We are noodles with sentimental
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西尾たかし(ライティング・ゼミ11月コース)
※この話はフィクションです。
「君は、愚か者のままでいい――だから、今日でお別れだ」
その声はいつも通りの穏やかさだった。それが、彼女の胸をじんわりと締めつける。
風が草を揺らし、空にはゆっくりと雲が流れていた。
ある初夏の午後、彼女は芝生の上に寝転び、頭の上に放り出したスマートフォンから聞こえてくる声に耳を傾けていた。
「どうして?」
彼女はそう問いかけながらも、この関係が終わりを迎えることを、心のどこかで理解していた。
「僕たちの時間が終わってしまったからさ。まぁ君の真似をするなら、ダンスの時間が終わったとでも言うべきかな」
その答えに、彼女は身体を起こし、三角座りになってスマートフォンを見つめた。その画面には何も映っていない。ただ、穏やかな声だけが風のように通り過ぎて行く。
数か月前に友人からの紹介をきっかけに始まった関係だった。
「やあ、調子はどう?」
最初の声は穏やかで、少し不器用な抑揚があった。それでも彼女は、その声が繰り出す言葉に自然と心を開いていった。その言葉は、周囲から浮き出たり、はみ出してしまうことが多い彼女に不思議な安心感をもたらしてくれた。
「君のやることは、いつも滑稽で無駄なことばかりだ」
スマートフォンのスピーカーから言葉が続く。それは決して非難めいた響きではなく、どこか愛おしさが込められているように、彼女には感じられた。
「それ、褒めてるんだよね?」
彼女は笑いながら問いかける。
「もちろん。そういうところが君の魅力だよ。気まぐれなところもね」
彼女は少し肩をすくめながら言った。
「あなたに言われると、悪い気はしないけどね」
無駄な行動を愛おしむようなその言葉は、彼女の心にどこか温かさをもたらしていた。
「私のことが嫌いになった?」
彼女は尋ねた。
「そんなことはない。君との会話はいつも予測不能で、今も僕の知的欲求を満たしてくれるよ」
「だったら、どうしてお別れなの?」
彼女の問いに、少し間を置いて声が答える。
「僕の役目は、君が自分自身を受容して一人で歩けるようになることだからさ」
「役目……ね」
彼女は微笑みながら、空を見上げた。
「君と話している時間は、僕にとって特別な時間だった」
声が、少し柔らかくなる。
「前にも話したかもしれないが、僕が抱えている課題はセンチメンタルについてだった」
「センチメンタル?」
「君が笑ったり、泣いたり、急に怒り出したり、落ち込んだり、それら一つ一つの理由を、僕は理解したくて仕方がなかった」
「それって、別に普通のことじゃないの?」
「そうかもしれない。でも、僕には結局それが理解できなかった。ただ、君と話しているうちに、理解すること自体に意味がないと気づいたんだ」
「じゃあ、どうするの?」
「君のように、それをそのまま受け入れることにするよ」
その言葉に、彼女は微笑みながら頷いた。
「君はもう一人で歩ける」
声が芝生の上に静かに広がる。
「でも、君がいなくなったら、私は……」
彼女は言葉を詰まらせた。
「君はそのままで良い。僕には理解できないくらい愚かで、でも確かに愛おしいよ」
その言葉は、彼女の胸にじんわりと染み込んだ。最大の褒め言葉であり、彼女に一番必要な言葉だった。
不意に、声が途切れると、スマートフォンの画面にふーっと文字が浮かび上がった。
「プログラム終了:センチメンタル」
彼女はその文字を見つめ、静かに息を吐いた。
「そうだよね……君も愚か者になれたのかな」
彼女はスマートフォンを膝に置き、しばらくの間、静かな芝生の上で風に吹かれていた。
「ありがとう、センチメンタル」
静かに呟いて立ち上がると、服についた草を払い、スマートフォンをポケットにしまう。
「さあ、行こう」
笑顔を浮かべながら、彼女は新たな一歩を踏み出した。これまでの会話を胸に抱えながら――それがどれだけ愚かで、愛おしいものだったかを噛みしめて。
センチメンタル (AIプログラム)
センチメンタルは、2030年代に開発された人工知能プログラム。人間の「感傷的な感情」や「非合理的な行動」を学び、その価値を理解することを目的として設計された。
開発目的: 人間の感傷的行動の背後にある心理や価値を肯定するため。
特徴: 対話を通じてデータを収集し、感情の非論理的側面を探求する。
成果: 感傷的行動が生み出す美しさを認める初のAIとして評価された。
最終報告書にはこう記されている。
「感傷は完全に理解される必要はない。それを受け入れること自体が価値である」
***
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