものようにヨガレッスンの指導を終えて会場の外に出た。
「あれ? 携帯がない!」私は急いで会場に戻った。会場に残っていたスタッフの人達の緩んだ笑顔。優しく温かかった。
会場を出てから「やった! 愛されポイント発揮!」と、心の中でガッツポーズをした。
忘れ物をして「良かったな」と思えた。会場の人達とぐっと近づけた感じがした。「忘れ物をしたことで愛される」そんなことを感じたのは初めてだった。
「あれ、最近、忘れ物のことが気にならなくなっている!」
その件があってから半年ほどたった。
「私は忘れ物の王様ではなくなっているかもしれない」ことに気がついた。
「忘れ物をしてはいけない」と緊張することがなくなった。
忘れ物をすることは、今でもあるにはある。が、不思議と気にならなくなっている。
先生のあごの「梅干し」も、×の積み上がった忘れ物表の記憶も「う・す・れ・は・じ・め・て・いる!」
「忘れ物をするのが私の愛されポイントかもしれない」と思えるようになった。
こんな「私の現在」が、過去の記憶を書き換えはじめている。
「ものは考えよう」と言うが、私は面白い体験をしはじめているようだ。
***
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