家族愛溢れる詩吟おじさん
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
「沙和ちゃんはまだ結婚せんのか。早く良いお相手見つけんとなぁ」
いとこの結婚式で、私に「失礼な」一言を言い放った、親戚のおじさん。
父方の祖母の弟で、当時70歳ぐらい。長年、詩吟を趣味とし、師範代を持つほどの腕前らしい。
この日の披露宴でも、結婚式の定番である「高砂」を高らかに吟じたおじさん。
親戚の結婚式には必ず出席し、必ず「高砂」を披露するらしく、私の両親の披露宴でも吟じたらしい。
大学の外国語学部で学び、ジェンダー論もかじっていた当時20歳の私。結婚の「け」の字も考えてなかった。
おじさんは悪気なく口にしたかもしれないが、「女の幸せは結婚」という古い価値観を押し付けられたような気がして仕方がなかった。
私はまだまだたくさん勉強したい。海外にもたくさん行って、色々な世界を見てみたい。
私の未来は無限大なのに。
「私が今、結婚するの? 本当にありえない!」と心の中で叫ぶ。
お酒をたくさん飲んで上機嫌なおじさんとは対照的に、私の顔つきは険しい。
「なに、このおじさん。感じ悪い」
私の中で、この「詩吟おじさん」は真っ先に「苦手な人リスト」に入った。
その数年後、詩吟おじさんから実家にあるものが届けられた。
なんと、おじさん自作の本。定年後の余生の一つとして、自費で自叙伝なるものを作ったらしい。
表紙は、良くも悪くも簡素な作り。冊子はオール白黒。高校の時にもらったような卒業文集みたいなクオリティー。
「うちの親戚には有名人も偉人もいないし、おじさんだって普通のおじさん。こんなものを作って、何になるの?」
とは言え、知識とやる気さえあれば誰でも本が簡単に作れる今と違って、自費で本を作るのはお金も時間も手間もかかる。
おじさんはこの本に相当な思い入れがあったのだろう。
ページをパラパラとめくる。
自身の生い立ち、数十年に渡る教員生活や家族とのエピソード、詩吟で築いた人脈、自作の詩吟、超短編恋愛小説も収録された、300ページにわたるデラックス版。
さらに、親戚全員が記された家系図、親戚それぞれの家族構成等の簡単な説明や写真も収められている。
TVの題材になるような目を引く偉人はいないし壮絶なドラマもないが、有名人の先祖を辿るNHKの番組「ファミリーヒストリー」さながらの手間と情熱が込められている。
「おじさんの熱意に根負けした。読もう!」
詩吟おじさんは、長崎の五島列島で産まれ、大家族の中で育った。
高校卒業後は働くつもりだったが、成績優秀だったおじさんは周りの後押しを受け、九州地方のとある国立大学に入学した。
卒業後は、長崎県内の高校で40年以上教師として働いた。
その間に結婚し、子宝や孫にも恵まれたおじさん。
仕事に励みながら趣味の詩吟を極め、師範代を持つほどの腕前をつけた。雅号も持っている。
この一冊には、おじさんの人生がぎっしりと詰まっていた。
家族のために働き、教師として多くの生徒を育て上げ、趣味の詩吟や執筆にも励む、真面目で、社交的で、一生懸命なおじさん。良いおじさんだ!
私の父親の幼い頃の写真も載っていた。
他の兄弟と一緒に、おそろいの白いタンクトップ姿ではにかむ白黒写真。私の弟にそっくりで、微笑ましい。
父親は、自分の小さい頃の写真を絶対に見せてくれないので、貴重な一枚だった。
一番印象的だったのが、私の祖母のエピソード。
おじさんが小学生の頃、教室の移動をしていた時にたまたま、運動場でなぎなたの授業を受けていた祖母を見かけたらしい。
「背筋をすっと伸ばし、大きな掛け声とともになぎなたを振るう姿が、この上なく凛々しく美しかった。そんな姉のことを、弟として誇りに思った」と記していた。
数十年前の、ほんの数分もない出来事を、今でも鮮明に覚えているなんて。
「記憶力が良いね」という言葉では片づけられない。
おじさんは、アクティブで、家族愛に溢れた、太陽みたいな人だ。
そして最近、天狼院書店の講座で毎週文章を書くようになってから、おじさんに対して親近感が湧くようになった。
講座の課題として、毎週2,000字程度の文章を書き、フィードバックをもらっている。
まだまだ習い始めで、自分の書いた文章がウェブに掲載されるかどうか一喜一憂しながらも、ペンネームだけは一人前に作って「なんちゃってライター」気分を味わっている。
平日はフルタイムで仕事をしている中、何とか書く時間を捻り出し、毎回締切日と戦って課題を提出する日々。
受け始める前は「毎週2,000字以上の文章を書くなんてできるかな?」と不安だったが、不思議なことに、書くことが楽しくて、書きたいネタもどんどん湧き出てくる。
おじさんも、働きながら詩吟や短編小説の創作活動を続けていた。それも数十年間。そして、家族と親戚愛に満ちた一冊の本を作りあげた。
きっと、書くことが好きなんだろう。いや、絶対大好きだ。
もしかして私は、おじさんの血を受け継いでいるのかも?
私とおじさんって、実は似た者同士だった!
「私の苦手な人リスト」から完全におじさんは消え、親近感溢れる、愛すべき詩吟おじさんになった。
お互い遠いところに住んでいるからなかなか簡単には会えないけど、無性におじさんに会いたくなった。
詩吟おじさん、いつか私が結婚する時には「高砂」を吟じてね。
***
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